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Rumah Sakit “Rumah Sakit” / ルマ・サキッ『ルマ・サキッ』


Rumah Sakit “Rumah Sakit”

ルマ・サキッ 『ルマ・サキッ』
発売: 2000年12月26日
レーベル: Temporary Residence (テンポラリー・レジデンス)
プロデュース: Jeremy deVine (ジェレミー・ディヴァイン), Scott Campbell (スコット・キャンベル)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のインスト・マスロック・バンド、ルマ・サキッの1stアルバム。バンド名はインドネシア語で、病院を意味するとのこと。(「Rumah Sakit」は「sick house」に相当するらしい。)

 マスロック、ポストロックに強いレーベル、テンポラリー・レジデンスからのリリース。プロデュースは、同レーベルの設立者であるジェレミー・ディヴァインが手がけています。

 テクニカルなフレーズと、多彩なリズムによって織り上げられる、マスロックかくあるべし!というアルバム。というより、2000年にリリースされた本作が、その後のマスロックに影響を与えた、と言った方が正しいんでしょうね。

 静と動を往復する音量面でのコントラスト、テンポとリズム・フィギュアを緩急自在に操るリズム面でのコントラスト。その両面が、バランスよくアンサンブルに溶け込んでいます。

 1曲目「I Can’t See Anything When I Close My Eyes」は、アルバムの幕開けにふさわしく、理路整然とした部分と、荒々しくドライブしていく部分が共存し、多様な音が降りそそぐ1曲。タイトにキメるところと、ラフに音が押し寄せるところを使い分け、メリハリの効いたアンサンブルが展開。

 2曲目「Scott & Jeremiah」は、ゆったりとしたリズムの中で、音数を絞ったミニマルなアンサンブルの前半から、徐々に音が増えていき、後半は怒涛の展開を見せる1曲。

 3曲目「Careful With That Fax Machine」は、ギターの複雑なフレーズが絡み合い、不協和な響きを持った不思議なサウンドができあがる1曲。クリーントーンを用いたソフトなサウンドの前半から、後半は歪みを多用したパワフルでハードなサウンド・プロダクションへ。

 4曲目「Wind & Wing」は、細かい音が有機的に組み合い、ひとつの生き物のような躍動感のあるアンサンブルを展開していく1曲。ゆるやかなパートと、激しく躍動するパートを往復する、コントラストが鮮やかな曲です。

 6曲目「Stomachache Due To The Sincere Belief That The Rest Of My Band Is Trying To Kill Me」は、複雑なリズムを刻んでいくドラムに、テクニカルで変幻自在なギターが絡みつき、爆発力を伴って疾走していく1曲。歌の無いインスト・バンドではありますが、エモーショナルで音の情報量に圧倒されます。

 各楽器ともテクニックに裏打ちされたフレーズを繰り出し、アンサンブルも正確かつ変幻自在。アルバムを通して次々と音楽が表情を変え、展開していく、スリリングな1作です。





Hella “Tripper” / ヘラ『トリッパー』


Hella “Tripper”

ヘラ 『トリッパー』
発売: 2011年4月30日
レーベル: Sargent House (サージェント・ハウス)
プロデュース: Andy Morin (アンディー・モーリン)

 カリフォルニア州サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラの5thアルバム。ギターのスペンサー・セイム(Spencer Seim)と、ドラムのザック・ヒル(Zach Hill)による2ピースで活動を開始し、4作目となる前作『There’s No 666 In Outer Space』では、ボーカルも含む5人編成へ。5作目と本作では、再びザックとスペンサーの2人編成になっています。

 ヘラの魅力というと、卓越したテクニックを持つ2人による、変態的とも言える複雑かつ緻密なアンサンブル。それが前作ではボーカルも加えた5人編成となり、だいぶ普通のロックバンドのフォーマットに近づいたなぁ、と感じておりました。

 その理由を簡単に説明するなら、歌のメロディーがあることで、楽曲の構造が掴みやすくなり、5人編成となることで各楽器の超絶プレイよりも、アンサンブルが前景化されるため。しかし、前述したとおり、本作では再び2ピースというミニマルな編成に戻っています。

 個人的には2人編成のヘラが大好きだったため、聴く前から本作の期待値は高まっていました。本作はその期待通りに、尖ったサウンド・プロダクションで、アグレッシヴなアンサンブルをたっぷりと聴かせてくれます。僕が聴きたかったのは、これです!

