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Pullman “Turnstyles & Junkpiles” / プルマン『ターンスタイルズ・アンド・ジャンクパイルズ』


Pullman “Turnstyles & Junkpiles (Turnstyles And Junkpiles)”

プルマン 『ターンスタイルズ・アンド・ジャンクパイルズ』
発売: 1998年8月11日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 トータスやガスター・デル・ソルでの活動でも知られるバンディー・K・ブラウン(Bundy K. Brown)や、同じくトータスやブロークバックでの活動で知られるダグ・マッカム(Doug McCombs)を中心に、ポストロックおよびスロウコアなど、各ジャンルでキャリアのある4人が結集したバンド、プルマン。

 ちなみにこのバンドの活動はスタジオでのレコーディングのみで、ライブ活動はおこなっていません。

 本作は、1998年にリリースされた彼らの1stアルバム。前述のトータスらが在籍し、シカゴのポストロックの総本山とも言えるレーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。デイヴィッド・パホ(David Pajo)が1曲でゲスト参加するなど、こちらの界隈が好きな人にとっては、聴く前から嫌が応にも期待が高まります。僕もそのひとり。

 期待と共に本作を再生すると、アコースティック・ギターを中心に据えたナチュラルなサウンドを用いて、多彩なアンサンブルが展開。アコギ中心というと、フォークやカントリーがまず頭に浮かびます。

 しかし、本作で展開されるのは、単なるカントリーのアップデート版とは違って、「アコースティック・ギターを用いたグッド・ミュージック」とでも呼びたくなるような、多様なジャンルを参照し、結果的にジャンルレスとなった音楽。あるジャンルを参照しつつも、その先に向かっているという意味では、ポストロック的と言ってもいいでしょう。

 1曲目の「To Hold Down A Shadow」から、アコースティック・ギターを中心に据えたオーガニックなサウンドで、各楽器が穏やかに絡み合い、躍動する、有機的なアンサンブルが展開されていきます。

 2曲目「Barefoot」は、複数のギターが、それぞれそよ風のように流麗なフレーズを弾く、吹き抜けるような疾走感のある1曲。フレーズ同士が重なるときに生まれるハーモニーに、どこか不安定な部分があり、そこが音楽の深みを増し、またジャンルレス感をも演出しています。

 3曲目「In A Box, Under The Bed」も、2曲目「Barefoot」に続いて、複数のギターが折り重なるように音楽を組み上げていく1曲。

 5曲目「Gravenhurst」には、バンディー・K・ブラウンと入れ替わりでトータスに加入したことでも知られるデイヴィッド・パホが参加。透き通るような音色のアコースティック・ギターによるシンプルなフレーズを中心に、穏やかなアンサンブルが展開される1曲。

 6曲目「Lyasnya」は、ここまでのアルバムの流れとは異質な、軽快な3拍子に乗せて、メロディアスなフレーズが繰り出される1曲。リズムがはっきりとしているため、ダンサブルに響きます。

 9曲目「Deer Hill」は、音の動きの少ないミニマルなフレーズが押し寄せる、音響が前景化した1曲。

 アルバム全体と通して、アコースティック・ギターを中心にした穏やかなサウンド・プロダクションを持っていますが、前述したとおり音楽の幅は広く、ジャンルレスで風通しの良い作品です。

 「シカゴ音響派」という言葉もありますが、まさに本作は「音響派」と呼びたくなる、音の響きを追求したストイシズムが感じられる1作。と書くと、なんだかハードルが高い音楽であるかのようですが、実際に鳴っている音は、音響を追求しているからこそ、リラクシングで心地よく、深い意味でポップな作品であると思います。

 通常は14曲収録ですが、徳間ジャパンからリリースされた日本盤にはボーナス・トラック5曲が追加され、19曲収録となっていました。

 





Ryley Walker “All Kinds Of You” / ライリー・ウォーカー『オール・カインズ・オブ・ユー』


Ryley Walker “All Kinds Of You”

