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The Jesus Lizard “Liar” / ジーザス・リザード『ライアー』


The Jesus Lizard “Liar”

ジーザス・リザード 『ライアー』
発売: 1992年10月10日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 テキサス州オースティン出身のバンド、ジーザス・リザードの3rdアルバムです。レコーディング・エンジニアを務めるのは、1stと2ndから引き続きスティーヴ・アルビニ。

 下品でジャンクなサウンドと、変態的なアレンジ。しかし、アンサンブルの構成と各楽器の演奏には、圧倒的な知性とスキルを感じるバンド、それがジーザス・リザードです。本作『Liar』でも、過去2作に引き続いて、ノイズと知性が同居した、すばらしい音楽を聴くことができます

 1曲目「Boilermaker」は、イントロからバンドが塊となって押し寄せるような、疾走感と圧を感じる1曲。単純に音圧が高いのとは違う、生々しく、臨場感のあるサウンドが、聴き手に迫りくる圧を演出しているのだと思います。

 倍音たっぷりに厚みのあるディストーション・サウンドを響かせるギター。野太くもタイトな引き締まった音のベース。スタジオの空気まで感じるぐらい臨場感のあるドラム、とすべての楽器の音がかっこいいです。さらに、そのバンドの上にのるボーカルも、ジャンクな雰囲気をプラスしています。

 2曲目「Gladiator」は、空気の揺れを感じるぐらいにパワフルで堅いサウンドのベースと、1曲目に引き続いてリアルな音像のドラムが、イントロから響きます。シンバルの音が、叩いた強さや、残響音まで分かるぐらいにリアル。

 うめくような、叫ぶようなボーカルも、タイトなバンドの音とアンサンブルとマッチしています。なかなか言語化が難しいところですが、メロディアスではなく、かといってラップやスポークン・ワードでも、パンク的なシャウトでもないデイビット・ヨウ(David Yow)のボーカリゼーションは、大変に個性的だと思います。なおかつ、このバンドにはこの声しかない!というぐらい相性がいい。

 5曲目「Puss」は、空間を切り裂くような金属的なサウンドのギターが、イントロから暴れまわる1曲。エモーションを嘔吐物のように吐き出すボーカルも素晴らしい。

 9曲目「Zachariah」は、スローテンポにのせて、各楽器がタメをたっぷり作り、滞留的な空気を作る1曲。再生時間0:37あたりからの、時空が歪んでいるかのようなギターのサウンドが気持ちいい。

 彼らの特異性は、この曲のようにテンポを落とした時にこそ際立つのではないかと思います。再生時間3:17あたりからの、突然の加速もコントラストが鮮烈。

 過去2作の魅力はそのままに、さらに変幻自在なサウンドとアレンジを聴かせてくれるアルバムです。サウンドはアルビニ印といいますか、安定して生々しい臨場感あふれる音に仕上がっています。バンドの音作りに関しては、過去2作より本作は音が太く、重厚なサウンドを志向しているように思います。

 





The Jesus Lizard “Goat” / ジーザス・リザード『ゴート』


The Jesus Lizard “Goat”

ジーザス・リザード 『ゴート』
発売: 1991年2月21日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 テキサス州オースティン出身のバンド、ジーザス・リザードの2ndアルバムです。レコーディング・エンジニアは、前作から続いてスティーヴ・アルビニが務めています。

 1990年代のTouch And Goを代表するバンドであり、スティーヴ・アルビニが録音を担当したバンドのなかでも、人気の高いジーザス・リザード。本作も、ジャンクかつ実験的な雰囲気を持ちながら、同時に緻密なアンサンブルが展開される名盤です。

 もう少しフランクに言い換えると、アレンジも音も変態的だけど、めちゃくちゃかっこいい!ということです。アルビニ先生の手による、混じり気のない殺伐としたサウンドも、彼らの音楽を引き立てます。というより、彼らが出していた音と空気感を、アルビニが完璧に録音して閉じ込めたということでしょう。

