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The Dodos “No Color” / ザ・ドードース『ノー・カラー』


The Dodos “No Color”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『ノー・カラー』
発売: 2011年3月15日
レーベル: Frenchkiss (フレンチキス)
プロデュース: John Askew (ジョン・アスキュー)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの4thアルバムです。本作には、一部の曲でバッキング・ボーカルとして、ニーコ・ケース(Neko Case)が参加しています。

 アコースティック・ギターとドラムを基本とした2ピース・バンドであるのに、人数の少なさ、音色の少なさを全く感じさせない、パワフルかつカラフルで、変幻自在なアンサンブルを響かせるザ・ドードーズ。

 ナチュラルな響きのアコースティック楽器を中心に据え、フォークやカントリーを思わせる耳ざわりでありながら、ロック的なダイナミズムを持っているのも、彼らの特徴です。

 本作『No Color』でも、使用されるサウンドの種類には限りがあるのに、曲ごとに多彩なアンサンブルを構成し、ロック的な迫力あるグルーヴを聴かせてくれます。アルバムを通して、サウンド的にもアレンジ的にも、単調な印象は全くありません。

 1曲目の「Black Night」のイントロから、早速ドタバタと打ち付けるようなドラムのビートが響き、透明感のある繊細なアコースティック・ギターのサウンドが、それに加わります。サウンドとリズムの両面で、両者が溶け合う絶妙なバランス。さらに、流れるようなボーカルのメロディーが、曲に彩りをプラスします。

 ドラムが入っていなかったら、牧歌的な弾き語りの曲になっていそうですが、パワフルでジャンクな雰囲気も醸し出すドラムが、曲に奥行きを与えています。おそらくオーバー・ダビングで、エレキ・ギターらしき音も重ねられているものの、2ピースとは思えない躍動感あふれる1曲。

 2曲目「Going Under」も、臨場感あふれるドラムと、アコースティック・ギターのみずみずしい音色が絡み合う1曲。この曲では、オルタナティヴな雰囲気を持ったエレキ・ギターが効果的に使われています。

 4曲目「Sleep」は、カントリーの香り立つアコギの速弾きと、前のめりに暴発しそうなドラムが疾走していく1曲。使用されている楽器とサウンド・プロダクションはカントリーに近いのに、楽曲の疾走感、躍動感は、ロックが持つそれです。

 6曲目「When Will You Go」は、アコースティック・ギターの繊細な音と、タイトなドラムがグルーヴを生み出していく1曲。

 1stアルバムで、アコースティック・ギターとドラムの2ピースとは思えない迫力のサウンドを響かせ(しかも自主リリース!)、2nd、3rdとサウンドとアレンジの幅を広げてきたドードーズ。今作は、1stアルバム時代の生楽器によるパワフルな躍動感が、戻ってきたアルバムだと思います。

 2ndと3rdでは、楽器とサウンドの種類を増やし、アレンジメントも着実に洗練されていきました。そんな過去2作がおとなしいアルバムというわけではなく、今作はオーガニックな生楽器のサウンドへと原点回帰し、アンサンブルを再構築しようというアルバムのように感じました。

 僕はドードーズが大好きだというのもありますが、彼らの作品にハズレなしです!

 





The Dodos “Time To Die” / ザ・ドードース『タイム・トゥ・ダイ』


The Dodos “Time To Die”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『タイム・トゥ・ダイ』
発売: 2009年9月15日
レーベル: Frenchkiss (フレンチキス)
プロデュース: Phil Ek (フィル・エク)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの3rdアルバムです。前作『Visiter』に引き続き、ニューヨークのインディペンデント・レーベルFrenchkissからのリリース。

 ドードーズは、アコースティック・ギターとドラムを中心にしたオーガニックなサウンドを持ちながら、音色の少なさを感じさせないカラフルな世界観と、ロック的なダイナミズムを持ったアンサンブルを構成するところが魅力。

 3作目となる今作でも、エレキ・ギターやキーボードなど電気楽器の使用頻度が高まっているものの、独特の立体感のあるドラムとグルーヴ感は健在。

 1曲目「Small Deaths」は、イントロはギターポップのような爽やかなギターとボーカルが印象的。ですが、再生時間0:46あたりでドラムが入ってくると、途端にパワフルでいきいきとした躍動感が生まれます。

 3曲目の「Fables」は、はずむようなリズムとサウンドのアコースティック・ギターと、前のめりにアジテートするように叩きつける迫力あるドラムが、絶妙に絡みあう1曲。ドラムのサウンドが立体的なところもかっこいい。歌のメロディーとハーモニーも美しい。非の打ちどころの無い曲です。

 4曲目「The Strums」は、低音が響き渡るドラムと、重層的なクリーントーンのギターが溶け合う、こちらも美しい1曲。空間系のエフェクターを使用しているのか、ギターの音には揺らぎがあり、サイケデリックな雰囲気も漂います。