ライリー・ウォーカー 『オール・カインズ・オブ・ユー』
発売: 2014年4月15日
レーベル: Tompkins Square (トンプキンス・スクエア)
プロデュース: Cooper Crain (クーパー・クレイン)

 イリノイ州ロックフォード出身。シンガーソングライターでありギタリストのライリー・ウォーカーの1stアルバム。

 本作をリリースしたトンプキンス・スクエアは、「Imaginational Anthem」と名付けられたアメリカン・プリミティヴ・ギター(フィンガースタイル・ギターの音楽ジャンル)のアンソロジーの編纂からスタートしたレーベル。その後も、ルーツ・ミュージックを中心に扱う、個性的なインディペンデント・レーベルです。

 そんなトンプキンス・スクエアからリリースされた、ライリー・ウォーカーのデビュー・アルバムは、まさにレーベルの音楽性にぴったりの作品と言えるでしょう。9曲中ほぼ半分の4曲はインストで、ライリーのフィンガースタイルのギター・テクニックが、前面に出たアルバムとなっています。
 
 1曲目「The West Wind」では、みずみずしく粒だった音のアコースティック・ギターと、ふくよかで全体を包み込むようなヴィオラが、溶け合いながらオーガニックなサウンドを作り上げていきます。アコギとヴィオラは音色だけでなく、フレーズの面でも、細かく軽快なアコギに対して、伸びやかでロングトーンをいかしたヴィオラ、と対照的。

 感情を排したように淡々と、しかし絶妙にヴィブラートをかけながら言葉とメロディーを紡いでいくボーカルは、ブルージーな空気を演出。後半は各楽器とも音数を増やし、激しく、躍動感に溢れたアンサンブルが展開されます。

 2曲目「Blessings」でも、ストリングスのロングトーンと、アコースティック・ギター、ボーカルの細かな音符が溶け合います。1曲目の「The West Wind」と同じく、ヴェールのように全体を柔らかく包みこむヴィオラと、粒のはっきりしたギターの音は、思いのほか相性が良く、オーガニックで厚みのあるサウンドを作り上げています。

 3曲目「Twin Oaks Pt. I」では、ギターとリズム隊が絡み合うように、躍動感の溢れるアンサンブルを展開。インスト曲で、ライリーのギターテクニックが堪能できる1曲。

 4曲目「Great River Road」は、前曲に続いて、軽快なリズムを持った1曲。ここまでは長い音符が中心で、バランスを取る役割の多かったヴィオラが、この曲では細かい音符を多用し、他の楽器と絡み合うようにアンサンブルに参加しています。

 5曲目「Clear The Sky」は、イントロからしばらくはギター1本のみのプレイが続きます。その後、ベース、ドラム、ヴィオラ、ボーカルが入ってくると、立体的でグルーヴィーなアンサンブルへ発展。

 6曲目「 Twin Oaks Pt. II」は、タイトルのとおり3曲目「Twin Oaks Pt. I」の延長線上にあるインスト曲。アコースティック・ギターのみによる演奏で、ややテンポを抑え、音数も絞ったイントロから始まり、徐々に躍動感と疾走感を増していきます。

 7曲目「Fonda」も前曲に続き、ギターを中心に据えたインスト曲。フィンガースタイルのギタープレイが繰り広げられ、随所で効果的に導入されるピアノが、アクセントになっています。

 8曲目「On The Rise」は、回転するようなギター・フレーズと、渋いボーカルが対等に向き合い、ルーツ色の濃いサウンドを作り出していく1曲。用いられている音色は限られているのに、次々と風景が移り変わっていくような、進行感があります。

 アルバムのラストを飾る9曲目の「Tanglewood Spaces」は、ギター1本によるインスト曲。時折、差し込まれるハーモニクスが心地よく、ひとつの楽器で演奏しているとは思えない、生命力に溢れた音楽です。

