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Bear Hands “Distraction” / ベアー・ハンズ『ディストラクション』


Bear Hands “Distraction”

ベアー・ハンズ 『ディストラクション』
発売: 2014年2月18日
レーベル: Cantora (カントラ)
プロデュース: Jake Aron (ジェイク・アロン), Yale Yng-Wong (イェール・イン・ウォン)

 ニューヨーク市ブルックリンで結成されたポストパンク・バンド、ベアー・ハンズの2ndアルバム。

 ダンサブルで、ポスト・パンク・リバイバル色の濃かった前作と比較すると、よりエレクトロニカ色の強くなった1作。シンセサイザーによる電子音が用いられているのは、前作と共通していますが、パーティー感のある鮮やかな音色が多い前作に対して、本作ではよりシンプルでシリアスな雰囲気の音色が選択されています。

 1曲目「Moment Of Silence」は、電子的な多種多様なサウンドが飛び交うなかを、ボーカルがメロディーを紡いでいく1曲。前半はまわりの音数が少なく、ボーカルが際立つアレンジですが、再生時間2:05あたりからラストまで、ドラムをはじめ躍動感に溢れた演奏に切り替わります。

 4曲目「Bone Digger」は、イントロから、シンセサイザーと思しき音がタイトにリズムを刻み、ボーカルも感情を抑えたクールな歌唱。その後、ベースとドラムが入ってきても、無駄の無いタイトなアンサンブルが続きます。

 5曲目「Vile Iowa」は、空間系エフェクターを用いたギターの穏やかなコード・ストロークに合わせて、囁き系のボーカルが重なるイントロから始まり、歪んだギターが波のように、押し寄せては引いていく1曲。

 6曲目「Bad Friend」は、メロウな曲が続く本作にあって、イントロはビートのはっきりした疾走感のある1曲。ボーカルが入ってくると、ベースとドラムのみの無駄を極限まで省いた、シンプルなアレンジへ。

 7曲目「The Bug」は、パワフルに太い音でレコーディングされたリズム隊を中心に、立体的なアンサンブルが構成される1曲。過度にグルーヴしないように注意しているのかと思うほど、パワフルなサウンドに対して、タイトでクールな演奏。

 8曲目「Peacekeeper」は、歯切れの良いギターのイントロに続いて、疾走感あふれる演奏が展開される1曲。リズムが前のめりに突っ走る部分と、叩きつけるように四分音符を刻む部分のコントラストが鮮やか。

 シンセとギターが共存し、ビートの効いた音楽性は、前作と同じくポストパンクの範疇に入るはずですが、一聴したときの印象は大きく異なります。

 リズムとアンサンブルの面では、立体的でダンサブルな前作に比べると、本作は装飾は控えめに、リズムに遊びが無くなりタイトに絞り込まれています。

 また、サウンド・プロダクションの面では、音色をあえて地味にしたような、ダークというと語弊がありますが、クールでシリアスな空気感を持ったアルバムとなっています。

 2018年7月現在、本作はSpotify、Apple Music等でのデジタル配信はされていません。





Bear Hands “Burning Bush Supper Club” / ベアー・ハンズ『バーニング・ブッシュ・サパー・クラブ』


Bear Hands “Burning Bush Supper Club”

ベアー・ハンズ 『バーニング・ブッシュ・サパー・クラブ』
発売: 2010年11月2日
レーベル: Cantora (カントラ)
プロデュース: Chuck Brody (チャック・ブロディ)

 2006年にニューヨーク市ブルックリンで結成されたポストパンク・バンド、ベアー・ハンズの1stアルバム。

 ちなみにギター・ボーカルのディラン・ラウ(Dylan Rau)は、ウェズリアン大学在学中に、MGMTの2人とクラスメイトだったとのこと。その縁で、大学キャンパス内でおこなわれたMGMTのライブのオープニングテン・アクトを、ベアー・ハンズが務めたこともあります。

 ギター・サウンドとシンセ・サウンドが共存し、立体的でドタバタしたドラムがリズムを刻む、ポストパンクらしいサウンドを持ったこのバンド。前述のMGMTにも繋がる、シンセをフィーチャーしながら、グルーヴ感のあるアンサンブルを響かせます。また、本作をリリースしているカントラは、MGMTの最初のEP『Time To Pretend』をリリースしたレーベルでもあります。

 1曲目の「Crime Pays」から、ドラムが立体的にレコーディングされた、はずむようなサウンドが飛び出してきます。このドラムの音が、まずかっこいいですね。端正にリズムを刻むピアノと、浮き上がるような裏声を駆使したボーカル。電子音も加わり、カラフルなサウンドを作り上げています。

