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The New Year “Newness Ends” / ザ・ニュー・イヤー『ニューネス・エンズ』


The New Year “Newness Ends”

ザ・ニュー・イヤー 『ニューネス・エンズ』
発売: 2001年2月20日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 1991年から1998年まで活動した、テキサス出身のスロウコア・バンド、ベッドヘッド(Bedhead)。ベッドヘッド解散後、メンバーだったマットとバッバのカデイン兄弟を中心に結成されたのが、ザ・ニュー・イヤー(The New Year)です。

 90年代に活躍し、スロウコアの第一世代と言えるベッドヘッドの音楽性を引き継ぎ、ザ・ニュー・イヤーもテンポを抑え、疾走感よりもグルーヴ感を重視したアンサンブルを展開します。彼らの1stアルバムである本作『Newness Ends』も、ゆったりとしたテンポに乗せて、音数を絞ったストイックなアンサンブルを聞かせるアルバムと言えます。

 また、スティーヴ・アルビニがレコーディング・エンジニアを務め、バンドがそこで演奏しているかのような、生々しく臨場感のあるサウンドも魅力的です。

 1曲目「Half A Day」から、音圧が高いわけではありませんが、ドラムが残響音まで拾い上げるような音質でレコーディングされており、非常に臨場感のある音が響きます。ギターが立体的に絡み合い、心地よく、緩やかなグルーブが生まれる1曲。淡々と歌うボーカルも、音数を絞ったバンドのアンサンブルに溶け合っています。

 2曲目「Reconstruction」は、ボーカルも含め、各楽器が追い抜き合うように、絡み合い進行する1曲。各楽器とも音作りはシンプルですが、そのシンプルなサウンドが、折り重なるように編み込まれるアンサンブルを、際立たせています。

 5曲目「Simple Life」。基本的には、このバンドのボーカルはマット・カデインが担当していますが、この曲ではバッバ・カデインが歌っています。音数が少ないながら、無駄のない機能的なアンサンブルが展開され、例えば再生時間1:50あたりから流れるようなギターを筆頭に、徐々に音が増えていく展開は、非常の心地いいです。

 「スロウコア」は、その名のとおり遅めのテンポで、音数を絞ったアンサンブルを展開するのが特徴のジャンルですが、本作『Newness Ends』は、まさにスロウコアを体現したアルバムと言えるでしょう。すなわち、音数を絞り、一音一音の情報量を相対的に増すことで、濃密なアンサンブルを構成しています。

 前述したとおり、アルビニ録音による生々しいサウンド・プロダクションもこのアルバムの大きな魅力のひとつで、音圧やスピードに頼らず、アンサンブルを重視するザ・ニュー・イヤーというバンドのアティチュードを、ますます前景化していると言えるでしょう。





Mudhoney “Every Good Boy Deserves Fudge” / マッドハニー『良い子にファッジ』


Mudhoney “Every Good Boy Deserves Fudge”

マッドハニー 『良い子にファッジ』
発売: 1991年7月23日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Conrad Uno (コンラッド・ウノ)

 ワシントン州シアトル出身のグランジを代表するバンド、マッドハニーの2ndアルバム。

 ガレージ色の強い、生々しくざらついたサウンド・プロダクションを持つ前作から比較すると、サウンドの幅が広がった1枚。歪んだギターも健在ですが、楽曲によって効果的にサウンドを使い分け、ところどころに挿入される奇妙な効果音も、アルバムの世界観を広げています。前作の方がハードでラフなサウンドが前面に出ているので、そちらを好む方もいると思います。

 1曲目「Generation Genocide」は、1分ほどのイントロダクション的なトラック。神聖な響きのシンセサイザーが、ラフに歪んだギターと重なり、音楽性の広がりを感じさせる1曲です。

 2曲目「Let It Slide」は、押しつぶされたような歪みのギターを筆頭に、疾走感あふれる1曲。

 3曲目「Good Enough」は、細かくバウンドするようなドラムに、ほどよく歪んだギターが乗り、緩やかに躍動する1曲。ギターの音色は一般的な価値観からするとチープで、ボーカルもヘロヘロ。共にローファイな雰囲気が漂いますが、その余裕と遊び心が、アルバムに奥行きを与えていると思います。

 5曲目「Thorn」は、テンポが速く、各楽器とも尖ったサウンドを持ち、疾走感のあるガレージ・ロック。生々しく、ざらついたバンドのサウンドに、物憂げでサイケデリックな雰囲気の、ボーカルとコーラスワークが重なります。

 6曲目「Into The Drink」は、立体的かつパワフルに響くドラムが活躍。タイトなリズム隊に、2本のギターが絡み、アンサンブルにも深みがあります。再生時間1:20あたりからのノイジーなギターと、アコースティック・ギターが絡み合う間奏は特に秀逸。

