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Ty Segall “Freedom’s Goblin” / タイ・セガール『フリーダムズ・ゴブリン』


Ty Segall “Freedom’s Goblin”

タイ・セガール 『フリーダムズ・ゴブリン』
発売: 2018年1月26日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 カリフォルニア州ラグナ・ビーチ出身のミュージシャン、タイ・セガールの10枚目のソロ・アルバム。このアルバムが発売された時点で、タイ・セガールはまだ30歳!なのに10作目。

 さらにソロ以外にも、ファズ(Fuzz)やシック・アルプス(Sic Alps)など、バンドでの活動歴もあり、非常に多産なミュージシャンです。19曲、約75分にも及ぶボリュームも凄い。

 ガレージ的な歪みのギター、ドタバタした立体的なドラム、飛び道具的なファニーなサウンドが散りばめられた、カラフルなサウンド・プロダクションを持ったアルバム。多種多様な音楽ジャンルが顔を出しますが、アルバムとしての一体感もあります。

 折衷的な印象にならず、とっ散らかってもいないのは、彼の個性がより濃く出ているからだと言えるでしょう。ガレージを下地に、様々なジャンルの要素を吸収しながら、モダンなインディーロックを鳴らしています。

 1曲目の「Fanny Dog」のイントロから、ストライド・ピアノが軽快にリズムを刻み、ホーンが楽曲をゴージャズに彩ります。このアルバムを象徴するような、カラフルな1曲。

 3曲目「Every 1’s A Winner」は、毛羽立ったサウンドのギターと、立体的なドラムが絡み合う1。

 5曲目「When Mommy Kills You」は、ジャンクな歪みのギターが疾走するガレージ・ロック。

 6曲目「My Lady’s On Fire」は、アコースティック・ギターとボーカルのみのイントロから始まり、フルバンドになると緩やかなグルーヴが生まれる、ウォームなサウンド・プロダクションの1曲。

 8曲目「Meaning」は、立体的で奥行きのあるドラムに、ノイジーでフリーキーなギターが絡むイントロ。再生時間1:10あたりからは、隙間を全て埋め尽くすようなディストーション・ギターを中心にした、疾走感あふれるガレージロックが展開。

 13曲目「She」は、ファズ・ギターが段階的に重なっていくイントロから、コンパクトにまとまったガレージ・ロックが展開される1曲。

 17曲目「I’m Free」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされた、カントリー色濃い1曲。タイ・セガールのボーカルも穏やか。ドラムが鼓動のように打ち続ける4つ打ちも、楽曲に躍動感を与えています。

 毛羽立ったサウンドのギターが多用され、ガレージ色の濃いアルバムですが、ガレージ一辺倒ではなくカラフルな印象を与える作品。

 曲によってサイケデリックな空気や、カントリーなどルーツ・ミュージックの雰囲気も織り交ぜながら、すべてタイ・セガールという人の個性に帰結していて、月並みな言い方だけど「タイ・セガールというジャンル」と呼ぶべき音楽が展開されています。

 タイ・セガールのボーカリストとしての表現力も幅を広げていて、アルバムの世界観を多彩にするのに一役買っているなと思いました。

 





Anna Burch “Quit The Curse” / アンナ・バーチ『クイット・ザ・カース』


Anna Burch “Quit The Curse”

アンナ・バーチ 『クイット・ザ・カース』
発売: 2018年2月2日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 ミシガン州デトロイト出身のバンド、フロンティア・ラッカス(Frontier Ruckus)の元メンバーであり、フェイルド・フラワーズ(Failed Flowers)での活動でも知られる、アンナ・バーチの初ソロ・アルバムです。アメリカ国内ではPolyvinyl、イギリスとヨーロッパではHeavenly Recordingsからのリリース。

 フォークやカントリーからの影響がわかりやすく、オルタナ・カントリー色の濃いフロンティア・ラッカスの音楽性から比較すると、アンナ・バーチのソロ作は、よりルーツを感じさせない音楽になっています。あえてジャンル名を使って表すなら、ギター・ポップ風味のあるインディーロックといったバランスの作品です。