 2曲目「Belongings」は、ドラムが刻む軽快なリズムに、他の楽器が絡みつくように合わさり、ゆるやかな躍動感と疾走感の生まれる1曲。リズムが直線的に走り抜けるのではなく、スキップするように弾んでいるところも、耳をつかみます。

 3曲目「What A Drag」は、各楽器がレイヤー状に重なりながら、はずむようにリズムを刻み、縦も横も立体的な1曲。

 5曲目「Tablasaurus」は、パーカッションのトライバルなビートから始まり、楽器とボーカルが加わると、アンサンブルが立体的かつカラフルに展開。トライバルな空気と、シンセサイザーの華やかなサウンドが溶け合った1曲。

 6曲目「Julien」は、個人的に、このアルバムのベスト・トラックだと思う1曲。躍動感あふれるドラムに、ギターやボーカルが覆い被さるように重なり、グルーヴィーなアンサンブルを作り上げていきます。再生時間1:51あたりからのパワフルなドラム、再生時間2:11あたりからの開放的なギターなど、シフトを切りかえるように、段階的に盛り上がっていくアレンジも秀逸。

 8曲目「Blood And Treasure」は、イントロからギターがフィーチャーされた、コンパクトにまとまった疾走感あふれるロック・チューン。タイトにリズムを刻むドラムと、図太いサウンドでパワフルにフレーズを弾くベースによるリズム隊が、躍動するアンサンブルを支え、盛り上げます。

 立体的でいきいきとしたアンサンブルと、多様な音が登場するカラフルなサウンド・プロダクションを持ち合わせているところが、このアルバムの最大の魅力だと思います。

 また、単純な8ビートよりも、ハネたリズムの曲が多く、トライバルな雰囲気すら漂うのですが、シンセサイザーをはじめとした音色がカラフルに楽曲を彩り、ポップでダンサブルに仕上げています。トライバルなリズムは、非ロック的なリズムと言い換えてもいいのですが、ワールド・ミュージックからの影響を感じさせるところも、ポストパンクらしいアプローチと言えるでしょう。

 1990年代後半から、ポストパンク・リバイバル(Post-punk revival)という言葉で括られることになる、多くのバンドが登場しました。(こういう言葉やジャンル名で音楽を括ることに、無理があるのは百も承知ですが…)

 その中でベアー・ハンズの個性は何かというと、シンセ・ポップ的なカラフルなサウンド・プロダクションと、やや意外性のある非ロック的なリズムを、不可分に融合し、極上のポップスとして成り立たせているところだと思います。

 





Lightning Bolt “Earthly Delights” / ライトニング・ボルト『アースリー・ディライツ』


Lightning Bolt “Earthly Delights”

ライトニング・ボルト 『アースリー・ディライツ』
発売: 2009年10月14日
レーベル: Load (ロード)
プロデュース: Dave Auchenbach (デイヴ・オーチェンバック)

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身の2ピース・バンド、ライトニング・ボルトの5thアルバム。メンバーは、ドラムのブライアン・チッペンデール(Brian Chippendale)と、ベースのブライアン・ギブソン(Brian Gibson)の2人。

 ドラムとベースのみという特異な編成のこのバンド。編成からは音楽性が想像できませんが、テクニックに優れた2人のメンバーによって、テンション高く、アグレッシヴでアヴァンギャルドな演奏が繰り広げられる1作です。

 これまでの彼らの作品も、上記の説明からはみ出すことはないのですが、金太郎飴的にいつも同じことをやっているかというと、そうではありません。デビュー以来、高いテンションを保ちつつも、表現力の幅は広がり、洗練されてきた、と言って良いでしょう。

 本作も、めちゃくちゃに演奏しているかのようなアグレッシヴな演奏を基本としながら、メリハリのついた、表情を様々に変える音楽が詰まっています。

 1曲目の「Sound Guardians」は、叩きつけるようなドラムと、激しく歪んだ硬質なベースが、絡み合いながら疾走していく1曲。暴走のように思えて、タイトにぴったり合わせるところと、ラフに暴れるところが共存し、疾走感に溢れた演奏が繰り広げられます。

 2曲目「Nation Of Boar」は、イントロから耳にうるさく音が飛び交う1曲。こちらも1曲目に似て、暴発とも呼べる、激しく音が噴出する曲ですが、手数の多いドラムのリズムは正確で、アグレッシヴさとタイトさが両立されています。