 8曲目「Who You Drivin’ Now?」では、下品なほど毛羽立った歪みのギターと、オルガンらしき柔らかな音色が溶け合います。オルガンのサウンドが全体のガレージ色を中和し、音楽をカラフルにしています。

 9曲目「Move Out」は、激しく歪んだギターと、アコースティック・ギターを中心に、サイケデリックな雰囲気のアンサンブルが繰り広げられる1曲。メリハリのついた立体的なドラムと、野太く低音域を支えるベースも、アンサンブルに奥行きを与え、ハーモニカの音色もサイケデリックな空気をさらに演出。

 14曲目「Check-Out Time」は、圧縮されたように歪んだギターと、60年代の香り漂うオルガンの音色が溶け合う、ゆったりとしたテンポの1曲。感情を排したように、囁くように歌うボーカルも、ミドル・テンポとも合間って、独特のサイケデリックで幻想的な雰囲気を醸し出しています。

 歪んだギターを中心に、グランジらしいサウンドを鳴らしていた1stアルバムと比較すると、オルガンやハーモニカ、クリーン・トーンのギターを随所に用いて、音楽性を幅の広がりを感じさせる1枚です。特に楽曲によっては、サイケデリックな要素が強く出ています。

 ニルヴァーナに比べれば、日本でも海外でも知名度は劣るのでしょうが、非常に優れたアルバムを作り続けたバンドであると思います。2ndアルバムである本作『Every Good Boy Deserves Fudge』も、時代の流れに乗ったアルバムではなく、オリジナリティのある確固とした音楽的志向を持ち、時代の流れを作った作品であると思います。

 マッドハニーは、本作を最後に、メジャーのリプリーズ(Reprise)へ移籍。3rdアルバム以降はリプリーズからの発売となります。(6枚目の『Since We’ve Become Translucent』から、サブ・ポップに復帰)

 





Mudhoney “Mudhoney” / マッドハニー『マッドハニー』


Mudhoney “Mudhoney”

マッドハニー 『マッドハニー』
発売: 1989年11月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jack Endino (ジャック・エンディーノ (エンディノ))

 1984年にワシントン州シアトルで結成されたバンド、グリーン・リヴァー(Green River)。そのグリーン・リヴァーの内紛により、マーク・アーム(Mark Arm)とスティーヴ・ターナー(Steve Turner)を中心に、1988年に結成されたのがマッドハニーです。また、グリーン・リヴァーのメンバーだった、ストーン・ゴッサード(Stone Gossard)とジェフ・アメン(Jeff Ament)は、パール・ジャムを結成。共に、90年代のグランジ・オルタナを代表するバントとなります。

 マッドハニーとパール・ジャムの音楽性を比較すると、アリーナ・ロック色の強いパール・ジャムに対して、ガレージやグランジの色が濃いマッドハニー。同じ「オルタナティヴ・ロック」と「グランジ」を代表するバンドであり、共通する部分もありながら、音楽に対するアプローチには、明確な差異も感じられます。

 単純化して言ってしまえば、整然としたアンサンブルと、音圧の高いパワフルな音像を持ち、商業的な成功も目指すパール・ジャムに対して、サウンドにもアンサンブルにも生々しくラフな部分を残し、商業的な成功よりもあくまで自分たちの音楽を追求するマッドハニー、ということになろうかと思います。このような差異が生まれるのは、元々グリーン・リヴァーで活動を共にしていたメンバーが、方向性の違いから袂を分かつことになったのだから、当然と言えば当然です。

 さて、そんなマッドハニーの1stアルバムは、ガレージ・ロックの香り漂う、ざらついたサウンド・プロダクション。ですが、ビートを強調した疾走感重視のアルバムではなく、揺らぎのある立体的なアンサンブルが展開されるアルバムです。各楽器のサウンドともパワフルで、ほどよくラフなドタバタ感のある演奏は、グランジ・オルタナの名盤と呼ぶにふさわしいクオリティを持つ1作です。

 1曲目の「This Gift」は、ざらついた音色のギターに、叩きつけるようなドラムが下から波のように押し寄せ、躍動感のあるアンサンブルが展開。トレモロを使用したギターもアクセントになり、楽曲に奥行きを与えています。

 2曲目「Flat Out Fucked」は、そこまでテンポが速いわけではないのに、バンドが塊になって迫ってくるような迫力と一体感のある1曲。

 3曲目「Get Into Yours」は、イントロからギターとドラムが、ぴったりと合うのではなく、お互いのリズムを噛み合うように、ラフに進行していく1曲。再生時間0:58あたりからのサビと思われる部分では、リズムを合わせ疾走感を演出。そのコントラストも鮮やかです。