 アルバムの最後を、ギターのインスト曲で締めているところも示唆的ですが、ギターを中心に据えたアルバムと言って、差し支えないかと思います。

 ボーカル入りの曲では、もちろん歌のメロディーも主要な要素となっています。しかし、ギターも単なる伴奏としてではなく、歌のメロディーと時にせめぎ合い、時に絡み合うように音を紡いでいく場面が多数。

 ライリー・ウォーカーのシンガーソングライターとしての魅力と同等かそれ以上に、彼のギタリストのしての魅力があらわれたアルバムと言えるでしょう。

 





Kevin Morby “Still Life” / ケヴィン・モービー『スティル・ライフ』


Kevin Morby “Still Life”

ケヴィン・モービー 『スティル・ライフ』
発売: 2014年10月14日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)
プロデュース: Rob Barbato (ロブ・バルバート)

 インディー・フォークバンド、ウッズへの参加や、ザ・ベイビーズでの活動でも知られる、ケヴィン・モービーの2作目のソロ・アルバム。前作『Harlem River』に引き続き、ウッズのジェレミー・アールが設立したレーベル、ウッドシストからのリリース。

 アルバムのタイトルとジャケットは、カリフォルニア州ハリウッド出身で、現在はニューヨークを拠点に活動する芸術家、メイナード・モンロー(Maynard Monrow)の『Still Life with the Rejects from the Land of Misfit Toys』という作品から採用されています。

 ケヴィン・モービー名義での1stアルバムとなった前作は、生楽器を主軸にしたフォークやカントリーを思わせるサウンド・プロダクションを持ちつつ、リズムの切り替えや、アンサンブルの構成に、現代的なアプローチも共存したアルバムでした。

 2作目となる本作では、ビートのはっきりしたロック感の強い曲が増え、アンサンブルも疾走感を増しています。

 1曲目「The Jester, The Tramp & The Acrobat」では、ドラムが低音部を効果的に用いながら、タイトにリズムを刻み、ギターとオルガンが、立体的に音を重ねていきます。ケヴィン・モービーがかつて在籍した、ウッズのサイケデリックな音像を彷彿とさせる1曲。

 2曲目「The Ballad Of Arlo Jones」は、イントロから民族音楽的なコーラスワークが印象的な、疾走感の溢れるロック・チューン。再生時間0:26あたりからの単音弾きのギターも効果的に、楽曲に推進力をプラス。各楽器の音作りはシンプルで、音圧が特別高いわけでも、激しく歪んでいるわけでもないのに、アンサンブルの組み立てによって疾走感やスピード感を生み出すお手本のような曲。

 3曲目「Motors Running」は、ややしゃがれた物憂げなボーカルと、軽やかに疾走するギターが溶け合う、ローファイなギターポップ。再生時間1:00あたりでのリズムの切り替え、1:23あたりから聞こえるオルガンの外し気味のとぼけたフレーズなど、ちょっとしたアレンジで楽曲をカラフルに彩っていきます。

 5曲目「Drowning」は、海の中に沈んだように弾むリズム隊と、空間系エフェクターのかかったギター、呪術的なボーカルが、サイケデリックな空気を作り出す1曲。全体的にエコーがかかったような音像は、ダブを思わせます。

 7曲目「Parade」は、ピアノとリズム隊を中心にしたコンパクトな編成の前半から、ホーン・セクションが導入され、立体的なサウンドへと展開する1曲。

 本サイト上では、ジャンルのカテゴリーを「インディー・フォーク」に分類してありますが、フォークにはとどまらない幅広い音楽が展開されるアルバムです。

 前作から比較しても、ソング・ライティング、アンサンブル、サウンド・プロダクションと全ての面で、着実に表現の幅を広げています。

 穏やかな歌とメロディーが中心にありながら、楽曲によってカントリー風であったり、ギターポップ風であったり、ダブ的なサウンドを持っていたりと、多彩な色合いを見せるアルバムですが、やりすぎず統一感を持って、ひとつの作品としてまとまっています。

 





Kevin Morby “Harlem River” / ケヴィン・モービー『ハーレム・リヴァー』


Kevin Morby “Harlem River”