 6曲目「Two Medicines」は、タイトルを呪術的に繰り返す、わずかにサイケデリックな香りを放つイントロから、アコギとドラムが絡むこのバンド得意の展開へ。奥の方で鳴るヴィブラフォンの響きも、楽曲を彩っています。

 使用する楽器の種類が増え、サウンド・プロダクションは多彩になっています。しかし、彼らのフィジカルな躍動感は失われず、轟音ギターが唸りをあげる作品ではないのに、ダイナミズムの大きい1作になっています。

 ドラムをはじめ、立体的な音像も素晴らしく、オススメの1枚です。個人的にドードーズが大好きなので、もっと多くの人に聴いてもらいたいと、心から思います。

 





The Dodos “Visiter” / ザ・ドードース『ヴィジター』


The Dodos “Visiter”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『ヴィジター』
発売: 2008年3月18日
レーベル: Frenchkiss (フレンチキス)
プロデュース: John Askew (ジョン・アスキュー)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの2ndアルバム。前作『Beware Of The Maniacs』は、レーベルを通さない自主リリースでしたが、今作からLes Savy Favのベーシスト、シド・バトラーが設立したニューヨークのレーベル、Frenchkissと契約しています。

 1stアルバムである前作は、アコースティック・ギターとドラムを中心にしたナチュラルなサウンドを用いて、パワフルに躍動感あふれるアンサンブルを響かせた1作でした。今作では、アンサンブルがより洗練され、アコースティックギターが重層的に、ドラムが立体的に音楽を構成する1枚になっています。前作に引き続き、ボーカルの美しいメロディーとハーモニーも、もちろん聴きどころ。

 1曲目の「Walking」は、ゆったりとしたリズムのなか、アコースティックギターとバンジョーが絡み合い、牧歌的な雰囲気を醸し出します。およそ2分の短い曲で、彼ら得意の立体的なサンサンブルも控えめな、イントロダクション的な役割の1曲。

 2曲目の「Red And Purple」では、アコギのコード・ストロークを、低音の響く立体的なドラムが追いかける、彼ら得意のアンサンブルが展開されます。広々とした空気感まで感じられるアコギの響きと、様々な方向から聞こえてくる立体的なドラムが、開放感ある音空間を作り上げています。

 3曲目「Eyelids」は、ギターとドラムが掛け合うイントロから、ボーカルのハーモニーが全体を包み込む、重層的なサウンドが美しい1曲。ドタバタしたドラムのサウンドには、ローファイの香りも漂います。

 4曲目の「Fools」は、リムショットが耳に残り、イントロから疾走感のある1曲。立体的なアンサンブルが彼らの魅力だと思いますが、各楽器が縦を合わせた演奏から、徐々に各楽器が離れていく、この曲のような展開も良い。

 8曲目「Paint The Rust」は、哀愁を帯びたイントロのギターのフレーズが聴こえます。叩きつけるようなドラムが入ってくると、立体的な音像に一変。再生時間1:44あたりからの間奏も、カントリーとインディーロックの融合といった感じで、ルーツと現代性が溶け合った1曲。

 前作同様、アコースティックギターが中心でありながら、サウンド・プロダクションとアレンジはさらに洗練され、カラフルな印象のアルバムに仕上がっています。オーガニックな質感のアコースティック・ギターと、どこかローファイな雰囲気を持つドタバタした音色のドラムのバランスも、前作に引き続き素晴らしいです。

 





The Dodos “Beware Of The Maniacs” / ザ・ドードース『ビウェア・オブ・ザ・メイニアックス』


The Dodos “Beware Of The Maniacs”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『ビウェア・オブ・ザ・メイニアックス』
発売: 2006年6月11日
レーベル: Self-released (自主リリース)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの自主リリースによる1stアルバムです。こんな作品が自主リリースでサラッと登場するところに、USインディーズの懐の深さを感じます。個人的に、心からオススメしたい1枚。名盤です!

 主にボーカルとアコースティック・ギターを担当するメリック・ロング(Meric Long)と、ドラムとパーカッションを担当するローガン・クローバー(Logan Kroeber)からなる2ピースバンド。というとフォークやカントリー的な音楽が想定されると思いますが、本作はカントリーとは違ったグルーヴ感に溢れた作品です。

 確かにアコースティックギターを中心に据えたサウンドはカントリーに近い耳ざわりですが、それよりもロック的なダイナミズムが全面に出たアルバム。音はカントリーなのに、バンドの躍動感と迫力はロック的と言ったらいいでしょうか。

 また、前述したようにアコギ主体のアンサンブルなので、音色の種類も限られているのですが、変幻自在なアレンジによって、全体の耳ざわりはとても多彩な仕上がりになっています。

 1曲目「Trades & Tariffs」は、アコースティックギターのフレーズ、特に間奏での速弾きにはカントリーの香りが漂うものの、ドタバタしたドラムから、グルーヴ感と加速感が生まれています。ボーカルのメロディーとハーモニーも美しく、音楽の魅力が凝縮された1曲。

