「2000年代」タグアーカイブ

Autodrone “Strike A Match” / オートドローン 『ストライク・ア・マッチ』


Autodrone “Strike A Match”

オートドローン 『ストライク・ア・マッチ』
発売: 2008年11月11日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)
プロデュース: Eric Spring (エリック・スプリング)

 2002年にニューヨークで結成されたバンド、オートドローンの1stアルバム。フロリダ州セントオーガスティンにオフィスを構える、シューゲイザーに特化したレーベル、クレアコーズからのリリース。

 クレアコーズからのリリースである事実を抜きにしても、シューゲイジングなサウンドを持ったアルバムだと言えます。冒頭からそのように書くと「じゃあシューゲイザーってなに?」という話になってしまいますので、具体的にこの作品のサウンド・デザインを、紐解いていきたいと思います。

 まず、シューゲイザーというジャンルの特徴として、空間系と歪み系を合わせたエフェクターの多用、そして、それに伴う音響が前景化したサウンドが挙げられます。

 もう少し具体的に説明すると、一般的な感覚からすれば、やりすぎなぐらいエフェクターをかけ、メロディーやアンサンブルさえも覆い尽くしてしまうようなサウンドを聴かせる、あるいはボーカルも各楽器も不可分に溶け合ったサウンドを作り上げる、そのようなアプローチのこと。

 本作も、エフェクターを用いたギター・サウンドが用いられており、バンドのアンサンブルと、浮遊感のあるボーカルが溶け合う、シューゲイザー的な音像を持っています。

 しかし、ギターだけではなく、ノイジーで尖った電子音や、立体的なリズム隊がフィーチャーされる曲もあり、ギターを主軸にした塊のようなサウンド・プロダクションだけではない、音楽性の幅を持った作品でもあります。

 1曲目に収録される「Strike A Match」では、幾重にもオーバーダビングされたギターが、分厚い壁のように空間を埋め尽くしますが、リズム隊もギターに埋もれることなく、グルーヴ感ある演奏を繰り広げています。また、再生時間1:13あたりで、テンポが上がり、音響よりもリズムが前景化され、疾走感あふれるロックが展開される部分もあり、轟音ギター頼みではないバンドであることが感じられます。

 2曲目「Final Days」では、単音弾きのギターと、ざらついた質感の電子音、リズム隊が絡み合い、アンサンブルを構成。楽器の隙間を縫うように、ボーカルがメロディーが紡ぎ、全てがひと塊りに感じられる一体感とは別種の、有機的な一体感と躍動感のある1曲です。

 3曲目の「100,000 Years Of Revenge」は、ギザギザした耳ざわりの電子ノイズが鳴り響く、アンビエントな1曲。

 4曲目「Kerosene Dreams」は、立体的でトライバルな雰囲気のドラムを中心に、空間系エフェクターの効いたギターや、漂うような電子音が重なり、アンサンブルを構成していきます。各楽器とも、音響を重視したサウンドを持っていますが、アンサンブルはパワフルで、躍動感があります。

 5曲目「A Rose Has No Teeth」は、ギターの音と電子音が、増殖するように空間に広がっていく1曲。

 6曲目「Sometime」では、高速のタム回しのようなドラムと、細かくバウンドするようなベースの上に、エフェクトのかかったギターが広がっていきます。疾走感と浮遊感が同居するような、絶妙なバランスのサウンドと演奏。

 7曲目「Through The Backwoods」は、弾むようなドラムと、細かくリズムを刻むギターが絡み合う、軽快なグルーヴ感のある1曲。キラキラとしたギターと、柔らかな電子音、流れるようなボーカルが溶け合い、ギターポップのようにも聴こえます。

 9曲目「Can’t Keep These」は、イントロから鳴り続ける圧縮されたような歪んだギターと、電子ノイズのようなシンセサイザーの音色が、ジャンクな雰囲気を作り出す1曲。そんなサウンドと呼応するように、囁くような歌い方の多かったボーカルも、この曲では感情を吐き出すような歌い方になっています。

 10曲目「With Arms Raised」は、オーバーダビングされているのだと思いますが、ボーカルも含めて多種多様なサウンドが飛び交い、立体的なアンサンブルが構成される、賑やかな1曲。

