「ディスクレビュー」カテゴリーアーカイブ

No Joy “More Faithful” / ノー・ジョイ『モア・フェイスフル』


No Joy “More Faithful”

ノー・ジョイ 『モア・フェイスフル』
発売: 2015年6月8日
レーベル: Mexican Summer (メキシカン・サマー)
プロデュース: Jorge Elbrecht (ホルヘ・エルブレヒト)

 カナダのモントリオール出身のシューゲイザー・バンド、ノー・ジョイの3rdアルバムです。

 浮遊感のある耽美なボーカルは、マイブラを彷彿とさせます。ですが、圧倒的な轟音ギターで押し流すわけではなく、ドラムのビートもはっきりしていて、バンド全体のアンサンブルもしっかりしたアルバムに仕上がっています。

 ギター・サウンドも量感で圧倒するような轟音の一辺倒ではなく、曲によって適材適所で音作りがなされており、通しで聴くと多彩な印象が残る作品だと思います。

 1曲目の「Remember Nothing」は、冒頭の1曲らしく、前のめりになった疾走感が溢れる曲です。リズム隊がしっかりと土台を支え、その上にノイジーなギターと流れるような歌メロが乗る構造。硬い音質のベースも大活躍。

 2曲目「Everything New」は、各楽器が絡み合うように立体的なアンサンブルを形成します。ギターはエフェクト控えめで、各楽器を分離して聞き取りやすい1曲。

 5曲目「Burial In Twos」は、トレモロのかかったギター(もしかしたらキーボードかも)が印象的。それ以外にも複数の異なるサウンドのギターが重なっていき、多層的なアンサンブルを形成していく1曲。

 6曲目「Corpo Daemon」は、ガレージ風のギターが唸りをあげ、バンド全体も疾走していくロックな1曲。ボーカルにもエフェクトがかけられ、シューゲイザーとガレージが融合した曲、といった感じです。

 10曲目「I Am An Eye Machine」は、空間系エフェクターをかけられ、揺れるギター・サウンドが空間に浸透していくような1曲。轟音で押し流すのではなく、ゆっくりと音が空間を埋めていくような1曲です。

 歌メロよりも、楽器の音が前景化されるという意味では、シューゲイザー的な作品。言い換えれば、歌メロも楽器の一種かのように、バンドのアンサンブルに溶け込んでいます。

 前述したとおり、曲によってエフェクターを使い分け多種多様なギター・サウンドを響かせています。さらに、そのサウンドを用いて、音響が前面に出たアプローチだけでなく、バンドらしいアンサンブルも構成されるアルバムだと言えます。

 シューゲイザーが好きな方にも、もう少し音像のくっきりしたインディー・ロックが好きな方にも受け入れられやすい、間口の広い作品であると思います。

 





Calexico “Carried To Dust” / キャレキシコ『キャリード・トゥ・ダスト』


Calexico “Carried To Dust”

キャレキシコ 『キャリード・トゥ・ダスト』
発売: 2008年9月9日
レーベル: Quarterstick (クォータースティック)
プロデュース: Craig Schumacher (クレイグ・シューマッハ)

 アリゾナ州ツーソンを拠点に活動するバンド、キャレキシコの6枚目のスタジオ・アルバムです。

 生楽器を用い、フォークやカントリーなどのルーツ・ミュージックを多分に感じさせるサウンド・プロダクション。ですが、アンサンブルにはルーツの焼き直しには留まらない、モダンな要素も併せ持ったアルバムです。

 5曲目の「Writer’s Minor Holiday」は、音数がギチギチに詰め込まれているわけではないですが、各楽器が有機的に絡み合い、緩やかにグルーヴしていく1曲。アコースティック・ギターの音が中心に据えられていますが、コーラス・ワークや随所に挟まれるエレキ・ギターのフレーズが、カントリー色を薄め、モダンな雰囲気をプラスしています。

 6曲目の「Man Made Lake」は、生楽器を中心としていますが、イントロでのエフェクト処理など、実験的な要素もあります。各楽器が絡み合う一体感のあるアンサンブルが展開されます。再生時間1:06あたりからの鉄琴のような音がアクセント。

 7曲目「Inspiracion」は、民謡のような、民族音楽のような雰囲気の1曲。しかし、ところどころノイズ的な音やファニーな音を散りばめ、バランスを取るところが彼ららしい。

 8曲目「House Of Valparaiso」は、アコースティック・ギターとドラムが中心の、楽器の数が絞られた1曲ですが、手数が少ないながらも立体的にリズムを刻むドラムが、楽曲全体にも奥行きを与えています。