 3曲目「Men」は、2本のアコースティックギターと、ドラムのリムショットのような音から始まるイントロ。その後、本格的にドラムが入ってくるにつれて、途端にパワフルな躍動感が生まれます。アコースティック楽器のみで、この迫力を出せるところが凄い。ロック的なエキサイトメントに溢れ、テンションが上がる1曲。

 4曲目の「Horny Hippies」は、タムの音が立体的に響くイントロから、流れるようなアコギのフレーズが心地よい1曲。

 6曲目「The Ball」。この曲もイントロからタムとアコギが重層的に響き、立体的でグルーヴ感あふれる1曲。再生時間0:42あたりから聞こえるリムショットのような音も、アクセントになっていて耳に残ります。歌のハーモニーも極上の美しさ。

 9曲目「Elves」は、ドラムは控えめに、イントロからアコギを中心に据えたアンサンブル。なのですが、少ない楽器、少ない音数なのに、疾走感があります。再生時間1:24と1:33あたり、再生時間3:00と3:09あたりと、演奏のスイッチが段階的に切り替わる展開も、コントラストを鮮やかに演出しています。

 音はアコースティックなのに、非常にカラフルな印象を与えるアルバムです。前述したようにアコギ主体と思えないほど、パワフルでいきいきとした躍動感に溢れた作品。いわゆるオルタナ・カントリー的な、激しく歪んだエレキ・ギターや電子音を導入するアプローチとも違う、オリジナリティがあります。

 こんな素晴らしい音楽を作ってくださって、ありがとうございます!という気持ちになります。名盤です! 心からオススメしたい。

 





Cap’n Jazz “Analphabetapolothology” / キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ)『アナルファベータポロソロジー』


Cap’n Jazz “Analphabetapolothology”

キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ) 『アナルファベータポロソロジー』
発売: 1998年1月8日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)

 ティムとマイクのキンセラ兄弟をはじめ、後にJoan Of ArcやThe Promise Ring、 Make Believe、American Footballといったバンドでも活動するメンバーたちが集った伝説的なバンド、キャップン・ジャズ。そんな彼らのほぼ全ての音源を網羅した2枚組のアンソロジー盤が、本作『Analphabetapolothology』です。

 発売されたのは1998年ですが、収録されている楽曲がレコーディングされたのは1993年から1995年の間。1993年というと、ティムは19歳、マイクは16歳(!)です。

 そんな情報を抜きにしても、みずみずしい感性と、若さがはじける疾走感に溢れたエモ全開の1枚。ですが、直線的なスピード感のみというわけではなく、随所にポストロック的な複雑なアプローチや技巧も垣間見えます。

 ただ、やはりこのバンドが全面に押し出しているのは、みずみずしい感性とエヴァーグリーンなメロディーであるのも事実。そして、なんといっても、ところどころ音程のあやしい部分もあるボーカルの声がエモい。

 a-haの「Take On Me」のカバー、『ビバリーヒルズ高校白書』(Beverly Hills, 90210)のテーマ曲「Theme To ‘90210’」も収録されています。

 前述したとおりアンソロジー盤であるので、通常のアルバムのように曲順通りにどうこうという作品ではないのですが、Disc1の1曲目「Little League」から、バンド全体で駆け抜けていくようなスピード感あふれる曲で始まります。

 完全に塊になって進むというより、それぞれがもつれ合いながら走るようなラフさのある1曲。再生時間1:45あたりから、一旦テンションを落として休憩するようなアレンジもコントラストを演出していて、勢いだけではないことを感じさせます。

 Disc1の2曲目「Oh Messy Life」では、絡み合うような、もつれるような2本のクリーントーン・ギターのイントロから、爆音のサビへと展開。6曲目の「Yes, I Am Talking To You」は、轟音と静寂が目まぐるしく循環する、ダイナミズムの大きさとコントラストが鮮烈な1曲。

 前述したとおり13曲目にはa-haのカバー「Take On Me」が収録。有名な曲なので、原曲との差異を認識しやすいと思いますが、80年代の空気満載のあの曲が、エモコアに昇華されています。再生時間1:45あたりから入ってくるピアノもアクセント。

 2枚組で34曲収録というボリュームですが、通しで聴いてみると、リズムには直線的なだけではないフックがあり、サウンド面でも、暴力的な歪みのギターと、はずむようなクリーントーンのギターを適材適所で使いわけるなど、音楽的なアイデアの豊富さと柔軟さを感じさせます。

 だけど、やっぱりこのバンドの一番の聴きどころは、若さが弾けるみずみずしい演奏と、ボーカリゼーションです。極上のエモ作品としても、その後のシカゴ・シーンの源流のひとつとしても、価値ある作品だと思います。

 ただ、このアルバム2018年3月現在の時点では、残念ながらデジタル配信はされていないようです。