「インディー・ロック」カテゴリーアーカイブ

Cursive “The Ugly Organ” / カーシヴ『ジ・アグリー・オルガン』


Cursive “The Ugly Organ”

カーシヴ 『ジ・アグリー・オルガン』
発売: 2003年3月4日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 現在のネブラスカ州オマハのインディーズ・シーンの源流的な人物、ティム・カッシャー(ケイシャー)(Tim Kasher)が率いるバンドの4枚目アルバム。

 エモーションが爆発するボーカルと、直線的に突っ走るだけではないアレンジとサウンドが融合した1枚。疾走感があり、エモーショナルでありつつも、ストリングスやオルガンの使用など、それだけにとどまらない音楽的なレンジの広さがあるアルバムです。

 2曲目の「Some Red Handed Sleight Of Hand」では、イントロからバンドが波のように上下しながら躍動します。バンドだけでも十分に疾走感とグルーヴがあるのに、ストリングスがさらなる厚みをプラス。歌が入ってきてからも、緊張感を煽るように迫るストリングス、不安を醸し出すようなフリーなキーボードなど、様々なサウンドが塊となって押し寄せます。

 しかし、音楽の中心はあくまでエモーショナルなボーカル。そのボーカルを、さらに後押しすよるように分厚いアンサンブルが形成されています。2分弱しかないのに、情報量が多くスケールの大きい1曲です。

 4曲目「The Recluse」は、クリーントーンのギターとバイオリンが絡み合うメローな1曲。再生時間1分過ぎからの間奏の、音数を絞り、弾きすぎないエレキ・ギターも良い。

 6曲目「Butcher The Song」。立体的に響きわたるドラムと、フレーズにもハーモニーにも、不協和な響きを持つギターによるイントロ。その後はバイオリンも入り、ポストロックやマスロックを思わせる違和感たっぷりのアンサンブルを聞かせます。個人的に、かなりお気に入りの曲。こういう違和感を魅力に転化させるような曲が好きです。

 9曲目の「Harold Weathervein」は、スリルと緊張感を演出するストリングスのフレーズと、フィールド・レコーディングされた音源、感情を抑えた陰鬱なボーカル、バンドの演奏が、レイヤー上に重なり、溶け合っていく1曲。再生時間0:50あたりからの壮大でドラマチックな展開が、めちゃくちゃかっこいいです。

 エモーショナルなボーカルを中心にした歌ものでありながら、ストリングスが大活躍、バンドのアンサンブルにはメタルやプログレ、エモ、ポストロック、カントリーやフォークの要素まで感じられる、多彩なアルバム。

 こんなバンドが大都市ではない街で、インディペンデント・レーベルと共に活動しているというのがまた、USインディーズの奥深さです。

 





Jeff Hanson “Jeff Hanson” / ジェフ・ハンソン『ジェフ・ハンソン』


Jeff Hanson “Jeff Hanson”

ジェフ・ハンソン 『ジェフ・ハンソン』
発売: 2005年2月22日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: A.J. Mogis (A.J.モギス (モジス, モーギス))

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のシンガーソングライター、ジェフ・ハンソンの2ndアルバムです。アルバムのタイトルも『ジェフ・ハンソン』。上の記載は、間違いではありません(笑)

 初めてジェフ・ハンソンを聴いたとき、女性ボーカルを招いているのかと思いましたが、彼自身の声です。女声と聞き間違えるほどの高音ヴォイスで、繊細にメロディーを紡いでいきます。まさに透き通るような、透明感の高い声でありながら、同時にエモーションを歌に乗せる表現力も備えたボーカリストです。

 本作も、思わず聴き惚れてしまうほど心地よい、彼のハイトーンが響きわたります。アコースティック・ギターやピアノを中心に据えたアンサンブルに、時としてラウドなサウンドも同居し、歌を前景化しながらも決して歌だけではない、幅広い音楽性を持ったアルバムでもあります。

 1曲目「Losing A Year」は、たっぷりと余裕を持ったスローテンポで、アコースティック・ギターと声が染み渡っていくような1曲。自分の部屋で聴いていても、異世界に迷いこんだかと錯覚するような、幻想的で雰囲気のある声です。再生時間3:54あたりからバンドが加わり、暖かくいきいきとした躍動感あふれるアンサンブルを形成します。