 5人編成の前作の内容が悪かったということは全くないのですが、やはりバカテク2人による、ワルノリのような変態的なアンサンブルがヘラの魅力であり、唯一無二。また、5人編成でアルバムを作り上げたことで、アプローチの幅が広がったと感じる部分が多々あり、前作はムダではなかったとも思います。

 全編ボーカルレスに戻ってはいるのですが、以前にも増して1曲の中でのコントラストが鮮やかで、楽曲の構造がわかりやすくなっています。このような変化を予定調和と捉えて、ネガティヴな評価を下すことも可能かもしれませんが、個人的には楽曲と演奏のバランスが向上していると思います。

 各人のプレイだけを取り出しても、圧倒的なテクニックでリスナーに高揚感を与え、さらに楽曲の展開によって、その高揚感をより高めています。語弊を恐れずに言えば、これまでのヘラの魅力を損なうことなく、聴きやすくポップになったアルバムと言えるでしょう。

 1曲目の「Headless」から、細かい高速リズムと、ゆったりとタメを作る部分が繰り返され、リズムが伸縮するように心地よく疾走。直線的に走るよりも、メリハリがあり、疾走感が際立っています。ギターとドラムの関係性も、ひとつの塊のように転がるところと、絡み合うようにグルーヴしていくところがり、非常に機能的です。

 2曲目「Self Checkout」は、高速で叩きまくるドラムに、厚みのあるディストーション・サウンドのギターが乗ります。手数の多いドラムと比較すると、ギターは余裕を持ってフレーズを弾く部分が多く、複雑な高速リズムと、ロック・ギターのかっこよさが、絶妙に共存しています。

 3曲目「Long Hair」は、上から叩きつけるようなドラムと、マシンガンのようなギターが組み合わさる、疾走感と一体感のある1曲。

 4曲目「Yubacore」は、ややテンポを落とし、ギターとドラムが絡み合う、アンサンブル重視の曲。ギターのフレーズには歌心があり、楽曲も循環する構造を持っており、展開も多彩。楽曲構造もアンサンブルも機能的で、完成度の高い1曲です。

 5曲目「Netgear」は、イントロから、メリハリをつけて音が押し寄せるパートと、リズムをためるパートが繰り返されます。

 6曲目「Kid Life Crisis」は、電子的なジャンクなサウンドから始まり、その後はリズムにフックを作りながら、タイトなアンサンブルが展開。

 7曲目「On The Record」は、ギターの奏でるメロディーが爽やかで、ドラムはタイト。疾走感の溢れる1曲。

 日本人なら触れないわけにはいかないのですが、10曲目には「Osaka」という曲が収録されています。大阪にインスパイアされて作った曲なのか、詳細は確認できませんでしたが、ザック・ヒルの千手観音ドラミングが存分に堪能できる1曲です。

 アルバム全体を通して、収録される楽曲の質が、とても多彩。ボーカルは入っていませんが、歌モノのポップソングのような雰囲気も持ちつつ、ヘラらしいサウンドとアンサンブルの根源的なかっこよさも、損なわれていません。ここまでの5枚のアルバムの中では、本作が最もバランスが良く、万人におすすめできる作品だと思います。

 ちなみに本作はサージェント・ハウスからのリリースですが、5枚のスタジオ・アルバムで、4つ目のレーベルです。最初の2枚は、5ルウ・クリスティーン。その後、スーサイド・スクイーズ、イピキャック、そして今回のサージェント・ハウスへと移籍しています。

 





Hella “There’s No 666 In Outer Space” / ヘラ『ゼアズ・ノー・666・イン・アウター・スペース』


Hella “There’s No 666 In Outer Space”

ヘラ 『ゼアズ・ノー・666・イン・アウター・スペース』
発売: 2007年1月30日
レーベル: Ipecac (イピキャック)