 5曲目「Magnolia Caboose Babyshit」は、各楽器とも直線的なリズムではなく、捻れや動きのあるフレーズを繰り出し、駆け抜けていく1曲。1分ほどのインスト曲ですが、インタールード的な役割以上の存在感があります。

 6曲目「Come To Mind」は、テンポは抑えめ。気の抜けたようなギターの音色と、ゆったりとしたアンサンブルからは、サイケデリックな空気が漂う1曲。

 7曲目「Here Comes Sickness」は、耳に絡みつくような歪んだサウンドのギターと、弾むような躍動感のあるリズム隊が溶け合う1曲。特にドラムはパワフルで立体感のあるプレーを聞かせ、その上を自由にギターが暴れまわります。

 12曲目「Dead Love」は、バンド全体がバウンドするような、一体感と疾走感のある曲。ドラムは立体的に響き渡り、ワウを使用したギターも絡みつくようにアクセントになっています。ボーカルも伴奏の上にメロディーを乗せるというより、バンドと絡み合うようなバランス。

 オリジナル盤は12曲収録ですが、2009年に再発された日本盤にはボーナス・トラックが2曲が追加され、14曲収録となっています。

 生々しく、ざらついたサウンドで、立体感のあるパワフルなアンサンブルが展開される1作。ギターの使用されるワウや、多様なリズムを叩き分けるドラムが、時にガレージ色を強め、時にサイケデリックな空気を振りまき、アルバム全体をカラフルに彩っています。

 前述したグリーン・リヴァーからの流れを含めた、オルタナティヴ・ロック及びグランジの歴史的価値もさることながら、クオリティの面でも、グランジの古典的名盤であり、初期サブ・ポップを代表するアルバムと言えます。

 





 


I Am Ghost “Those We Leave Behind” / アイ・アム・ゴースト『ゾーズ・ウィ・リーヴ・ビハインド』


I Am Ghost “Those We Leave Behind”

アイ・アム・ゴースト 『ゾーズ・ウィ・リーヴ・ビハインド』
発売: 2008年10月7日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Paul Leavitt (ポール・リーヴィット)

 ボーカルのスティーブン・ジュリアーノ(Steven Juliano)が、音楽系SNSのMyspace上でメンバーを募り、2004年にカリフォルニア州ロングビーチで結成されたバンド、アイ・アム・ゴーストの2ndアルバム。

 結成時および1stアルバム製作時は6人編成で、女性バイオリニストを擁する事でも話題になりましたが、2007年6月に健康上の問題を理由に、バイオリンのケリス・テレスタイ(Kerith Telestai)が脱退。さらに、ケリスの夫でベースを担当していたブライアン・テレスタイ(Brian Telestai)も脱退します。

 さらに、ギター、ベース、ドラムにもメンバー交代があり、1stアルバム時のメンバーは、ボーカルのスティーブン・ジュリアーノ(Steven Juliano)と、リードギターのティモテオ・ロサレス3世(Timoteo Rosales III)の2名のみ。5人編成で、今作のレコーディングに臨んでいます。

 バイオリンのケリス・テレスタイは脱退してしまいますが、今作でもバイオリンとチェロのサポート・メンバーを迎えているため、編成楽器上の差異はありません。しかし、メンバーが3人も交代していることもあり、音楽面では変化が聞き取れます。

 メタル的なテクニカルな演奏と、ゴシック・パンク的な世界観、パンク的なキャッチーなメロディーが同居しているのは、前作と共通していますが、アンサンブルはややシンプルに落ち着いた印象。前作の方が、複雑で立体的なアンサンブルが構成されていましたが、今作の方が疾走感重視の流れるような演奏になっています。

 この変化は、メンバー交代によるものなのか、主導的な立場であるスティーブン・ジュリアーノの志向の変化なのかは、わかりません。いずれにしても、前作より劣っているということでも、全く同じということでもなく、多種多様なジャンルを消化した、アイ・アム・ゴーストらしいポスト・ハードコアが展開されているのは確かです。

 前作も1曲目がイントロダクション的なトラックが収録されていましたが、今作の1曲目「Intro: We Dance With Monsters」も、女性の囁き声とピアノが重なる、40秒ほどのイントロ的トラックです。曲目にも「Intro」と付いていますね。

 1曲目からシームレスに繋がる2曲目の「Don’t Wake Up」は、アップテンポの疾走感あふれる1曲。イントロの滑らかに歌うようなギターとベースが、加速感を演出しています。