 3曲目の「Welcome Here」は、決して激しく歪んだギターを全面に押し出した曲ではないものの、アルバムの中ではラウドでソリッドな耳ざわりの1曲。しかし、うるさいということではなく、生命力に溢れたグルーヴ感のある曲です。

 7曲目「This Time It Will」は、晴れた日に森の中をスキップするような、楽しくいきいきとした空気を持った1曲。緩やかにグルーヴしながら加速するアンサンブルが心地いい。

 このアルバムの聴きどころは、なんといってもジェフ・ハンソンの繊細で表現力あふれる声であることは、間違いありません。彼の声の支配力、多彩な表現力は、それだけで音楽が成立してしまうほどのオリジナリティです。

 また、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据えながら、多種多様なサウンドを効果的に用いて、いきいきとしたバンドのアンサンブルが楽しめるアルバムでもあります。

 ジェフ・ハンソンは2009年に31歳の若さで亡くなってしまうため、本作を含めて残したアルバムはたったの3枚。本当に残念です。僕たちは、彼が残した美しい音楽を、大切に聴きましょう。

 





Brainiac “Hissing Prigs In Static Couture” / ブレイニアック『ヒッシング・プリッグス・イン・スタティック・クチュール』


Brainiac “Hissing Prigs In Static Couture”

ブレイニアック 『ヒッシング・プリッグス・イン・スタティック・クチュール』
発売: 1996年3月26日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ), Eli Janney (イーライ・ジャニー)

 オハイオ州デイトンで結成されたバンド、ブレイニアックの3rdアルバムです。バンド名は、通常は「Brainiac」という表記ですが、本作では「3RA1N1AC」と表記。

 このアルバムが発売された翌年の1997年に、ボーカル、キーボード、ギターを担当するティム・テイラーが交通事故死。バンドは解散し、本作が彼らの最後のアルバムとなってしまいます。

 ノイジーでジャンクなサウンドと、時にパンキッシュな、時にパーティー感のあるボーカルが融合した1作です。2000年代以降のポスト・パンクやシンセ・ポップのような、80年代の音楽を現代的に解釈したバンドとは、明らかに異質なサウンドを持っています。

 本作で聴かれるのは、ジャンクでローファイな色が濃く、しかしアングラ過ぎるということもない、オリジナリティ溢れる音楽です。

 1曲目「Indian Poker (Part 3)」は、極限まで圧縮されたようなディストーション・ギターのサウンドから始まる、50秒ほどのイントロダクション的な1曲。この時点でかなり特異な音を発しています。

 2曲目「Pussyfootin’」は、ざらついた耳ざわりのローファイ色の強いギターに、パンキッシュなボーカルが絡む1曲。レコードのスクラッチのような音など、多種多様なサウンドが飛び交い、アングラ臭も強いのにカラフルな印象の1曲。

 5曲目の「Strung」は、ささやくようなボーカルの奥で、耳障りなノイズやアンビエントなサウンドが鳴り続ける1曲。

 10曲目の「70 Kg Man」は、アルバムの中でも、特にジャンクなサウンド・プロダクションの1曲。立体的でパワフルなドラム、硬い音色のベースなど、ロック的なダイナミズムも持ち合わせています。ギターなのかも、もはや分かりませんが、イントロからリフを弾くギターらしき音は、歪ませ過ぎ圧縮し過ぎて音痩せしたようなノイジーな響き。

 ジャンクでローファイな音質。アンダーグラウンドを思わせる音楽でありながら、全体としては比較的聴きやすくポップに仕上がっている1作です。

 僕もリアルタイムではなく後追いなので、当時どれぐらい注目されていたバンドなのか分かりませんが、隠れた名盤とはいかないまでも、隠れた良盤とは言えるクオリティの作品だと思います。

 





Loose Fur “Born Again In The USA” / ルース・ファー『ボーン・アゲイン・イン・ザ・USA』


Loose Fur “Born Again In The USA”

ルース・ファー 『ボーン・アゲイン・イン・ザ・USA』
発売: 2006年3月21日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 ジム・オルークとグレン・コッチェ、ウィルコのジェフ・トゥイーディによるバンドの2ndアルバムであり、最後のアルバム。グレン・コッチェは、後にウィルコに加入することになります。