 12曲目「Pictures.」は、ピアノと穏やかなボーカルが中心にありながら、まわりではノイジーでアンビエントな持続音が鳴り続けます。歌モノであるのに、音響的なサウンドも重ね合わせ、多層的な構造を持たせるのは、このバンドらしいセンス。

 シューゲイザーらしい、ノイジーで厚みのあるサウンドを持ったアルバムですが、アンサンブルや歌のメロディーを量感のあるサウンドに埋もれさせることなく、音響的アプローチとアンサンブル志向の音楽の間で、絶妙なバランスをとっています。

 曲によってはガレージやギターポップの香りを感じることもあり、圧倒的な音圧や音量に頼るのではなく、あくまでバンドのアンサンブルに重きを置いたバンドなのではないかと思います。

 言い換えれば、あくまでアンサンブル重視のバンドであるのに、素材としては過度なサウンドを用いている、とも言えます。ただ、そのサウンドの使い方が巧みで、決して楽曲を破綻させることなく、バランス感覚に優れたバンド。

 シューゲイザー的なサウンドを持った2000年代以降のバンドを、「ニューゲイザー」とくくることがありますが、オートドローンは独自の志向を持っており、オリジナル・シューゲイザーの単なる焼き直しではない、ニューゲイザーのバンドと言えるのではないでしょうか。

 





Highspire “Your Everything” / ハイスパイア『ユア・エヴリシング』


Highspire “Your Everything”

ハイスパイア 『ユア・エヴリシング』
発売: 2004年
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 2000年にペンシルベニア州フィラデルフィアで、アレックス・ホワイト(Alex White)とEJ・ハーゲン(EJ Hagen)によって結成されたバンド、ハイスパイアの1stアルバム。

 2003年にドイツのアリソン・レコーズ(Alison Records)というレーベルから、ヨーロッパ限定でリリースされたあと、翌2004年にシューゲイザーを得意とするレーベル、クレアコーズからリリースされています。

 シューゲイザー専門レーベルと言い切っても過言ではない、クレアコーズからリリースされていることも示唆的ですが、ジャンルとしてはシューゲイザーあるいはドリームポップに属する音楽性を持ったバンドです。

 シューゲイザーと一口に言ってしまうと、あまりにもこぼれ落ちてしまう情報が多いので補足させていただきますが、圧倒的な量感の轟音ギターで押し流すようなバンドではなく、電子音やアコースティック・ギターも織り交ぜながら、サウンドの中に漂うように歌メロを溶け込ませるのが、彼らの特徴。

 轟音ギターだけに頼ってはいないため、曲によってはシューゲイザーというより、エレクトロニカやギターポップに近い音像を持っています。それを、音楽性が広いと取るか、音楽性がブレていると取るかは、個人に判断によりますが、僕個人としては、なかなかクオリティの高い楽曲とサウンドを、安定して持っているなと、思います。

 1曲目「Until The Lights Go Down」は、電子ノイズのような高音と、打ち込みのドラムのビートに続いて、空間にゆったりと浸透していくように、ギターのサウンドが多層的に広がります。ギター以外にも、柔らかな電子音も聴こえ、厚みのある音の壁が構築。その上に、流れるように歌のメロディーが乗ります。アルバム冒頭は、正しくシューゲイザー色の濃い1曲。

 2曲目「Skies You Climb」は、意外性のあるアコースティック・ギターのコード・ストロークからスタート。シンセサイザーらしき電子音と、穏やかボーカルが加わり、陰のあるギターポップのような耳ざわり。その後、奥の方で厚みのある歪みのギターが鳴り始め、シューゲイザー色を強めていきます。アコギと電子音の柔らかなサウンドにより、歪んだギターが中和され、暖かみのあるサウンド・プロダクションになっています。

 3曲目「Fade In A Day」では、コーラスやトレモロなど空間系エフェクターをかけたギターがフィーチャーされ、前の2曲とはまた耳ざわりの異なるサウンド。浮遊感のあるボーカルと、音色の異なる複数のギターが編み上げるアンサンブルは、ほのかにサイケデリックで、ドリーミーな空気を持っています。