 カリフォルニア州サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラの4thアルバム。これまでは、ギターのスペンサー・セイム(Spencer Seim)と、ドラムのザック・ヒル(Zach Hill)による2ピースでしたが、本作では3名のメンバーを加え、5人編成となっています。また、これまではインストが基本でしたが、本作は全編でボーカル入り。

 加入したメンバーは、ギターにジョシュ・ヒル(Josh Hill)、ベースとキーボードにカーソン・マックフィルター(Carson McWhirter)、ボーカルにアーロン・ロス(Aaron Ross)。ジョシュはザック・ヒルの従兄弟、カーソンは別バンド、アドバンテージ(The Advantage)におけるスペンサーのバンドメイトです。

 これまでのヘラは、スペンサー・セイムとザック・ヒルによる、テクニックを駆使した曲芸的なアンサンブルが特徴でした。前述したとおり、本作ではボーカルも加えた5人編成となり、一聴したときの印象が、かなり異なっています。

 2人編成の頃には、ギターとドラムのテクニカルな演奏自体が、主要な聴きどころとなっていましたが、ボーカルも含む5人編成に拡大されたことにより、よりメロディーとアンサンブルが前景化。言い換えれば、演奏の質とストイックなアンサンブルが特徴だった2人編成に比べて、より一般的なロックバンドに近いバランスになった5人編成です。

 とはいえ、今までのヘラが持っていたテクニカルな魅力や、ノイジーなサウンドも多分に含まれており、より間口が広くなったアルバムと言えるでしょう。

 1曲目「World Series」は、グルーヴ感に溢れる部分と、ぎこちないぐらいにタイトなリズムが同居し、5人編成の新生ヘラの方向性を端的に示しているようです。手数の多いドラムと、金属的なキレのあるギターが中心となり、メリハリのついたアンサンブルが展開されます。

 2曲目「Let Your Heavies Out」は、各楽器がバラついた印象のイントロから、タイトに組み合った疾走感あふれる演奏へと展開していきます。リズムが次々と切り替わる、多彩な表情を持った1曲。

 5曲目「The Things That People Do When They Think No One’s Looking」は、ポリリズミックに細かくリズムを刻むドラムに、各楽器がノイジーに絡み合います。展開が多彩で、プログレ色の濃い1曲。

 ヘラのサウンドは、高速ドラムと鋭く歪んだギターが中心に据えられることが多いのですが、6曲目「Hands That Rock The Cradle」では、ドラムの上に電子音らしきサウンドが飛び交い、一風変わったサウンド・プロダクションになっています。テクノに近い音像を持った曲ですが、多様なサウンドが四方八方から飛んでくる、カラフルで賑やかな1曲。

 7曲目「2012 And Countless」は、空間を漂うようにノイズ音が回転していく、アンビエントな前半から、縦の揃った数学的なアンサンブルの後半へと展開する1曲。前半と後半でのコントラストが鮮烈で、今までのヘラにはあまり聞かれなかったアプローチです。

 11曲目「There’s No 666 In Outer Space」は、多様な音が乱れ飛ぶ、複雑怪奇なアンサンブルに、ソウルフルな歌唱のボーカルが合わさります。歌が無かったら、非常に尖ったマスロックですが、歌メロが入ることで、ポップな様相も併せ持っています。

 ボーカルが入ることで、曲の展開が掴みやすくなり、5人編成に拡大することで、アンサンブルもロックバンドらしくなっていますが、随所に超絶テクニックが散りばめられています。

 ザック・ヒルとスペンサー・セイムによる、バンドのコアな部分はそのままに、バンドを拡大することで、聴きやすさが向上。一般的なロックバンドに近い表層を持ちながら、圧倒的なテクニックに裏打ちされた、複雑なアンサンブルも共存するアルバムです。

 ちなみに、本作に続く5thアルバム『Tripper』では、再び2人編成へ。

 





Hella “Church Gone Wild / Chirpin Hard” / ヘラ『チャーチ・ゴーン・ワイルド / チャーピン・ハード』


Hella “Church Gone Wild / Chirpin Hard”

ヘラ 『チャーチ・ゴーン・ワイルド / チャーピン・ハード』
発売: 2005年3月22日
レーベル: Suicide Squeeze (スーサイド・スクイーズ)