 『Born Again In The USA』という示唆的なタイトルを持った本作。その名のとおり、古き良きロックンロールや、フォークやカントリー等のルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、それだけにとどまらないアレンジとアンサンブルが展開されるアルバムです。ジム・オルークとウィルコが融合した作品だと思えば、納得できる音楽性。

 1曲目の「Hey Chicken」は、イントロからディストーション・ギターが鳴り響き、シンプルなロックンロールが炸裂する1曲です。しかし、縦のぴったり揃ったアンサンブルや、フックとなる効果的な楽器の重ね方など、ウィルコっぽさを感じさせる部分もあり。

 2曲目「The Ruling Class」は、緩やかにグルーヴしていくカントリー風味の1曲。口笛の音色も牧歌的な空気を色濃くしています。

 4曲目「Apostolic」は、ポストロックやマスロックを思わせる、リズムが周期的に切り替わる、緻密なアンサンブルが特徴の1曲。インストでもおかしくない雰囲気ですが、歌が入ってきて、ポップ・ミュージックの枠組みも備えています。再生時間0:56あたりからのメロディアスなベースと、流れるようなアコースティック・ギターなど、聴きどころとなるフックが、続々と放たれます。

 5曲目「Stupid As The Sun」は、シンプルな縦ノリのリズムと、意外性のあるコード進行が融合した1曲。イントロからの第一印象はシンプルなロック色の強い曲ですが、違和感が耳に引っかかり、クセになっていく曲です。

 8曲目「Thou Shalt Wilt」は、キーボードとベースが前に出た、立体的な音像を持った1曲。

 前述したとおり、一聴するとシンプルなロックンロールに聞こえるような曲にも、いたるところに音楽的なフックが配置されていて、聴けば聴くほどに魅力が増していく作品です。

 僕はジム・オルークもウィルコも大好きなのですが、期待を裏切らない1作。両者のどちらかが好きな方は、聴いておいて損はない作品だと思います。そうではない方にも、十分オススメできる1作!

 





Joan Of Arc “How Memory Works” / ジョーン・オブ・アーク『ハウ・メモリー・ワークス』


Joan Of Arc “How Memory Works”

ジョーン・オブ・アーク 『ハウ・メモリー・ワークス』
発売: 1998年5月12日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)
プロデュース: Casey Rice (ケイシー・ライス), Elliot Dicks (エリオット・ディックス)

 シカゴのエモ、ポストロック・バンド、ジョーン・オブ・アークの2ndアルバム。

 オーガニックなアコースティック・ギターと電子音、実験性と歌ものポップ性のバランスが絶妙だった1stアルバム『A Portable Model Of…』。本作は、実験性とポップさのバランスをとりながら、さらに音楽性を広げた1作と言えます。

 1曲目の「Honestly Now」は、電子音のような、マレット系の打楽器のような音が響き、やがて増殖していく1分にも満たない曲。ただのエモ・バンドではないことを、早速認識させられます。

 2曲目「Gin & Platonic」は、つっかえながらも突っ走る、ポストロック的=ロック的でないアンサンブルが構成される1曲。緩やかに絡み合う2本のギターと、独特のタイム感で刻んでいくリズム隊が心地よい。

 4曲目「This Life Cumulative」は、鳥のさえずりのような音域の電子音が鳴り響くイントロから、躍動感あるパワフルなバンド・サウンドが、堰を切ったように入ってきます。エモやパンクを下敷きにしながら、電子音が楽曲に彩りをプラス。

 5曲目「A Pale Orange」は、前半はギターと歌が入っているものの、やがて高音の電子音とノイズが降り注ぐ展開。後半は完全にアンビエント・ミュージックか、エレクトロニカのような音像。

 8曲目「A Name」は、各楽器が前のめりに、お互いを追い抜きあうようなイントロが心地よい。歌もサウンド・プロダクションもポップで聴きやすい曲ですが、アンサンブルは緻密。

 1作目以上に、エモ的な歌唱と疾走感、ポストロック的なアンサンブルや電子音との融合が、高次に実現されている1枚です。エモい声とメロディーに、実験性を忍ばせた知的なアンサンブルが絡む、絶妙なバランスのアルバムだと思います。