 4曲目「Portsmouth」は、打ち込みと思われる電子音で構成された1曲。ベースラインとドラムのビートも、タイトで無機質な音質。ボーカルも感情を排したような冷めた歌い方で、全体としてひんやりとした耳ざわりです。

 5曲目「Shattered」は、倍音豊かなギターに、流れるようにメロディアスなボーカルが溶け合う、これぞシューゲイザー!という趣の1曲。はっきりと言ってしまうと、マイブラ色、ラヴレス色が非常に濃いです。

 6曲目「See The Lines」は、ややざらついた音色のギターと、やや硬質でタイトなベース、シンプルで手数を絞ったドラム、楽器の間を漂うようなボーカルが重なる、アンサンブル重視のシューゲイザーとでも言うべき1曲。バンドが塊となって押し寄せるのではなく、各楽器が何をやっているのか、はっきりと聞き取れるバランス。

 7曲目「Sub Par Life, A Brilliant Death」は、アンビエントな雰囲気のイントロから、ベースとドラムが加わり、立体感をプラス。エレクトロニカのような音響を前景化したサウンドを持ちながら、アンサンブルも認識できる、不思議なバランスの1曲。

 10曲目「Vesperbell」は、複数のディストーション・ギターが前面に出て、曲を先導していきます。音量を抑えられたリズム隊と、流れるようなメロディーがギターと溶け合い、ややギターポップ風味のあるシューゲイザー・ナンバー。

 12曲目「Love Me Or Leave Me」は、柔らかな電子音と、打ち込みのビート、淡々とメロディーを紡ぐボーカル、深くエフェクトのかかったギターが絡み合い、アンサンブルを構成。電子音とギターが溶け合い、歌メロも聞かせる、非常に間口の広い1曲で、このアルバムの方向性を全て包括した1曲とも言えるでしょう。

 輪郭のぼやけた柔らかい電子音や、エフェクターを駆使したギター・サウンドが多用されるアルバムではあるのですが、音響が過度に前景化されるわけではなく、アンサンブルにも重きを置いているのがわかる作品です。

 突出した個性があるわけではありませんが、サウンド・プロダクションとアンサンブルの両面で、安定した質を備えたアルバムだと思います。

 





Bluetip “Polymer” / ブルーチップ『ポリマー』


Bluetip “Polymer”

ブルーチップ 『ポリマー』
発売: 2000年9月26日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 ワシントンD.C.出身のポスト・ハードコア・バンド、ブルーチップの3rdアルバム。ここまでの2作同様、ディスコードからのリリース。プロデューサーは、前作に引き続き、J・ロビンスが担当。

 元スウィズ(Swiz)のメンバーである、デイヴ・スターン(Dave Stern)と、ジェイソン・ファレル(Jason Farrell)を中心に結成されたブルーチップですが、デイヴ・スターンが脱退。本作では、新ギタリストとしてブライアン・クランシー(Brian Clancy)を迎えています。

 ハードコア・パンクから出発して、アルバムを追うごとに徐々に音楽性を広げていく、というようなバンドの変化は、ハードコアに限っらず往往にしてあります。

 ハードコア・バンド、スウィズの元メンバーによって結成されたブルーチップは、当初からポスト・ハードコア的な志向を持つバンドでしたが、作品を重ねるごとに、そのポスト性が増してきている、と個人的には感じます。

 その理由は、1stアルバムの時点で、ハードコア的なソリッドで硬質なサウンドを持ちながら、スピード重視ではなくアンサンブル重視の音楽を展開していた彼らが、2枚目、そして3枚目となる本作と、さらに複雑なアンサンブルを構成しているからです。

 1曲目「Polymer」は、ギターと歌メロが中心に据えられながら、それに巻きつくようにリズムを刻むドラムともう1本のギターが加わり、有機的なアンサンブルが組む上げられていきます。

 2曲目「New Young Residents」は、ギターがラフに音をばら撒きながら、全体としては音が交差するように絡み合い、躍動感あふれる演奏が繰り広げられます。

 3曲目「New Shoe Premonition」は、イントロからギターとドラムが回転するようにリズムを刻み、タイトで立体的なアンサンブルを作り上げる1曲。

 6曲目「Magnetified」は、空間系エフェクターも使用されているのか、厚みある豊かな歪みのギターが、ほのかにサイケデリックな空気を振りまき、タイトで的確に刻んでいくリズム隊と溶け合います。

