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Botch “We Are The Romans” / ボッチ『ウィ・アー・ザ・ローマンズ』


Botch “We Are The Romans”

ボッチ 『ウィ・アー・ザ・ローマンズ』
発売: 1999年11月1日
レーベル: Hydra Head (ハイドラ・ヘッド)
プロデュース: Matt Bayles (マット・ベイルズ)

 ワシントン州タコマで結成されたメタルコア・バンド、ボッチの2ndアルバム。

 基本的には、前作『American Nervoso』の路線を引き継いだ本作。すなわち、硬質でアグレッシヴな音像を持ち、テンション高く駆け抜ける、複雑怪奇なアンサンブルが繰り広げられるアルバムです。

 1曲目「To Our Friends In The Great White North」は、シャウト系のエモーショナルなボーカルに、各楽器が絡み合いながら疾走するバンド・アンサンブルが重なり、メリハリのある立体的なサウンドを作り上げます。ギターは、時になめらかに回転するように、時に複雑に捻れたようなフレーズを紡ぎ、楽曲の様相を豊かにしています。

 2曲目「Mondrian Was A Liar」は、ピークを超えハーモニクスのような高音を含んだギターと、リズムも音質もタイトなリズム隊が絡み合い、パワフルかつ揺らぎのあるサウンドを作り上げる1曲。ボーカルも相変わらず、凄まじいテンションです。

 3曲目「Transitions From Persona To Object」は、粒の立った音で構成される抑えめのパートと、分厚くアグレッシヴなサウンドのパートが、コール・アンド・レスポンスのように、交互に押し寄せる前半から、変拍子も織り交ぜた複雑なリズムの後半へと展開する1曲。再生時間3:05あたりからのバンド全体がゆるやかに川に流されていくようなアレンジや、4:47あたりからの虫が増殖するような奇妙なギターの音色など、次々と想像力をかき立てるアンサンブルが繰り広げられます。

 5曲目「C. Thomas Howell As The “Soul Man”」は、不規則に波打つようなリズムに乗せて、複雑に絡まるようなアンサンブルが展開。変拍子を含んだ、直線的ではない変幻自在なリズムと、ところどころに挟まれるギターの奇妙なフレーズが、楽曲にアヴァンギャルドな空気をもたらしています。

 6曲目「Saint Matthew Returns To The Womb」は、前のめりにつっかえるイントロから始まり、足がもつれながらも疾走感するようなアンサンブルが展開される1曲。

 9曲目「Man The Ramparts」は、遅めのテンポに乗って、音が空間を侵食していくようなアンサンブルが展開される1曲。再生時間2:35あたりからのドラムなど、随所にこのバンドらしい複雑性が、隠し味のように含まれています。

 ヘヴィメタルの持つテクニックと様式美、マスロックの持つ意外性と複雑性がブレンドされた、名作だと思います。前作から比較しても、アンサンブルの幅と精度は向上していると言っていいでしょう。

 2002年にボッチは解散。1999年にリリースされた本作が、結果として最後のスタジオ・アルバムとなってしまいました。スタジオ・アルバム以外では、2002年に初期のシングル収録曲などを集めた『Unifying Themes Redux』、解散後の2006年に、ライブ・アルバム『061502』がリリースされています。

 解散後は、ギターのデイヴ・ヌードソン(Dave Knudson)はマイナス・ザ・ベアー(Minus The Bear)、ベースのブライアン・クック(Brian Cook)はディーズ・アームズ・アー・スネイクス(These Arms Are Snakes)、ボーカルのデイヴ・ヴェレレン(Dave Verellen)とベースのブライアンはロイ(Roy)を結成し、それぞれ活動を続けました。





Botch “American Nervoso” / ボッチ『アメリカン・ナーヴォソ』


Botch “American Nervoso”

ボッチ 『アメリカン・ナーヴォソ』
発売: 1998年5月20日
レーベル: Hydra Head (ハイドラ・ヘッド)
プロデュース: Matt Bayles (マット・ベイルズ)

 1993年にワシントン州タコマで結成されたメタルコア・バンド、ボッチの1stアルバム。

 結成当初から数年間は、メタルコアというよりも、ガレージ・ロックに近い音楽性だったボッチ。しかし、エクストリーム・メタルを得意とするレーベル、ハイドラ・ヘッドと契約し、1998年に本作『American Nervoso』をリリースする頃には、テクニカルで複雑なアンサンブルを構成する、メタルコアあるいはマスコアと呼ばれるジャンルへと、音楽性を固めています。