ケヴィン・モービー 『ハーレム・リヴァー』
発売: 2013年11月26日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)
プロデュース: Rob Barbato (ロブ・バルバート)

 テキサス州ラボック生まれ、カンザスシティ育ちのミュージシャン、ケヴィン・モービーの1stアルバム。

 カンザス州オーバーランド・パークにある、ブルー・ヴァレー・ノースウェスト高校を17歳で中退し、ニューヨークにやってくるケヴィン・モービー。

 しばらくは、カフェや配達の仕事で生計を立てますが、2009年にブルックリンを拠点に活動するフォークロック・バンド、ウッズにベーシストとして加入。

 同時期に、ルームメイトとして知り合ったヴィヴィアン・ガールズ(Vivian Girls)のキャシー・ラモーンと共に結成した、ザ・ベイビーズ(The Babies)での活動も開始。こちらでは、ギター・ボーカルを務めています。

 2013年にはウッズを脱退し、ニューヨークからロサンゼルスへ引っ越し。同年にリリースされた初のソロ・アルバムが、本作『Harlem River』です。

 レーベルは、ウッズのジェレミー・アールが設立したウッドシストから。プロデュースは、ザ・ベイビーズの2ndアルバムを手がけたロブ・バルバート。ドラムは、ザ・ベイビーズのメンバー、ジャスティン・サリヴァン(Justin Sullivan)が務めるなど、これまでの人脈をいかしたラインナップとなっています。

 サイケデリックなフォーク・バンドのウッズと、パンク・バンドのザ・ベイビーズ。音楽性は大きく異なりますが、サウンド・プロダクションの面では、共にローファイなサウンドを持っており、共通しています。しかし、ケヴィン・モービー名義での1作目となる本作では、ローファイ的なテクスチャーではなく、よりスタンダードな音質でレコーディングされています。

 キャシー・ラモーンと共にフロントマンを務めていたザ・ベイビーズは、各楽器の音作りはシンプル、全体のサウンド・プロダクションもチープでローファイ風に仕上げ、メロディーとドタバタしたアンサンブルの魅力を前景化していましたが、本作では音質面でのローファイ要素がほぼ無くなり、一般的な意味では音質が向上。音響とメロディーが、より前面に出てくる作品になっています。

 生楽器のオーガニックな音を中心に据えたアンサンブルは、ウッズに繋がる部分もありますが、サイケデリックな世界観を作り上げるウッズとは異なり、音響系のポストロックのように、音のテクスチャーや緩やかなに躍動しながら広がっていく演奏に、より重きが置かれています。

 1曲目「Miles, Miles, Miles」は、伸縮するようにリズムが切り替わり、ゆるやかな躍動感が生まれる1曲。曲調とサウンド・プロダクションは、カントリーを思わせますが、曲中のリズムの切り替えが、軽快でモダンな空気を演出しています。

 アルバム表題曲の3曲目「Harlem River」では、ブルージーな歌唱とギターのフレーズを中心に、チクタクと動く機械のように、有機的なアンサンブルが展開。9分を超える曲ですが、バンドが生き物のように躍動し、ざらついたサウンドで弾かれるギターソロや、手数は少ないながら立体感を与えるドラムなど、聴きどころが多く、スケールの大きな1曲です。

 8曲目「The Dead They Don’t Come Back」は、カントリーの香りを醸し出すスライド・ギター、ゆったりとストロークを続けるアコースティック・ギター、穏やかで牧歌的なボーカルが絡み合う1曲。

 カントリーを下敷きにしながら、音響を前景化したアプローチや、インストのポストロックのように緩やかに展開しているアンサンブルなど、現代的なアレンジが随所に施されています。

 「オルタナ・カントリー」と呼ぶほどには、わざとらしくオルタナティヴでも、カントリー臭くもなく、コンパクトにまとまったインディー・フォークといった趣の1作。

 





Father John Misty “I Love You, Honeybear” / ファーザー・ジョン・ミスティ『アイ・ラヴ・ユー、ハニーベア』


Father John Misty “I Love You, Honeybear”