 9曲目「Anti-Bloom」では、各楽器とも異なるリズム、フレーズを持ち寄り、全体として躍動感と一体感あるアンサンブルを構成。ミドルテンポの1曲ですが、展開も多彩で、ダイナミズムの大きな1曲です。

 前作と比較して、特にギターの音作りをはじめ、音色の幅が広がっています。前述したとおり、アレンジの面でも、攻撃性やスピード感より、アヴァンギャルドなフレーズやアレンジが増え、ハードコアからはだいぶ離れたポスト・ハードコア・サウンドが展開されるアルバムと言えます。

 





Goon Moon “Licker’s Last Leg” / グーン・ムーン『リッカーズ・ラスト・レッグ』


Goon Moon “Licker’s Last Leg”

グーン・ムーン 『リッカーズ・ラスト・レッグ』
発売: 2007年5月8日
レーベル: Ipecac (イピキャック)

 マリリン・マンソンやナイン・インチ・ネイルズに参加していたベーシストのジョージア・ホワイト(Jeordie White)と、マスターズ・オブ・リアリティ(Masters Of Reality)でギターとボーカルを務めるクリス・ゴス(Chris Goss)から成るバンド、グーン・ムーン。

 2005年に、デビュー作となるミニアルバム『I Got A Brand New Egg Layin’ Machine』をリリース。本作は、そのミニアルバムに続き、2007年にリリースされた1stフル・アルバムです。前作はスーサイド・スクイーズからのリリースでしたが、本作はレーベルを変え、イピキャックからリリース。

 前作では、サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラのドラマーであるザック・ヒル(Zach Hill)もメンバーとしてクレジットされていましたが、本作ではレコーディングに参加しているものの、ゲスト扱いとなっています。

 前作でもジャンル分けに困る、アヴァンギャルドで、バラエティに富んだ音楽を鳴らしていたグーン・ムーン。歌を中心に置かない曲も多かった前作に比べて、本作の方が歌メロのある構造のはっきりした楽曲が増加しています。

 アレンジとサウンドには、前作に引き続き実験的な要素もありますが、本作の方が歌メロに沿って曲を追いやすく、その点では聴きやすくなったと言えます。

 前作は、ザック・ヒルも含めた3人の個性がぶつかり合う演奏が主要な聴きどころでしたが、本作ではバンド全体のグルーヴ感や躍動感が前景化。個人プレーから、全体の有機的なプレーへと優先順位が移ったような印象を受けるアルバムです。

 特に前作では大暴れしてたザック・ヒルのドラムが、本作では楽曲の構造に寄り添ったかたちで、あまり冒険する場面がありません。このあたりは、やはりホワイトとゴスが制作の主導権を握っているということなのでしょう。ゲスト扱いになったのも、関係しているのかもしれません。

 1曲目「Apple Pie」は、イントロから、ストリングスによる金切り声のような音が響きわたり、不穏な空気を持ったまま曲が始まります。しかしその後は、各楽器が有機的に絡み合い、穏やかにグルーヴするアンサンブルが展開。ボーカルとコーラスワークも立体的で、アンサンブルに奥行きをプラスしています。

 2曲目「My Machine」は、ドラムとギターの音がノイジーに響く、アヴァンギャルドな雰囲気でスタート。その後、コンパクトのまとまった、疾走感あふれるロックが展開されます。

 3曲目「An Autumn That Came Too Soon」は、打ち込み的な小粒でタイトなドラムと、ギターの幾何学的なフレーズが重なり、タペストリーのように音楽が編み込まれていきます。途中から入ってくるギターのロングトーン、長めの音符を用いた漂うようなボーカルも、音楽を多層的にしています。再生時間1:53あたりからの間奏が現代音楽のようで、楽曲にさらなる深みをプラス。

 5曲目「Pin Eyed Boy」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、緩やかにグルーヴするアンサンブルが展開される1曲。穏やかなボーカル、空間に浸透していくように響くギターが、その場を埋め尽くすように、優しく広がります。