 12曲目「Fractured Air (Tornado Watch)」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、一聴するとフォーキーな耳ざわりの曲ですが、エレキ・ギターのカッティングや全体のやや複雑なアンサンブルが、フォーク色を薄めカラフルな印象をプラス。再生時間2:05あたりからの展開など、ポストロックを感じさせる現代的な空気も共存しています。

 フォーク、カントリー、民族音楽など多種多様なルーツ・ミュージックを感じさせながら、モダンな空気も併せ持ったアルバムです。

 一聴するとフォークやカントリーを彷彿とさせる楽曲群ですが、ちょっとしたサウンドやアレンジを足すことで、全体のルーツくささを抑え、モダンな雰囲気に仕上がっていると思います。

 ウィルコ(Wilco)等のいわゆるオルタナ・カントリーよりも、一聴するとルーツ色の濃いサウンドですが、ちょっとした音やアレンジのエッセンスでオルタナ感を演出しており、こちらのバランス感覚も好きです。

ディスクレビュー一覧へ移動

 





No Joy “Wait To Pleasure”/ ノー・ジョイ『ウェイト・トゥ・プレジャー』


No Joy “Wait To Pleasure”

ノー・ジョイ 『ウェイト・トゥ・プレジャー』
発売: 2013年4月23日
レーベル: Mexican Summer (メキシカン・サマー)
プロデュース: Jorge Elbrecht (ホルヘ・エルブレヒト)

 カナダのモントリオール出身のシューゲイザー・バンド、ノー・ジョイの2ndアルバムです。

 深くエフェクトのかかったギターを中心にしたアンサンブルに、耽美なボーカルが溶け合う、これぞシューゲイザー!というサウンドの1作。しかし、音響が前景化した作品かというとそうでもなくて、アンサンブルにも聴き応えのある作品です。

 1曲目「E」は、ギターのフィードバックが響きわたるイントロから、低音の効いた立体的なドラムと、分厚いサウンドのギターが層になって加わり、音の壁を作り上げます。音で満たされた空間を、ボーカルが自由に羽ばたくようにメロディーを紡いでいきます。

 全体にファズのかかったような塊感のあるサウンドなのですが、再生時間1:53あたりから開放的かつ立体的なサウンド・プロダクションへ。このようなコントラストを効果的に用いるのも、このバンドの特徴です。

 3曲目の「Prodigy」は、ドラムのリズムと音色がくっきりとしていて、ノリの良い疾走感のある1曲。

 8曲目「Wrack Attack」は、緩やかなグルーヴ感と浮遊感が共存する1曲。タイトでシンプルなリズム隊と、エフェクターを控えめに各弦の音まで認識しやすいギターのコード・ストローク、ドリーミーなボーカルが溶け合います。

 9曲目「Ignored Pets」は、イントロから複数のギターが重なってきますが、それぞれ音色が違っていて、多層的に響きます。ドラムのリズムもはっきりしていて、疾走感のある1曲。

 前述したとおり、いわゆるシューゲイザー的なサウンド・プロダクションを持った1枚です。空間を埋め尽くすような分厚いギター・サウンドが随所に聴かれますが、それだけには留まらない多彩なサウンドも響かせています。

 複数のギターが重ねられていますが、それぞれのギターの音作りが違うものが多く、丁寧にギター・オリエンテッドな音楽を組み上げていることがうかがえます。

 曲によっては、音響よりもアンサンブル重視と思われるもの、リズム重視でドラムが前景化される楽曲もあり、一本調子な印象にはならず、バラエティ豊かな1枚になっていると思います。

 1st『Ghost Blonde』と、3rd『More Faithful』は配信されているのに、なぜだか現時点では、この2ndアルバムのデジタル配信はおこなわれていないようです(>_<)





Eleanor Friedberger “Last Summer” / エレナー・フリードバーガー『ラスト・サマー』


Eleanor Friedberger “Last Summer”

エレナー・フリードバーガー 『ラスト・サマー』
発売: 2011年7月12日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Eric Broucek (エリック・ブロウチェック)

 ザ・ファイアリー・ ファーナセス(The Fiery Furnaces)のボーカリスト、エレナー・フリードバーガーの初のソロ・アルバムです。

 各楽器ともシンプルなサウンドを鳴らし、全体としてもオーガニックな響きを持った1枚。音の数も絞り込まれているのですが、シンプルかつ躍動感のあるアンサンブルが展開され、隙間が多いという印象はありません。

 むしろ、音が絞り込まれていることで、それぞれの音の情報量が多く感じられます。用いられる音色の種類も決して多くはないものの、アレンジの妙によってカラフルなイメージを与えるアルバムになっています。

 1曲目「My Mistakes」は、アコースティック・ギターとドラム、ボーカルによるシンプルなイントロから幕を開けます。アコギ主体のサウンドですが、楽曲からは古き良きロックンロールの香りが漂います。キーボードと思われる電子音がアクセント。