 3曲目「Those We Leave Behind」は、ボーカルのシャウトと、ギターのリズムのタメが、鬱屈した感情と、その解放をあらわしているかのような曲。

 7曲目「Smile Of A Jesus Freak」は、イントロの地を這うようなベース・ラインから始まり、タイトなリズムのギターと、流れるような歌のメロディーが、疾走していく1曲。再生時間0:39あたりからのベースなど、曲を加速させるフックが随所にあります。

 13曲目「They Always Come Back」は、演奏もボーカリゼーションも、パンク色の濃い爽やかな1曲。少なからずメタルやゴシックの要素を感じさせるバンドですが、この曲にはゴシック要素は無く、青空の下で歌い上げるような開放感のあるサウンドとメロディーです。

 1stアルバム時から、2年しか経っていないものの、多数のメンバー交代を経たあとの2ndアルバム。音楽面では、ゴシックとパンクがきちんと消化された上で融合した前作の良さは引き継ぎつつ、今作はより疾走感を重視したアルバムのように感じました。

 「ポスト・ハードコア」という言葉でくくってしまうと、あまりにも言葉の意味が広く、抜け落ちるものが多いですが、様々なジャンルを参照しつつ、自分たちオリジナルの音楽を作りあげるアイ・アム・ゴーストは、まさにポスト・ハードコア的なバンドだと言えるでしょう。

 





I Am Ghost “Lovers’ Requiem” / アイ・アム・ゴースト『ラヴァーズ・レクイエム』


I Am Ghost “Lovers’ Requiem”

アイ・アム・ゴースト 『ラヴァーズ・レクイエム』
発売: 2006年10月10日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Michael “Elvis” Baskette (マイケル・”エルヴィス”・バスケット)

 2004年にカリフォルニア州ロングビーチで結成されたバンド、アイ・アム・ゴーストの1stアルバム。ボーカルを務めるスティーブン・ジュリアーノ(Steven Juliano)が、音楽系SNSのMyspace(マイスペース)を使ってメンバーを募集したというのが、なんとも現代的。

 本作『Lovers’ Requiem』レコーディング時は6人編成で、バイオリンを担当するメンバーが在籍しているのが特徴。正規メンバーにバイオリニストがいることも示唆的ですが、ゴシックな雰囲気が漂い、メタルからの影響を感じさせるテクニカルな部分、ハードコアからの影響を感じさせる疾走感あふれる部分が、絶妙にブレンドされた音楽が展開されます。

 アメリカを代表するパンク系レーベル、エピタフ所属バンドらしいスピード感と、メタルやゴシックの壮大な世界観が、無理なく融合した1作とも言えるでしょう。

 また、前述したバイオリン担当のケリス・テレスタイ(Kerith Telestai)で、コーラスも務めており、男女混声のコーラスワークも音楽に厚みと奥行きを加えています。(ケリス・テレスタイ以外にも、サポートで女性ボーカルを加えているようですが)

 2分足らずのイントロダクション的な1曲目「Crossing The River Styx」は、荘厳なコーラスワークとストリングスが、まさにレクイエムのように響く、神聖な雰囲気の1曲。

 2曲目「Our Friend Lazarus Sleeps」は、流れるようなボーカルのメロディーと、メタル的なテクニカルなギターのアンサンブルが前面に出た、疾走感あふれる曲。再生時間1:41あたりからの、ベースとドラムのみになるところなど、展開もドラマチック。

 6曲目「Of Masques And Martyrs」は、イントロから激しく捻れるようなギターと、バイオリンが絡み合う、壮大な世界観を持った1曲。

 7曲目「Lovers’ Requiem」も、6曲目に引き続き、絡み合うギターとバイオリンが印象的。デスヴォイス的な歌唱と、エモ的な高らかに歌い上げるような歌唱が同居した1曲。

 12曲目「Beyond The Hourglass」は、クリーン・トーンのギターによるメロウなイントロから始まり、疾走感のある轟音のパートへと展開。アルバムの最後にふさわしく、リズムの切り替えなど、多様な展開がある、壮大な1曲です。

 日本盤には、13曲目にボーナス・トラックとして「The Malediction」が、収録されています。

 メタル的な様式美と、ゴシック的な世界観を持ちながら、エモやパンクを彷彿とさせる、ポップで親しみやすい歌メロが共存し、仰々しくなりすぎず、コンパクトにまとまったアルバムだと思います。

 前述したように正規メンバーとしてバイオリンがいるのですが、通しで聴いてみると、そこまで効果的にアクセントになっているわけでも、アンサンブルの中核を担っているわけでもないかな、というのが正直なところ。しかし、バンドとしては、それぞれの音楽的志向を持ち寄り、うまくまとめ上げられたバランスの良い作品であることは確かです。