 11曲目「The Golden Ball」は、9分を超える曲で、クレジット上は「a」から「h」まで8つに分けられ、それぞれにタイトルが付されています。ミニマルなイントロから、カントリーのような穏やかな歌モノ、ノイジーなサウンドへと次々と多彩に展開があり、情報量の多い1曲です。

 勢いと攻撃力重視の前作と比較すると、楽曲の構造を重視し、より大人になったアンサンブルが展開される1作と言えます。一聴した時には、前作のアグレッシヴで変態的なアンサンブルの方が好きでしたが、聴き込んでいくほどに、本作の奥の深さに引かれていきました。

 





Goon Moon “I Got A Brand New Egg Layin’ Machine” / グーン・ムーン『アイ・ガット・ア・ブランド・ニュー・エッグ・レイン・マシーン』


Goon Moon “I Got A Brand New Egg Layin’ Machine”

グーン・ムーン 『アイ・ガット・ア・ブランド・ニュー・エッグ・レイン・マシーン』
発売: 2005年6月7日
レーベル: Suicide Squeeze (スーサイド・スクイーズ)

 トゥイギー・ラミレズ(Twiggy Ramirez)名義で、マリリン・マンソンに参加していたジョージア・ホワイト(Jeordie White)と、マスターズ・オブ・リアリティ(Masters Of Reality)のクリス・ゴス(Chris Goss)の2人から成るバンド、グーン・ムーンのデビュー作となるミニ・アルバム。

 本作では、上記2名に加えて、サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラのドラマーを務めるザック・ヒル(Zach Hill)もメンバーとしてクレジット。それ以外にも、複数のゲストを招いてレコーディングされています。

 当サイトのジャンルでは「エクスペリメンタル」に振り分けましたが、ポストロックともマスロックとも、エクスペリメンタル・ロックとも呼べる音楽が展開されるアルバムです。ジャンルで音楽を聴くわけではないし、そこまで気にする必要も無いんですけどね。

 前述したように、マリリン・マンソン、ア・パーフェクト・サークル(A Perfect Circle)、ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)に参加していたジョージア・ホワイト、デザート・ロックの雄マスターズ・オブ・リアリティを率いるクリス・ゴス、さらに変態バカテク・ドラマーのザック・ヒルの3人が揃うこのバンド。その期待どおりに、実験的でバラエティ豊かなアンサンブルが繰り広げられる作品になっています。

 1曲目の「The Wired Wood Shed」から、立体的なドラムと、地を這うようなベース、倍音たっぷりの豊かな歪みでリフを弾くギターが、音合わせのように、さりげなく演奏を展開します。1分ほどのイントロダクション的な1曲。

 2曲目「Mud Puppies」は、ハードロック的なギター・リフを主軸に、バンドが一体となって躍動するアンサンブルに、浮遊感のあるコーラスワークが溶け合います。

 3曲目「Inner Child Abuse」は、アンビエントな音像のイントロから、エフェクトを深く施したエレクトロニックな耳ざわりの各楽器と、高速ドラムが溶け合う、音響系ポストロックに近い1曲。

 4曲目「The Smoking Man Returns」は、3曲目に続いて、高速ドラムと電子音が溶け合い、アヴァンギャルドな空気が強く漂う1曲。

 6曲目「Rock Weird (Weird Rock)」は、いわゆるロボット・ボイスと呼ばれるような、エフェクト処理されたボーカルが印象的。音数を絞り、タイトでジャンクなアンサンブルが展開されます。

 7曲目「Mashed」は、アコースティック・ギターを中心に据えた、オーガニックなサウンドのイントロからスタート。その後、エフェクト処理されたアングラ色の濃いボーカルが入り、ジャンクさとポップさの同居した、躍動感あふれるアンサンブルが展開されます。

 ドラムは曲によってフリーなリズムとタイトなリズムを巧みに叩き分け、ギターはロックのハードな部分を凝縮したようなリフを弾き、ベースは全体を支えるようにメロディアスなベースラインを紡いでいく、各人の個性がぶつかり合い、有機的に絡み合う1作です。

 音楽的には実験的な要素も多分に含まれ、決してポップな作風ではありませんが、ロックの音質上の魅力や、アンサンブルのかっこよさが、むき出しのまま提示されるような、ダイレクトな感覚に溢れています。