 Polyvinylのウェブサイトでは、クリスタル・クリア・ボーカル・ハーモニー(crystal clear vocal harmonies)と表現されるアンナ・バーチの歌声は、透きとおるように繊細で、このアルバムの大きな魅力のひとつです。

 1曲目の「2 Cool 2 Care」は、透明感のあるギター・サウンドと、アンナの透き通るようなウォームな声が、空間に優しく沁みわたる1曲。再生時間2:28あたりからのギターのフレーズと、全体の有機的なアンサンブルも聴きどころ。

 2曲目「Tea-Soaked Letter」は、バンド全体が波打つように緩やかにグルーヴしていくのが心地よい1曲です。間奏での流れるようなギターのフレーズも、曲に彩りを添えています。一聴するとシンプルな耳ざわりの曲ですが、複数のギターが絡み合うアンサンブルは、なかなか複雑です。

 4曲目はアルバム表題曲の「Quit The Curse」。ゆったりとしたテンポで、バンド全体でたっぷりとタメを作った演奏を展開します。

 5曲目「Belle Isle」は、みずみずしいサウンドのギターと、柔らかなボーカルが溶け合い、ヴェールに包まれたような音像を作り上げる1曲。

 9曲目「With You Every Day」は、シンプルな伴奏に、多層的なコーラスワークが溶け合う1曲。各楽器のフレーズはシンプルですが、再生時間1:59あたりからのわずかに躍動感が生まれるようなアレンジなど、リズムの違いで楽曲の展開を多彩にしています。

 アルバム全体を通して、各楽器とも飾り気が無くナチュラルな音質が多用されていますが、耳に心地よく響くサウンドばかりです。オーバー・プロデュースにはならず、丁寧に音作りがなされているのがわかります。

 特にギターの音は、空間系のエフェクターをやり過ぎにならない程度に、効果的に使った透明感のあるサウンドが多く、そのサウンドをもって組み上げれらるアンサンブルも素晴らしいです。

 聴き始めたときは、まあなかなか良いアルバムだなぐらいに思っていましたが、通しで聴くと良さが、さらに滲み出てきました。

 





Butthole Surfers “Locust Abortion Technician” / バットホール・サーファーズ『ローカスト・アボーション・テクニシャン』


Butthole Surfers “Locust Abortion Technician”

バットホール・サーファーズ 『ローカスト・アボーション・テクニシャン』
発売: 1987年3月
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 テキサス州サンアントニオ出身のバンド、バットホール・サーファーズの3rdアルバムです。

 とにかく変な音を出しまくるバンド、バットホール・サーファーズ。本作『Locust Abortion Technician』も、オルタナティヴやアヴァンギャルドというより、「ワルノリが過ぎる」と言った方が適切なアルバムです。音楽の下地には、シンプルなロックが見え隠れしますが、表層的にはファニーな音やアレンジが耳につきます。

 ジャンクで実験的でサイケデリック。とっ散らかった音楽が展開されますが、各曲とも不思議なまとまりがあります。とはいえ、一般的にはかなりエキセントリックな作品なので、知り合いや家族が近くにいる場所で聴くときは、注意しましょう。

 1曲目は「Sweat Loaf」。タイトルから想像できる方もいらっしゃると思いますが、ブラック・サバスの「Sweet Leaf」のオマージュで、ギター・リフをそのまま拝借しています。しかし、ギターの音質はブラック・サバス的なハード・ロックを感じさせるものではなく、もっと下品でジャンクな響きを持ったもの。

 ボーカルもメロディアスでは決してなく、笑い声や叫び声が飛び交う曲です。アルバム冒頭から、先行きが楽しみになってきます(笑)

 2曲目「Graveyard」も、イントロからノイジーかつヘロヘロな高音ギターが響き渡ります。慣れてくると、何も感じなくなってきてしまいますが、この曲もかなり変な曲です。下品に歪んだギターが、突拍子もないフレーズを随所の差し込み、エフェクトがかかり過ぎたボーカルが、うめき声のように響きます。