 3曲目「Colossus」は、テンポも歪みも抑えめに、一定のリズムを守るランニングのように、小気味よく進行していく1曲。

 4曲目「The Sublime Freak」は、原音がわからないほど歪んだベースと、手数が多く前のめりにリズムを刻むドラムが疾走する、アヴァンギャルドな1曲。演奏的にはかなりテクニカルで、ポップとも言い難い曲ではありますが、あか抜けたボーカルも相まって、カラフルで明るい雰囲気を持っています。

 8曲目「S.O.S.」は、嵐のように轟音とドラムのリズムが降り注ぐ1曲。不自然なほど前のめりになり、疾走していきます。

 9曲目「Transmissionary」は、12分を超える大曲。イントロからドラムは立体的で、躍動感あふれるプレイを聴かせます。その後、ベースが重なり、アグレッシヴな演奏が展開。

 はっきりとしたメロディーや構造を持つわけではなく、あまり言葉で語ってどうこうという音楽ではありませんが、変態的と言っていいほどに、テクニカルでアグレッシヴな演奏が展開されるアルバムです。

 前述したように、いわゆるポップスが持つような構造はほとんど持ちませんが、きっちりとリズムを合わせる部分と、ラフに暴走する部分を使い分け、コントラストが鮮やかな、ダイナミズムの大きい音楽を作り上げています。

 テンション全開で突っ走ることが多かった初期に比べると、もはや伝統芸能のように、攻撃性を保ったまま、表情豊か(でも一聴すると「怒り」が多め)な音楽を展開していると思います。やっぱり、ただめちゃくちゃにやってるわけではなく、優れたテクニックとアイデアを持った2人ですね。

 





Bikini Kill “Reject All American” / ビキニ・キル『リジェクト・オール・アメリカン』


Bikini Kill “Reject All American”

ビキニ・キル 『リジェクト・オール・アメリカン』
発売: 1996年4月5日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: John Goodmanson (ジョン・グッドマンソン)

 ワシントン州オリンピアで結成された、女性3人、男性1人の4人組パンク・ロック・バンド、ビキニ・キルの2ndアルバム。

 思わず「初期衝動」という言葉を使いたくなってしまうほど、荒々しく、感情むき出しの魅力に溢れた1stアルバム『Pussy Whipped』。そんな前作と比較すると、サウンドの面でも、アンサンブルの面でも、洗練された2作目と言えます。

 「洗練」と書くと、音がおとなしくなったという印象を与えるかもしれませんが、疾走感と激しさは変わらずに持っています。カセット一発録りのようなラフな音質と演奏の前作と比べると、サウンドはよりダイナミックに、演奏はよりタイトになった、ということ。

 1曲目「Statement Of Vindication」は、タイトに疾走感あふれる演奏が展開される1曲。サウンドは歪んだギターを中心に、前作のアグレッシヴさを引き継いでいます。しかし、演奏力が向上したぶん、良くも悪くも前作の方が荒々しく、そちらの方を好む方がいてもおかしくないとは思います。

 2曲目「Capri Pants」は、イントロのラフなギターと、叩きつけるようなドラムに導かれ、疾走感の溢れる演奏が繰り広げられます。

 5曲目「False Start」は、ギターの歪みは控えめに、各楽器が有機的に組み合っていく、アンサンブル志向の強い1曲。ややアンニュイなボーカルも、前作には無かった奥行きを与えています。

 6曲目「R.I.P.」は、ミドル・テンポに乗せて、ドラムを中心に立体的なアンサンブルが構成される1曲。回転するようなドラムと、そのドラムに絡みつくようなベースとギターのフレーズが、一体感と躍動感を生んでいきます。

 11曲目「Reject All American」は、鋭く歪んだギターが、アジテートするように曲を引っ張っていきます。テンポが特に速いわけではありませんが、ドライブ感のあるギターが疾走感を演出。

 サウンドは前作よりも輪郭がはっきりとしていて、高音と低音のレンジも広く、パワフル。演奏もタイトにまとまり、確実に前作からテクニックの向上がわかります。

 演奏面もサウンド・プロダクションも、基本的には前作より向上していると言って良いアルバムですが、荒削りな前作の方が好き、という方もいらっしゃると思います。

 本作がリリースされた翌年の1997年に、ビキニ・キルは解散。本作が2ndアルバムにして、ラスト・アルバムとなってしまいました。

 





Bikini Kill “Pussy Whipped” / ビキニ・キル『プッシー・ホイップド』


Bikini Kill “Pussy Whipped”

ビキニ・キル 『プッシー・ホイップド』
発売: 1993年10月26日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: Stuart Hallerman (スチュアート・ハラーマン)