 日本語の語感で「ボッチ」というと、少し寂しげな感じがしますけど、凄まじいテンションでアグレッシヴな音をぶちまけるバンドです。

 ボストン出身のマスコア・バンド、コンヴァージ(Converge)と並んで、メタル側ではなく、ハードコア・パンク側から、メタルコアやマスコアと呼ばれることになるジャンルへ、接近していったバンドの代表格と言えるでしょう。

 1曲目の「Hutton’s Great Heat Engine」から、地中からマグマが噴き出すように、音が押し寄せてきます。ドラムのつっかえるようなリズムと、ギターのうねるようなフレーズが、焦燥感を演出。ボーカルの切迫したシャウトと相まって、ヒリヒリとした空気と緊張感を生んでいきます。

 2曲目は「John Woo」という、印象的なタイトルを持つ曲。1曲目と同じく、イントロから凄まじいテンションの音が噴出してきます。再生時間0:51あたりからの波を打つようなギターのフレーズから、シフトが切り替わり、緩急のあるアンサンブルが展開。

 3曲目「Dali’s Praying Mantis」は、イントロのギターのフレーズに続いて、各楽器が絡み合うように、アンサンブルを組み上げていく1曲。

 4曲目「Dead For A Minute」は、スロー・テンポに乗せて、長めの音符が不穏な空気を充満させていくイントロから、激しくアグレッシヴな音が溢れ出し、静と動を鮮烈に行き来します。

 5曲目「Oma」は、高速のビートに乗って、バンド全体が前のめりになりながら疾走していく1曲。

 6曲目「Thank God For Worker Bees」は、イントロからのギターとドラムは、音がつぶれたようなジャンクな音質でレコーディングされており、ボーカルもヴェールをかぶったように奥まった音質。このような音質のために、曲前半はアングラ臭が漂いますが、再生時間0:58あたりから、リミッターが外れたように鮮明でパワフルなサウンド・プロダクションへ。その後は、捻れつつも疾走する、このバンドらしいアンサンブルが展開します。

 9曲目「Hives」は、リズムにほどよく隙間があり、疾走感よりも躍動感を重視した、立体的なアンサンブルが展開される1曲。ギターの厚みのあるサウンドと、次々と姿を変える変幻自在なリフが、曲をカラフルに彩ります。

 硬質なサウンド・プロダクションと、高度なテクニックを駆使する演奏からは、メタルの要素も色濃く感じられるものの、同時にスピード感あふれるハードコア・パンクや、変拍子を織り交ぜる複雑怪奇なマスロックなど、USインディーらしい要素も感じさせる1作です。

 





Archers Of Loaf “All The Nations Airports” / アーチャーズ・オブ・ローフ『オール・ザ・ネイションズ・エアポーツ』


Archers Of Loaf “All The Nations Airports”

アーチャーズ・オブ・ローフ 『オール・ザ・ネイションズ・エアポーツ』
発売: 1996年9月24日
レーベル: Alias (エイリアス), Merge (マージ)
プロデュース: Brian Paulson (ブライアン・ポールソン)

 ノースカロライナ州チャペルヒルで結成されたインディーロック・バンド、アーチャーズ・オブ・ローフの3rdアルバム。

 プロデューサーは、1stアルバム『Icky Mettle』ではカレブ・サザン(Caleb Southern)、2ndアルバム『Vee Vee』ではボブ・ウェストン(Bob Weston)が担当していましたが、3作目となる本作ではまた替わって、ブライアン・ポールソンが担当。ブライアン・ポールソンは、ウィルコ(Wilco)やスーパーチャンク(Superchunk)との仕事でも知られる人物です。

 レコーディング・スタジオも、1作目のチャペルヒル、2作目のシカゴと続いて、本作ではまた場所を変え、ワシントン州シアトルにあるアイアンウッド・スタジオ(Ironwood Studios)。

 レーベルは前作までと同じく、インディーズのエイリアスからのリリース。しかし、本作からメジャー・レーベルのエレクトラ・レコード(Elektra Records)が、ディストリビューションを担当しています。

 また、1996年にオリジナル版がリリースされた後、2012年にUSインディーを代表する名門レーベル、マージ(Merge)から2枚組のデラックス・エディションが再発されています。