 1曲目「Then Comes Dudley」。堅くハリのある音質のベースと、独特のツヤのあるギターの単音、少ない手数で時間を切り刻むようにタイトなリズムを生み出すドラム。3者が絡み合うような、絡み合わないような、絶妙のバランスでアンサンブルを構成していきます。

 耳に引っかかるサウンドやアレンジが随所にあるのですが、例えば再生時間0:41あたりからの異世界の音階のようなギターのフレーズなど、違和感がフックになっていて、非常にかっこいいです。

 2曲目「Mouth Breather」は、イントロからギターがハードロック的なリフを弾いています。しかし、そこはジーザス・リザード。ドラムが入ってくると、ギターとドラムがお互いにかみ合うような、独特のリズム感を形成します。両者にからまりつくようにベースとボーカルも入ってくると、歯車がカチッと合った機械のように、複雑かつ緻密なアンサンブルを作り上げます。

 3曲目「Nub」は、アームを使っているのか、エフェクターで操作しているのか分かりませんが、時空が歪むように音程が変化するギターが、心地よく響く1曲です。ドカドカと臨場感のあるドラムの音も、最高に良い。

 7曲目「South Mouth」は、跳ねまわるようなパワフルなドラムに、ギターとベースが絡まり、ねじれた疾走感のある1曲。再生時間0:26あたりからの、ジャンクな雰囲気の展開も、コントラストを生み出しています。

 8曲目「Lady Shoes」も、疾走感あふれる1曲です。冒頭から全ての楽器がひとつの塊になって、こちらに迫りくるようなアレンジ。その塊が、再生時間0:27あたりで、ほどけて暴発するような展開も、スリルと緊張感を演出しています。

 サウンド的にもアレンジ的にも、ジャンクな空気を色濃く出しながら、バンドとして相当な技量を持っていることを随所に感じる1枚です。

 ここまでは触れてきませんでしたが、メロディー感のない、かといってハードコア的なシャウトでもない、デイビット・ヨウ(David Yow)のボーカルも、このバンドの重要な構成要素のひとつです。

 下品な耳ざわりなのに、アンサンブルは機能的で知性すら感じる、そんなバランス感覚が本作およびジーザス・リザードの魅力。他に似ているバンドもいませんし、未聴の方にはぜひとも聴いていただきたい1枚です。(メジャー移籍後の作品より、本作を含めTouch And Go在籍時のアルバムを、圧倒的にオススメします!)

 





The Jesus Lizard “Head” / ジーザス・リザード『ヘッド』


The Jesus Lizard “Head”

ジーザス・リザード 『ヘッド』
発売: 1990年5月
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 テキサス州オースティン出身のバンド、ジーザス・リザードの1stアルバムです。1990年代のTouch And Goレーベルを代表するバンドであり、スティーヴ・アルビニがエンジニアを務めたことでも有名。

 本作は1990年にLP盤レコードで発売された後、1992年にCD化されています。CD版には、1989年発売のEP『Pure』も同時収録。また、2009年には本作を含めて、ジーザス・リザードがTouch And Goに残した4枚のアルバムが、リマスターされ再発されています。

 ジャンルとしては「ノイズ・ロック」や「ポスト・ハードコア」に括られることの多いジーザス・リザード。では、実際にはどんな音楽が鳴っているのかと言うと、硬質なギターとベースのサウンドに、臨場感あふれるドラムがタイトにリズムを刻み、ややローファイな空気を持つボーカルがエモーションをまき散らす、アングラな雰囲気と立体的なアンサンブルが融合したロックです。

 スピード重視のハードコア的なアプローチではなく、テンポは抑え目に、各楽器が絡み合うようにアンサンブルを構築するという意味では、「ポスト・ハードコア」と言っていいでしょう。サウンドと楽曲が持つダークな空気感には、ハードコアの要素が色濃く感じられます。

 音質については、レコーディング・エンジニアを務めたスティーヴ・アルビニの功績も大きいのでしょうが、非常に生々しく、臨場感のあるサウンドでレコーディングされています。