 3曲目「Pittsburg To Lebanon」のイントロには、さわやかな鳥のさえずりがサンプリングされています。しかし曲自体はさわやかとは程遠く、重たく引きずるようなスローテンポに、つぶれるほど歪んだリズム・ギターと、耳障りなリード・ギターが乗り、ボーカルは嘔吐でもするかのような、下品な歌い方。実にバットホール・サーファーズらしい1曲だと思います。

 6曲目の「Human Cannonball」は、ドタバタしたドラムのリズムに、フリーキーなボーカルと、自由でノイジーなギターが乗っかる1曲。全体のサウンド・プロダクションは、かなり奇妙なのは事実ですが、ノリが良く、普通のロックのように聴くことも可能です。

 7曲目「U.S.S.A.」は、ボーカルも含め全ての楽器が下品に歪んでいて、一体感…というより塊感のある1曲。アンサンブルがどうこうという楽曲ではなく、ボーカルにも加工がなされているため、聴く人によっては、プレイヤーが故障したと勘違いするかもしれません。

 アルバムを通して、とにかく下品でジャンクな空気が充満した1作です。ただ、実験性が高すぎて聴きにくいかというと、ドラムのリズムやギター・リフなど、音楽として楽しめる要素を残した曲が多く、意外と普通に聴けます。まったくポップ・ソングの体をなしてないトラックも、中にはありますが(笑)

 これは価値観によるんでしょうが、バットホール・サーファーズを聴いたときに人の反応は、不快に顔をしかめるか、ワルノリに笑ってしまうか、のいずれかが多いのではないでしょうか。僕は後者です。

 意味わかんない音楽やってるんだけど、アレンジやエフェクトにポストロック的な要素を感じたり、エキセントリックなロックとして聴けたり、個人的には面白いアルバムだなと思います。

 





Storm & Stress “Storm & Stress” / ストーム・アンド・ストレス『ストーム・アンド・ストレス』


Storm & Stress “Storm & Stress”

ストーム・アンド・ストレス 『ストーム・アンド・ストレス』
発売: 1997年7月8日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 バトルスとドン・キャバレロでの活動で知られるイアン・ウィリアムスが在籍していたバンド、ストーム・アンド・ストレスの1stアルバムです。

 バトルスの色彩豊かなサウンド・プロダクション、ドン・キャバレロの凝縮されたダイナミズムと比較すると、本作で聴かれるのは実験性が高い音楽です。ガチガチに複雑なアンサンブルを組み上げるマスロックというより、フリーな雰囲気の演奏が展開されます。

 ギターも、鋭い歪みや、音圧高めの重いサウンドは控えめに、ナチュラルに近い音質が多用されています。

 1曲目「We Write Threnodies. We Write With Explosions」は、12分を超える曲ですが、音数は少なく、隙間の多いアンサンブルです。ドラムはところどころ、叩きつけるように手数の多さを見せます。

 2曲目の「Today Is Totally Crashing And Stunned In Bright Lights」も、ちょうど10分ぐらいの長さを持つ1曲。特に前半は、1曲目以上に実験的かつミニマルな演奏が展開されます。フレーズというより、フレーズの断片のようなギターとドラムの音が、それぞれ絡み合うでもなく、同時に鳴っている、という感じです。

 4曲目「Micah Gaugh Sings All Is All」は、不安定な音程のピアノの伴奏に乗せて、ボーカルがメロディーを紡ぐ1曲。アルバムのなかでインタールード的、箸休め的な1曲になっています。

 5曲目「Guitar Cabinet Stack Way High Is Freedom [Or] Gravity Gives Us Rhythm」は、イントロから、ギターとドラムがアンサンブルを形成するでもなく、フレーズを繰り出していきます。やがて、グルーヴらしきものが生まれていきますが、かなりフリーな曲であるのは確かです。