 これまでの2作は、インディーらしく飾らない生々しい音像に、立体的で適度にドタバタ感のあるアンサンブルが展開される、実にインディーロックらしい耳ざわりを持っていました。3作目となる本作でも、過去2作を引き継ぎ、原音を活かした臨場感のあるサウンドで、いきいきと躍動する演奏が繰り広げられます。

 1曲目「Strangled By The Stereo Wire」は、イントロからやや奥まったサウンドの複数のギターが絡み合い、その後に入ってくるボーカル、ドラム、ベースも、少し距離のある場所から聞こえるようなミックスがなされています。しかし、再生時間0:51あたりでヴェールが剥がされるかのように、音量と音圧が高まり、パワフルなサウンドへ。厚みのあるサウンドで、一体感と躍動感のある演奏が展開されます。

 2曲目「All The Nations Airports」では、ギターのフレーズと音色、ドラムのリズムが、アヴァンギャルドな空気が漂わせながら、各楽器が絡み合って、アンサンブルを構成。パワフルでざらついたサウンドと、奇妙な部分を持ちながら、どこかポップにまとまった演奏が、カラフルな世界観を描き出します。

 3曲目「Scenic Pastures」は、イントロからシンプルかつタイトに、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開される1曲。2本のギターが手を取り合うわけでもなく、ケンカするわけでもなく、対等に向き合って音を紡いでいくところも、このバンドの特徴。

 5曲目「Attack Of The Killer Bees」は、歌のないインスト曲。ゆったりとしたテンポに乗せて、各楽器の音が、波のように重なり合いながら、躍動していきます。

 8曲目「Chumming The Ocean」は、ピアノがフィーチャーされたメロウな1曲。どこかで轟音ギターが押し寄せる静から動への展開かと思いきや、最後までボーカルとピアノと、わずかに奥で聞こえるフィードバックのような持続音のみ。丁寧に感情をこめて歌い上げるボーカルが、ピアノにも引き立てられ、響き渡ります。

 9曲目「Vocal Shrapnel」は、2本のギターが絡み合いながら、一体の生き物のように躍動しながら前進していく1曲。タイトにリズムを刻むベースとドラムに対し、ギターは自由にフレーズを繰り出し、タイトさとラフさが共存しています。

 10曲目「Bones Of Her Hands」は、ビートが直線的でわかりやすい、疾走感あふれる1曲。このバンドには珍しく、サビまではシンプルな8ビートで進みますが、サビではやや複雑で立体的に展開。意外性のある、このバンドらしいアレンジと言えるでしょう。

 14曲目「Distance Comes In Droves」は、音数を絞った緊張感のあるアンサンブルが展開されるミドル・テンポの1曲。ギターの音作りは、過度に歪ませたり、空間系エフェクターを用いたりせず、シンプル。ですが、高音域を使ったフレーズなど、サウンド以外の要素で、違いを生み出しています。

 15曲目「Bombs Away」は、ピアノのみのインスト曲。3拍子に乗せて、猫が自由に歩き回るように、加速と減速を織り交ぜ、アルバムを締めくくります。

 3作目のアルバムとなる本作。過去2作の良さを引き継ぎ、ギターの絡み合いなど、アンサンブルがますます洗練されてきたと言える1作です。

 「洗練」と書くと、落ち着いてきたという印象を与えるかもしれませんが、むしろその逆で、奇妙なフレーズやサウンドを応酬し、今まで以上に効果的に、躍動感や疾走感を生んでいます。

 飾りすぎない、むき出しのサウンド・プロダクションに、実験性と攻撃性を程よく持ち合わせたアレンジ。インディーロックの良心とでも呼びたくなるアルバムです。

 





Archers Of Loaf “Vee Vee” / アーチャーズ・オブ・ローフ『ヴィー・ヴィー』


Archers Of Loaf “Vee Vee”

アーチャーズ・オブ・ローフ 『ヴィー・ヴィー』
発売: 1995年3月6日
レーベル: Alias (エイリアス), Merge (マージ)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン)

 ノースカロライナ州チャペルヒルで結成されたインディーロック・バンド、アーチャーズ・オブ・ローフの2ndアルバム。1995年にエイリアスからリリースされ、2012年にUSインディーを代表する名門レーベル、マージ(Merge)から2枚組仕様のデラックス・エディションとして再発されています。

 デビュー・アルバムとなる前作『Icky Mettle』は、地元チャペルヒルのクラップトーン・スタジオ(Kraptone Studios)で、7日間でレコーディングされましたが、本作はシカゴでレコーディングを敢行。プロデューサーも前作のカレブ・サザン(Caleb Southern)から、スティーヴ・アルビニ率いるシェラック(Shellac)のベーシストとしても知られる、ボブ・ウェストンに交代しています。