 2曲目の「Inn Of The Seventh Ray」は、ゆったりとしたテンポで、ギター、キーボード、ドラムが立体的に絡み合う1曲。各楽器とも基本的にはナチュラルな音色ですが、アンサンブルとエフェクトからほのかにサイケデリックな空気が漂います。

 5曲目の「Roosevelt Island」は、シンセサイザーの音色と、ラップ的というのとは違う、早口言葉のようなボーカルが印象的な1曲。

 9曲目「Owl’s Head Park」は、アコーディオンのような音色も聞こえますが、ベースの音を筆頭に電子的なサウンド・プロダクションを持った1曲。しかし、冷たいという印象ではなく、歌が前景化された暖かみのある曲です。

 アコースティック・ギターを中心にしたナチュラルなサウンドを基本としながらも、随所にエフェクターやシンセサイザーによってアクセントをつけ、全体としてはカラフルなサウンド・プロダクションに仕上がっています。

 ややハスキーなボーカルは、それだけでも十分に魅力的なのですが、ところどころエフェクトがかけられ、オーバーダビングも効果的に用いられています。

 音作りもアンサンブルも基本的にはシンプルなのですが、オルタナティヴな空気も同居し、いきいきとした躍動感も感じられる1作。

 





Neutral Milk Hotel “In The Aeroplane Over The Sea”/ ニュートラル・ミルク・ホテル『イン・ザ・エアロプレーン・オーバー・ザ・シー』


Neutral Milk Hotel “In The Aeroplane Over The Sea”

ニュートラル・ミルク・ホテル 『イン・ザ・エアロプレーン・オーバー・ザ・シー』
発売: 1998年2月10日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Robert Schneider (ロバート・シュナイダー)

 フロントマンのジェフ・マンガム(Jeff Mangum)を中心に、ルイジアナ州ラストンで結成されたバンド、ニュートラル・ミルク・ホテルの2ndアルバムです。プロデューサーは前作に引き続き、ロバート・シュナイダー。

 前作『On Avery Island』は、エフェクトを深くかけたギターを多用し、ガレージやサイケデリックの香りを振りまきつつ、全体としてカラフルなインディー・ロックに仕上げたアルバムでした。

 2作目となる本作では、アコースティック・ギターの使用が増え、サウンド・プロダクションは格段にフォーキーに。バンジョーやアコーディオンも導入され、鳴らされる音楽もカントリーや民族音楽の要素が色濃くなったアルバムと言えます。

 そして、アヴァンギャルドな要素をポップに仕立てあげるセンスも健在。アコースティック・ギターを中心に据えたフォーキーなサウンドに、ところどころアヴァンギャルドな音やアレンジが差し挟まれる1作です。ホーンも入って、スケールの大きさを感じさせるアルバムでもあります。

 2曲目の「The King Of Carrot Flowers Pts. Two & Three」は、牧歌的な雰囲気のイントロから始まり、再生時間0:48あたりから激しく歪んだエレキ・ギターが入ってくると、そこからガレージ風のロックへ。コントラストが鮮烈な1曲です。

 5曲目「The Fool」は、ホーンやアコーディオンな音色が多層的に重なる、民謡的な雰囲気を持った1曲。ボーカル無し、インストの曲ですが、インタールード的な役割で聞き流すのには、もったいないぐらいクオリティの高い曲だと思います。ジャンクな雰囲気と、民謡的な生楽器のサウンドが溶け合い「インディー民族音楽」とでも呼びたくようなバランス。

 6曲目「Holland, 1945」は、アコースティック・ギターと毛羽立った歪んだのエレキ・ギターが共に響く、疾走感のある1曲。アコギのオーガニックな響きと、エレキのガレージ的な歪みが溶け合い、このアルバムを象徴するようなサウンド・プロダクション。

 9曲目は「Ghost」。この曲もアコースティック・ギターのみずみずしいサウンドと、野太く歪んだファズ・サウンドのギターが、有機的にアンサンブルを構成。間奏ではホーンも効果的に使用されます。

 10曲目「Untitled」は、電子音から生楽器まで、ノイズ的なサウンドも含め、多種多様な音が飛び交う1曲。タイトル無しなのがもったいないほど、良い曲だと思います。

 フォークやカントリー、さらには民族音楽の要素を多分に含みながら、随所に激しく歪んだギターや、アヴァンギャルドなアレンジが散りばめられた1枚です。

 しかし、敷居が高い印象は全くなく、むしろルーツ・ミュージック色をいい意味で薄めて、モダンなインディー・ロックに仕上がっています。ニュートラル・ミルク・ホテルは、本当にこのセンスが抜群。

 ジャンクでローファイでサイケデリックな香りのする民族音楽、といった趣のアルバムです。