ファーザー・ジョン・ミスティ 『アイ・ラヴ・ユー、ハニーベア』
発売: 2015年2月9日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jonathan Wilson (ジョナサン・ウィルソン)

 メリーランド州ロックヴィル出身のミュージシャン、ジョシュ・ティルマン(Josh Tillman)が、2012年リリースの『Fear Fun』に続き、ファーザー・ジョン・ミスティ名義でリリースする2作目のスタジオ・アルバム。ミキシングは、バンド・オブ・ホーセズ(Band of Horses)やフリート・フォクシーズ(Fleet Foxes)なども手がける、フィル・エク(Phil Ek)が担当。

 ファーザー・ジョン・ミスティを名乗る前から、J.ティルマン(J. Tillman)名義で、8枚のソロ・アルバムを発表。また、2008年から2012年1月まで、フリート・フォクシーズ(Fleet Foxes)にドラマーとして参加しています。

 J.ティルマン時代のアルバムは、総じてアコースティックなサウンドを持っていました。しかし、フリート・フォクシーズを経て、ファーザー・ジョン・ミスティ名義でリリースされた前作では、電子楽器が効果的に用いられ、フォークやカントリーといったルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、それだけにとどまらないモダンなサウンド・プロダクションへと変化。

 今作でも、前作の音楽性を引き継ぎ、フォークを根底に持ちながら、随所にオルタナティヴな音とアレンジが散りばめられ、牧歌的で穏やかな空気と、サイケデリックな空気が共存したアルバムに仕上がっています。

 アルバム表題曲でもある1曲目の「I Love You, Honeybear」では、ストリングスを中心に、多彩な楽器とコーラスワークが絡み合い、壮大なアンサンブルが展開。

 2曲目「Chateau Lobby #4 (in C for Two Virgins)」は、バウンドするように躍動感のある1曲。アコースティック・ギターやパーカッション、ストリングスが、暖かくオーガニックなサウンドを作り上げます。

 3曲目「True Affection」は、増殖するように広がっていく電子音から始まり、タイトなアンサンブルが作り上げられる1曲。電子音が多用され、一聴するとテクノ色の濃いサウンド・プロダクションですが、ストリングスも用いられ、バンドの温度感も感じられます。

 4曲目「The Night Josh Tillman Came To Our Apt.」は、粒の立った印象的なギターのイントロに導かれ、各楽器が有機的に絡み合い、ゆるやかに躍動するアンサンブルが構成されていきます。

 8曲目「The Ideal Husband」は、リズム隊を中心に、ビートが強く、躍動感に溢れた1曲。しかし、ただ躍動するだけではなく、ストリングスによるロングトーンが、音響的な厚みをもたらしています。終盤に出てくるノイジーなエレキ・ギターもアクセント。

 9曲目「Bored In The USA」は、ピアノをフィーチャーした、メローな1曲。タイトルからして示唆的なとおり、アメリカの現状を冷めた視点で語っていきます。歌詞には「彼らが与えてくれたのは、役立たずの教育とサブプライムローン」という一節もあり、楽曲の途中では笑い声がサンプリングされ、音楽的にはエレガントなテクスチャーを持ちながら、なんとも嘲笑的な空気も持ち合わせています。

 10曲目「Holy Shit」は、アコースティック・ギターと歌を主軸にした曲。前半は弾き語りに近いシンプルなサウンドで進行し、再生時間2:18あたりから入ってくる壮大なストリングスを合図に、躍動感と音数の増した後編へ。

 フォークを基本としながら、ほのかにサイケデリックな空気が漂う前作と比較すると、本作はサウンド的には多彩さを増し、サイケデリアは後退した1作と言えます。

 前作も、実験性やサイケデリックな要素を前面に押し出した作品ではなく、さりげなくサイケデリックな空気を持ったアルバムでした。本作のアプローチもその延長線上にあり、アメリカーナな雰囲気と、オルタナティヴな空気が、同居した、懐かしくもモダンな音像を持ったアルバムに仕上がっています。