 オーバー・プロデュースにはならない、地に足の着いた音作りで、インディー・ロックらしい実験性と攻撃性を併せ持ったアンサンブルを展開していた前作。アルビニ直系のボブ・ウェストンをプロデューサー兼エンジニアに迎え、サウンド・プロダクションは前作から比較すると、より生々しい音像へと変わっています。

 しかし、出ている音をそのまま閉じ込めたような、前作のサウンド面の魅力も健在。むしろ、より原音に近く、生々しさが増したサウンド・プロダクションと言えます。このあたりの要因は、スタジオの空気まで録音するとまで評されるスティーヴ・アルビニの弟子筋にあたる、ボブ・ウェストンによるところが大きいのでしょう。

 1曲目の「Step Into The Light」から、過度に音圧を上げない、臨場感あふれるむき出しのサウンドが響きます。1曲目ということで、ミドル・テンポに乗せて、ゆるやかなグルーヴ感を持った、イントロダクション的な役割の1曲。

 2曲目「Harnessed In Slums」は、各楽器のサウンドが立体的に重なる、厚みのあるサウンドのロック・チューン。シャウト気味ながら、メロディーを引き立たせて歌いあげるボーカルとコーラスワークも秀逸。

 3曲目「Nevermind The Enemy」は、複数のギターのフレーズが絡み合う、ジャンクな空気と躍動感のある1曲。イントロ部分で聞こえる、ブザー音のような高音もギターでしょうか。放送禁止用語を隠すピー音のようにも響く高音サウンドが、アヴァンギャルドな空気を演出しています。

 5曲目「Underdogs Of Nipomo」は、タイトにリズムを刻みながら、疾走感を生んでいくベースとドラムとは対照的に、右と左の両チャンネルから、別々のギターがノイジーに暴れまわる1曲。イヤホンやヘッドホンで聴くと、よりわかりやすいのですが、アグレッシヴに暴れる部分と、タイトにリズムを合わせる部分のバランスが抜群で、散漫にはならずに、ラフさが躍動感や疾走感を増幅させる原動力となっています。

 8曲目「Fabricoh」は、ざらついた電子的なノイズ音から始まり、マグマが噴出するようにエネルギッシュなアンサンブルが展開される1曲。この曲は立体的にグルーヴするのではなく、リズムの縦を合わせて、分厚いサウンドで迫ってきます。

 9曲目「Nostalgia」は、1分20秒ほどの短い曲ですが、各楽器の音が非常に生々しくレコーディングされており、耳を掴みます。特にドラムの音は、残響音まで含めて、生々しく響きます。

 13曲目「Underachievers March And Fight Song」は、イントロからバンジョーらしき音と、トランペットらしき音が鳴り響き、これまでのアルバムの流れの中では、サウンドもアレンジも毛色が異なります。ギターやベースなど通常の編成の楽器も入ってきますが、それ以外にも多種多様なサウンドが飛び交う、立体的でカラフルな1曲。

 前作の飾らないサウンドとアレンジという良さを引き継ぎつつ、サウンドはより生々しく、アレンジはより多彩に、純粋進化を遂げた2作目だと思います。

 前述したとおり、ボブ・ウェストンがレコーディング・エンジニアを務めたサウンドは、スタジオで鳴っている楽器の音をそのままパッケージしたかのような、臨場感があります。アレンジ面においても、効果的にノイズ的なサウンドを用いて、前作以上にアグレッシヴで多彩なサウンドを作り上げています。

 





Archers Of Loaf “Icky Mettle” / アーチャーズ・オブ・ローフ『イッキー・メトル』


Archers Of Loaf “Icky Mettle”

アーチャーズ・オブ・ローフ 『イッキー・メトル』
発売: 1993年11月23日
レーベル: Alias (エイリアス), Merge (マージ)
プロデュース: Caleb Southern (カレブ・サザン)

 1991年にノースカロライナ州チャペルヒルで結成された、4人組インディー・ロック・バンド、アーチャーズ・オブ・ローフの1stアルバム。1993年にエイリアスからリリースされ、その後2011年に地元ノースカロライナ州のレーベル、マージより2枚組のデラックス・エディションとして再発されています。