 1990年にワシントン州オリンピアで結成された、女性3人、男性1人からなる、4人組のパンク・ロック・バンド、ビキニ・キルの1stアルバム。

 レーベルを通してリリースされるアルバムとしては1作目ですが、本作の前にはカセットで『Revolution Girl Style Now』という作品をセルフ・リリース。また、6曲入りのEP『Bikini Kill』と、イギリス出身のパンク・バンド、ハギー・ベア(Huggy Bear)とのスプリット・アルバム『Yeah Yeah Yeah Yeah』もリリースしており、この2枚は『The C.D. Version Of The First Two Records』として、1994年にCD化されています。

 1990年代にオリンピアで起こったライオット・ガール(Riot grrrl)と呼ばれるムーヴメント。歌詞にはフェミニズム思想を持ち、音楽的にはハードコア・パンクからの影響が色濃い、このムーヴメントの中心的なバンドのひとつがビキニ・キルです。

 また、本作をリリースしたキル・ロック・スターズも、ライオット・ガールを牽引したレーベルとして、知られています。

 エモーションを爆発させたようなロック・ミュージックを形容するときに、「初期衝動」という言葉が用いられることがあります。どんな場面で使われる言葉なのか簡単に説明すると、テクニックや構造よりも感情を優先し、とにかく音楽がしたい!という思いを、そのまま音にしているかのような演奏を、「初期衝動で突っ走る」と表現します。

 ビキニ・キル1作目のアルバムとなる本作『Pussy Whipped』は、まさに初期衝動がそのままパッケージされたかのような1作と言えます。男性優位主義の社会に対しての怒りや苛立ちが、荒々しいサウンドに乗せて、閉じ込められた作品です。

 音楽的には、ハードコア・パンクのスピード感と、ガレージ・ロックの荒削りなサウンドからの影響が強く、ラフでパワフルな演奏が展開されています。

 1曲目の「Blood One」は、激しく歪んだベースとギターに、やや軽めの「パスっ」といった感じにレコーディングされたドラム。荒々しいサウンドとアンサンブルに、エモーションが暴発したようなボーカルが乗る、疾走感あふれる1曲。

 4曲目「Speed Heart」は、ややテンポを落とし、ボーカルも感情を押し殺したように抑え目。相対的に、ギターのジャンクな歪みが前面に出ています。しかし、再生時間0:43あたりから一気に加速し、そのまま暴走するように最後まで駆け抜けます。

 5曲目「Li’l Red」は、イントロから、耳をつんざくようにうるさいギターが、うねるようにフレーズを弾き、ボーカルもギターに絡みつくように、疾走していきます。

 7曲目「Sugar」は、低音域を強調したドラムがパワフルに鳴り響き、その上にギターとベースが乗り、厚みのあるサウンドを生み出していきます。リズムの荒々しさ、ドタバタ感がリスナーをアジテートする1曲。

 8曲目「Star Bellied Boy」は、全体的に押しつぶされたようなサウンドを持った1曲。シャウトと押さえ気味の歌唱を織り交ぜたボーカルが、緊張感を演出します。言葉で説明すると陳腐になりますが、本当にボーカルはブチギレ気味で、恐ろしいほどエモーショナル。

 9曲目「Hamster Baby」は、イントロのフィードバックに導かれ、テンションの高い、荒々しい演奏が展開される1曲。高音シャウトを駆使したボーカルも、耳にうるさく、楽曲にさらなる攻撃性をプラスしています。

 10曲目「Rebel Girl」は、印象的なドラムのリズムから始まり、ギターとベースの厚みのあるサウンドが後を追います。ボーカルのメロディーとコーラスワークからは、アンセム感が漂う名曲。このアルバムのベスト・トラックであり、ライオット・ガールを象徴する1曲です。サビのコーラスをはじめ、当時の空気感と、彼女たちのエモーションが充満していて、とにかくかっこいいので、是非とも聴いて欲しい!

 ちなみに、同じワシントン州出身のニルヴァーナ(Nirvana)とビキニ・キルのメンバーは、80年代から交流があり、ドラムのトビ・ヴェイル(Tobi Vail)とカート・コバーン、ボーカルのキャスリーン・ハンナ(Kathleen Hanna)とデイヴ・グロールは、付き合っていたことがあります。

 トビは、当時ティーン・スピリット(Teen Spirit)というデオドラントを使用。ハンナが、トビとカートを揶揄するため、カートの部屋の壁にスプレーで「Kurt smells teen spirit」(カートはティーン・スピリットの香りがする)と落書きをしたことが、ニルヴァーナの名曲「Smells Like Teen Spirit」のタイトルの由来となりました。