 1曲目「One Evening」から、全ての楽器の音が、無駄をそぎ落とされたように非常にタイトに響きます。特にベースの音は硬質で、バンド全体を引き締めています。金属的な歪みのギター、音にも手数にもムダが無いドラム、そして感情を吐き出すようなボーカル。アルバム冒頭から、耳を掴まれる1曲です。

 5曲目の「7 vs. 8」(Seven vs. Eight)では、イントロのドラムが残響音とスタジオの空気を感じられるぐらい、リアリティをともなって響きます。このあたりのサウンドは、さすがアルビニ先生! その後に入ってくる他の楽器も、音圧が高いだけではない、リアルな響きを持っています。

 7曲目「Waxeater」は、立体的なドラムと、硬い音質のベースに、ジャンクに歪んだギターが覆いかぶさり、各楽器が絡み合うアンサンブルが、かっこいい1曲。

 「ノイズ・ロック」と称されることもあるとおり、確かにボーカリゼーションと全体のサウンド・プロダクションには、ジャンクでアングラな空気も持っているのですが、バンドのアンサンブルは思いのほか機能的に構成され、クオリティが高いです。

 これもよく話題にあがることですが、ギタリストのデュエイン・デニソン(Duane Denison)が、クラシック・ギターから音楽を始め、ジーザス・リザード結成前にはジャズを演奏していた、というのも彼らの独特の音楽性に関係しているのでしょう。

 奇をてらって、変な音を出しているバンドではなく、優れたアンサンブルとサウンドを持ち合わせたバンドです。Touch And Goの入門盤としても、オススメいたします。

 





The Dodos “Individ” / ザ・ドードース『インディヴィッド』


The Dodos “Individ”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『インディヴィッド』
発売: 2015年1月25日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの6thアルバム。前作に引き続き、イリノイ州シャンペーンのレーベルPolyvinylよりリリース。

 1stアルバム『Beware Of The Maniacs』では、アコースティック・ギターとドラムを中心にしたフォーキーなサウンドで、ロック的な躍動感とダイナミズムを実現させたドードーズ。その後、作品を重ねるごとに、音楽性とサウンド・プロダクションの幅を広げていきました。

 前述したように初期の作品ではオーガニックな耳ざわりの生楽器を、アンサンブルの中心に据えていた彼らですが、徐々にエレキ・ギターなどの使用も増え、前作『Carrier』も、様々なサウンドを効果的に融合し、アンサンブルを作り上げていました。

 今作『Individ』も、ルーツ・ミュージックの香りも漂いつつ、オルタナティヴで現代的なサウンドを持った作品に仕上がっています。

 1曲目「Precipitation」では、イントロからエレキ・ギターの音なのか、アンビエントなサウンドが鳴り響きます。そのまま、エレクトロニカのような音像を持ったサウンドが50秒ほど続きますが、躍動感あふれるドラムが加わり、流れるような美しいメロディーを歌うボーカルが入ってくると、音楽が途端に表情豊かになります。

 歌が中心にあるポップな曲ではあるのですが、まわりでは多種多様な音が鳴っており、しかもノイズに近いジャンクなサウンドも含まれているのですが、全ての音がタペストリーのように折り重なり、不思議と心地よい音楽になっています。(もし聴いてみて「うるさい」「気持ち悪い」と感じる方がいらっしゃったら、すいません…)

 3曲目「Bubble」は、空間系のエフェクターのかかったギターと、ラフに打ちつけるようなサウンドのドラムが、お互いにかみ合うようにリズムを形成する1色。こちらも、サウンドといいリズムといい、サイケデリックな空気が漂いますが、ボーカルのメロディーをはじめ、全体としてはポップな印象。

 4曲目「Competition」は、イントロから、もつれるようなドラムのリズムが、耳に引っかかります。ギターのサウンドにもローファイ感がありますが、聴いているうちに最初は違和感だったものが、音楽のフックへと転化していくのがわかる1曲。