 7曲目「Orange Cone Made No Noise」は、飾り気のないボーカルから始まり、各楽器が絡み合うようにフリーな演奏を始める展開。中盤は音数が減り、アンビエントな雰囲気へ。

 前述したとおり、バトルスやドン・キャバレロと比較すると、展開やアンサンブルが実験的で、やや敷居の高いアルバムであると思います。あと書いてて気がつきましたけど、曲名が全部長い(笑) 無理やりジャンル名を用いてあらわすなら、かなりエクスペリメンタル色の濃いマスロックです。

 ロック的なグルーヴ感やアンサンブル、バンドが塊になったダイナミズムは希薄で、各楽器のフレーズが断片的に配置されたような耳ざわりの1枚。その代わりに、各楽器のプレイが前景化され、ギターやドラムのむき出しのかっこよさにスポットライトが当たります。ボーカルも入っていますが、メロディーを歌うよりもむしろ、素材として使用されています。

 しかし、随所にかっこいい瞬間があるのは事実で、ロック的なグルーヴ感とは違う、新しいグルーヴやアンサンブルを追求したアルバムとも言えます。

 





No Joy “Ghost Blonde” / ノー・ジョイ『ゴースト・ブロンド』


No Joy “Ghost Blonde”

ノー・ジョイ 『ゴースト・ブロンド』
発売: 2010年11月16日
レーベル: Mexican Summer (メキシカン・サマー)

 カナダのモントリオール出身のシューゲイザー・バンド、ノー・ジョイの1stアルバムです。

 囁くような耽美なボーカルと、歌メロもバンドのサウンドに埋もれ、一体となったバランスは、まさにシューゲイザーと言えます。

 ディストーション・ギターやフィードバック・ノイズが活躍するアルバムであるのは確かですが、ギターの音作りには各弦の響きまで確認できるものも多く、バンドのアンサンブルも丁寧に作り上げられている作品です。

 1曲目の「Mediumship」では、イントロから歪んだギターの音と、フィードバックが鳴り響き、その奥から流れるような歌メロが聴こえてきます。ノイジーなギターと、美しいメロディー。アルバム冒頭から、シューゲイザーらしい1曲です。

 2曲目の「Heedless」も、ギターのフィードバックが鳴り響くイントロから始まり、その後は複数のギターが空間を埋め尽くす1曲。コードを弾くリズム・ギターは、歪んではいますが、そこまで深くエフェクターはかかっておらず、何を弾いているのか聞き取りやすい音色です。

 4曲目「You Girls Smoke Cigarettes?」は、リズム隊が力強く、疾走感のある1曲。ギターよりも、硬い音質のベースが前面に出てくるアレンジです。

 5曲目「Pacific Pride」は、アンビエントな雰囲気のイントロから、緩やかにグルーヴする軽快な曲が展開されます。イントロで聴こえた持続音は、その後も鳴り続け、ヴェールのように楽曲を包み込みます。

 6曲目は「Hawaii」。タイトルからの先入観を抜きにしても、ザ・ベンチャーズのようなサーフ・ミュージックを彷彿とさせるイントロから始まります。楽曲もサーフ・ミュージック特有のノリの良さがあります。しかし、高音のノイジーなギターが鳴り響き、全体のサウンドはシューゲイザー的なもの。

 9曲目「Untitled」。歌なし、1分ちょっとのインタールード的な曲ですが、空間系エフェクトのかかったギターが、自由にはずむような開放感のある1曲で、アルバムのなかで良いアクセントになっています。

 囁き系のボーカルと、歌もバンドの一部に溶け込んだサウンド・プロダクションは、シューゲイザーらしいと言えます。しかし、曲によってはエフェクター控えめで原音を認識できる音作りのギターも多く、バンドの躍動感も大切にしている作品だと思います。

 サーフ・ミュージックやガレージ、エレクトロニカを感じさせる要素も散りばめられ、カラフルな印象を持ったアルバムです。