 ギターのスペンサー・セイム(Spencer Seim)と、ドラムのザック・ヒル(Zach Hill)による、カリフォルニア州サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラの3rdアルバム。これまでの2枚は、キル・ロック・スターズのサブレーベル、5 Rue Christineからのリリースでしたが、本作はスーサイド・スクイーズからリリースされています。

 ディスク1が『Church Gone Wild』、ディスク2が『Chirpin Hard』と、それぞれのディスクにタイトルが付けられた2枚組のアルバムです。しかし、ヘラ名義でのリリースではありますが、『Church Gone Wild』はザック・ヒル、『Chirpin Hard』はスペンサー・セイムのソロ・アルバムとなっており、純粋なヘラの作品とは、趣向が若干異なります。

 とはいえ、2人の変態的なテクニックはもちろん健在。これまでのヘラらしい部分も、多分に含んでいます。ヘラの特徴というと、非常にテクニカルな演奏を繰り広げながら、サウンドやアレンジに、思わず笑ってしまうぐらい、コミカルな要素や、やりすぎな部分があるところ。いわゆるポップな歌モノではないにも関わらず、とっつきやすさを持っているところが魅力です。

 本作も、メンバー2人それぞれの演奏とアイデアが、ノイジーかつカラフルに展開されます。前述したとおり、2枚組でそれぞれのディスクが、それぞれのソロ作品となっているので、個々の音楽的志向を知る上でも、興味深い作品と言えます。

 ディスク1『Church Gone Wild』は、ザック・ヒルのソロ作。ドラム以外にもギターやボーカルが入っていますが、全てザックによる演奏とのこと。

 手数の多い高速ドラムを中心に、ノイジーなギターや絶叫系ボーカルが飛び交う作品になっています。ドラムが本職のザックだけに、ドラムがアンサンブルの主軸になるのは納得ですが、ギターや電子音などがドラムに絡まり、思いのほかカラフルな世界観を作り上げています。

 例えば3曲目の「Half Hour Handshake: Movement 3」では、叩きつけるようなパワフルなドラムに、ピコピコした電子音が絡まり、親しみやすさを演出。再生時間2:00あたりからは、ボーカルが入り、ドラムがメタリックなサウンドへ。そのまわりで多様な音が飛び交う、ノイジーでカラフルな1曲です。

 ディスク1全体を通して、ノイズ要素を多分に含んでいるのに、どこかコミカルで、ハードルの高さを感じさせないところは、これまでのヘラの音楽性と共通しています。

 ディスク2『Chirpin Hard』は、スペンサー・セイムのソロ作。こちらはヘラというよりも、ファミコンの楽曲をカバーする、スペンサーの別バンド、アドバンテージ(The Advantage)に近い音楽が展開されます。すなわち、正確なテクニックとファニーな音色を用いて、ポップで親しみやすいメロディーを奏でる作品。

 1曲目「Gold Mine, Gold Yours」から、まさにファミコンを彷彿とさせるピコピコ系の音色によってメロディーが奏でられ、そこにリズムマシーンのように、画一的なビートが重なります。

 2曲目「Song From Uncle」では、サウンドがよりソリッドに。しかし、高音域のギターと思われる音色は、押しつぶされたように奥行きが無くチープ。そんなチープな音色で、テクニカルなソロが披露されていきます。

 7曲目「Dad For Song」は、各楽器が歯車のように噛み合い、アンサンブルを構成。かっちりと制御された演奏が続きますが、再生時間1:28あたりから、ジャンクでラフな展開を見せます。

 12曲目「Chirpin Hard」では、前半はファミコンを彷彿とさせる電子音が使われ、なにかのゲームのボス戦のテーマ曲のような、スリリングなアンサンブルが展開されます。

 ディスク1とディスク2共に、マスロックらしい魅力を持ったアルバムであると思います。ディスク1は、高速ドラムを中心に、ロックのダイナミズムと疾走感を凝縮したようなかっこよさが随所にあり、ディスク2には、ロックのアンサンブルの機能性と、そのかっこよさが詰まっています。

 メンバー2人のソロですが、それぞれのディスクに、ヘラと共通する部分、異なる部分があり、ヘラの音楽性がどのような個性の衝突によって出来上がっているのか、その過程を垣間見ることもできます。