 9曲目「Pattern / Shadow」は、7分を超える大曲。イントロから、毛羽立ったように歪んだサウンドをはじめ、複数の音色の異なるギターが交じり合い、複雑なアンサンブルを構成します。単純に静寂と轟音、ヴァースとコーラスを循環するのではなく、次々に展開のある曲です。再生時間3:25あたりから雰囲気が一変するので、これより前が「Pattern」、これ以降が「Shadow」ということなのでしょう。

 前述したように、初期ドードーズの特徴のひとつは、アコースティック楽器を用いながら、圧倒的な躍動感を響かせていたところですが、今作ではサウンドの実験性が格段に増しています。しかし、彼らの美しいメロディーとコーラス・ワーク、グルーヴ感あふれるアンサンブルも健在。

 また、実験的で違和感を覚えるようなサウンドやアレンジを使いながらも、それらを音楽的なフックに転化し、ポップ・ミュージックに仕立てるセンスにも、舌を巻きます。

 個人的には1stアルバム時の、カントリー色の強いサウンドなのに演奏はパワフル、というのも好きですが、今作も非常に好きなアルバムです。

 





The Dodos “Carrier” / ザ・ドードース『キャリアー』


The Dodos “Carrier”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『キャリアー』
発売: 2013年8月27日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)
プロデュース: Jay Pellicci (ジェイ・ペリッチ)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの通算5枚目のスタジオ・アルバム。2ndアルバム『Visiter』から4thアルバム『No Color』まではニューヨークのレーベルFrenchkissからのリリースでしたが、本作からイリノイ州シャンペーンと、カリフォルニア州サンフランシスコに居を構えるPolyvinylへ移籍しています。

 また、本作ではバンド名の表記から「The」が外され、「Dodos」と表記されています。このあとの6作目『Individ』では、「The Dodos」標記へ戻っています。

 ドードーズの特徴といえば、アコースティック楽器をアンサンブルの中心に据えながら、色彩豊かなサウンドと、パワフルでいきいきとした躍動感を響かせるところです。立体的で、空間の広さを感じさせる、ドラムのサウンドも魅力。

 今作『Carrier』は、パワフルで立体的なドラムはやや抑え目に、アンサンブルでコントラストとグルーヴを丁寧に組み上げた印象の1作。また、今まではアコースティック・ギターがサウンドの中核でしたが、今作ではエレキ・ギターが多用されているのも特徴です。

 1曲目は「Transformer」は、リズムの異なる2本のギターによるイントロから、徐々に音楽が躍動していきます。再生時間0:49あたり、再生時間1:40あたりなど、ドラムがシフトの切り替えを担い、バンド全体もドラムと共にコントラストを演出するアレンジも秀逸。

 4曲目の「Stranger」は、4分間の曲なのに、展開が実に多彩な1曲。細かくリズムを刻むドラムとギターが、音数の多さで壁を作るようなイントロ。再生時間1:49あたりからの、立ちはだかる壁のような厚みのあるディストーション・サウンド。さらに再生時間2:18あたりから、手数を増やし、一気にシフトを上げるドラム。そのドラムが先導者となって、バンド全体が躍動を始める展開も、鳥肌ものです。

 10曲目の「Death」は、タイトルのとおり、寂しけでエレクトロニカのような音響的なイントロ。空間系のエフェクターの深くかかった、幻想的なサウンドのギターと、穏やかに漂うようなボーカルが、アンビエントな雰囲気を醸し出します。ドードーズには、めずらしい音像を持った1曲。

 いきいきとした躍動感と、アンサンブルの巧みさは残しつつ、サウンド・プロダクションの広がりを感じさせる1作。このアルバムも、非常にクオリティが高いのは間違いないのですが、僕個人の好みだと、1枚目から4枚目の、カントリー色の強いサウンドながら、パワフルな躍動感を響かせていた作品の方が好きです。

 このアルバムは2018年3月現在、残念ながらデジタル配信はされていないようです。