 カレブ・サザンをプロデューサー兼エンジニアに迎え、チャペルヒルのクラップトーン・スタジオ(Kraptone Studios)で、ミックスも含め、わずか7日間でレコーディングされたという本作。

 シンプルな音作りに、ほどよく攻撃性を持った歌唱と演奏。躍動的なアンサンブルと、意外性のある実験的なアレンジ、耳なじみのいいメロディーも持ち合わせ、全ての面でオーバー・プロデュースにはならず、地に足が着いていて、インディー・ロックかくあるべし!というアルバムです。

 同じノースカロライナ州出身で、マージの創設者でもあるスーパーチャンク(Superchunk)に繋がる音楽性と言ってもいいでしょう。

 1993年にリリースされた当時は、CDとLPの両方で発売されており、LP版では1曲目から6曲目までのA面が「Icky Side」、7曲目から13曲目までのB面が「Mettle Side」となっていました。

 1曲目「Web In Front」は、残響音の少ない、タイトで飾り気のないスネア・ドラムからスタート。その後、やや感情的に歌い上げるボーカルをはじめ、ギターもベースも狙い過ぎないシンプルな音を持ち寄り、各楽器がゆるやかに組み合い、アンサンブルを構成していきます。

 2曲目「Last Word」は、ざらついた歪みのギターと、宇宙空間を漂うようなギターの音色が重なる、1曲目よりも凝ったサウンド・プロダクションの1曲。ギターのサウンドが前面に出てくる曲ですが、パワフルに歌い上がるボーカルの歌唱も負けていません。シンプルな音作りとプレイで、アンサンブルを支えるリズム隊も合わさり、躍動感のある演奏が展開。

 4曲目「You And Me」は、ベースとボーカルのみの静かなイントロから始まり、やがてノイジーなギターがなだれ込んでくる、静と動のコントラストが鮮烈な1曲。静寂から轟音への移行は、ロックではよく用いられるアレンジですが、この曲は音圧よりも音域でコントラストを作り出しているところが、インディーらしくて良いなと思います。単純に当時の機材的、技術的な制約のために、圧倒的な轟音や爆音を作り出せなったのかもしれませんが、だらっとしたベースとつぶやき系のボーカルから、高音域を駆使した耳障りなギターが突如として入ってくる部分には、ロックのダイナミズムが集約されています。

 5曲目「Might」は、ビートのくっきりとしたノリの良い1曲。ドラムがところどころスネアを叩かずに、足がつっかえるようになるところがフックになっています。ギターの厚みのあるサウンドも、楽曲に奥行きをプラス。

 6曲目「Hate Paste」は、イントロからアコースティック・ギターが用いられ、フォーキーな雰囲気を持ちながら、他の楽器が加わると、四方八方から音が飛んでくるような、多彩で立体的なアンサンブルへと展開する1曲。

 7曲目「Fat」は、複数の歪んだギターと、シャウト気味のボーカルの歌唱が、エモーショナルな空気を振りまく1曲。LPだと、ここからB面の「Mettle Side」がスタート。

 8曲目「Plumb Line」は、ざらついた歪みのギターのフレーズと、感情を抑えたクールなボーカルを中心にアンサンブルが構成される、ミドル・テンポの1曲。

 9曲目「Learo, You’re A Hole」は、高音を駆使したノイジーなギターと、タイトなリズム隊がコントラストをなす前半から、より開放的で躍動感を増すサビ部分へと展開する1曲。ボーカルは激しくエモーショナルな歌唱と、感情を押さえつけたような歌唱を使い分け、演奏もタイトな部分とラフな部分が共存した、バランスが秀逸。

 13曲目「Slow Worm」では、複数のギターによって、厚みのある音の壁が構築。ギターはそれぞれ音作りが異なり、それらが重なり合うことで、倍音たっぷりの分厚いサウンドが目の前に立ち現れます。

 音圧が高いハイファイなサウンドではないのですが、楽器の音がダイレクトに感じられる、原音の良さを活かしたサウンド・プロダクションを持った1作です。アレンジも、特別にテクニカルであったり、複雑であるわけではないのですが、音色とフレーズの組み合わせと、楽器の出し入れによって、非常に立体的でカラフルな音を、作り出しています。

 全体をとおして、実にインディーロックらしい佇まいを持ったアルバム。音色やテクニックなど、音楽を形作るパーツは限られているのに、アイデアで多彩な音世界を作りあげていくところが、インディーロック然とした印象を与える、要因ではないでしょうか。