 現在のところ、AppleとSpotifyでは配信されておりませんが、Amazonでは配信されています。ちょっと珍しいパターン。





Hella “The Devil Isn’t Red” / ヘラ『ザ・デビル・イズント・レッド』


Hella “The Devil Isn’t Red”

ヘラ 『ザ・デビル・イズント・レッド』
発売: 2004年1月20日
レーベル: 5 Rue Christine (5ルウ・クリスティーン)

 ギターのスペンサー・セイム(Spencer Seim)と、ドラムのザック・ヒル(Zach Hill)による2ピース・マスロック・バンドの2ndアルバム。前作に引き続き、キル・ロック・スターズのサブレーベル、5 Rue Christineからのリリース。

 カリフォルニア州サクラメント出身のバカテク2人によるマスロック・バンドです。マスロックとは、数学を意味するmathが冠されているとおり、非常に高度なテクニックを持ったメンバーが、ロック的なフレーズやダイナミズムを内包しつつ、複雑なアンサンブルを理路整然と組み立てていく音楽。

 本作は、凄まじいテクニックを持ったギタリストとドラマーが、躍動感と疾走感に溢れたアンサンブルを繰り広げる、まさにマスロックと言える音楽が展開されるアルバムです。しかし、ただテクニックをひけらかすだけではなく、コミカルで親しみやすい部分も持ち合わせているのが、このバンド及び本作の魅力。

 1曲目の「Hello Great Architect Of The Universe」は、プッシュ回線のピコピコした電話の音と、それに続くエフェクトのかかった「Hello」という応答からスタート。その後ギターとドラムが、前のめりにマシンガンのように押し寄せます。手足が何本あるのかと不思議に思うぐらい、手数の多いドラムが圧巻。コミカルで、かわいいイントロから、壮絶なアンサンブルへとなだれ込むコントラストも鮮やかです。

 3曲目「The Mother Could Be You」は、ギターとドラムが一丸となって駆け抜ける、スピード感に溢れた1曲。直線的に走るだけでなく、テンポを抑える部分もあり、次々に伸縮するようなリズムに耳がつかまれます。

 4曲目「Top Twenty Notes」は、メタリックな響きのギターと、タイトに細かくリズムを叩きつけるドラムが、絡み合うようにアンサンブルを構成します。

 5曲目「Brown Medal 2003」は、テンポも手数もやや抑え目に、工場の作業音を思わせるジャンクなサウンドを持った1曲。再生時間1:06あたりから、堰を切ったかのように音が押し寄せ、ロックが持つエキサイトメントも持ち合わせています。

 7曲目「The Devil Isn’t Red」は、比較的に隙間の多いアンサンブルですが、ギターとドラムが複雑なリズムを次々と応酬し合い、多彩な展開を見せる1曲です。音のメリハリがはっきりしており、ラフな部分とタイトな部分のバランスも絶妙。

 8曲目「You DJ Parents」は、エフェクト処理により、ジャンクでノイジーなサウンド・プロダクションを持った1曲。ノイズ要素が強めですが、メロディーとサウンドには、コミカルでおどけたように感じるらるところがあります。

 11曲目「Welcome To The Jungle Baby, Your Gonna Live!」は、ストイックでロックのダイナミズムが溢れるアンサンブルが展開される1曲。この曲は、演奏が非常にタイトで、2人の正確無比なプレイが堪能できます。

 メロディーや展開がどうこうというよりも、演奏が持つ機能性や断片的なかっこよさが前景化されたアルバムですが、ポップさが犠牲になっているという印象は薄く、実験性とポップ性のバランスが抜群に良いです。

 また、1曲目のイントロの電話音にも象徴的ですが、随所の遊び心が見え、ストイックさや複雑さを中和し、アルバム全体を親しみやすくしていると思います。

 ノイジーな音色と、圧倒的な演奏スキルを含み、ハードルの高い音楽であってもおかしくありませんが、随所に差し込まれるファニーな音色と、ワルノリ的な高速フレーズにより、どこかかわいく、親しみやすくなっているところが、個人的に大好き!