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Town & Country “C’Mon” / タウン・アンド・カントリー『カモン』


Town & Country (Town And Country) “C’Mon”

タウン・アンド・カントリー 『カモン』
発売: 2002年2月19日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴを拠点に活動していたバンド、タウン・アンド・カントリーの3rdアルバム。生楽器を用いて、ミニマルかつフリーなアンサンブルを展開するのが特徴の4人組です。シカゴの名門インディペンデント・レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。

 前作『It All Has To Do With It』と比較すると、ミニマルで音響を重視したアプローチであるのは共通していますが、本作の方がコードの響きの部分で、やや不安的で実験的な色が濃くなっています。また、ハーモニウム(リード・オルガン)の持続音や、コントラバスの単音が目立っていた前作に比べ、流れるようなアコースティック・ギターの粒だった音が前面に出ています。

 2000年代以降、シンセサイザーをはじめ、電子楽器を用いたアンビエントなポストロックやエレクトロニカも数多くある中で、タウン・アンド・カントリーは生楽器で独特の温もりのあるサウンドを作り上げています。

 1曲目「Going To Kamakura」は、イントロからギターとコントラバスが、音数が少なくミニマルなアンサンブルを展開。徐々に音の動きが多くなっていき、ハーモニウムの持続音も加わります。全体のハーモニーと、各楽器の音の動きには、どこか不穏な空気が漂う1曲。

 2曲目「I’m Appealing」は、アコースティック・ギターの細かく速い音の波が、イントロから押し寄せる1曲。一般的なポップ・ミュージックの感覚からすると展開に乏しくミニマルな曲ですが、音の動きには微妙に変化があり、途中から音が加わったり、音程が変わったりと、音楽の表情は刻一刻と変化を続けます。

 3曲目「Garden」は、各楽器ともゆったりとロング・トーンを奏でる、アンビエント色の濃い1曲。ドローンというほどには、音の動きが少ないわけではなく、余裕を持ったテンポのなかで、ゆるやかにアンサンブルが構成されます。

 4曲目「The Bells」は、イントロからトランペットの音が印象的な1曲。こちらも3曲目に引き続き、各楽器が奏でる音が長めで、音響が前景化された曲と言えます。生楽器が使用されているため、サウンド・プロダクションは非常に穏やか。再生時間1:48あたりからの各楽器が重なる響きなど、コード感にはやや不思議なところがあります。

 5曲目「I Am So Very Cold」は、各楽器がバウンドするような、軽やかなリズムを持った1曲。耳ざわりも非常に心地よく、グルーヴ感と呼ぶほどではありませんが、ゆるやかにスウィングしていく曲です。

 6曲目「Palms」は、音数が少なく、ミニマルで穏やかな1曲。ヴィブラフォンなのか、鉄琴のような音が、幻想的で童話の世界のような雰囲気を演出します。

 7曲目「Bookmobile」は、各楽器の音の動きが激しく、絡み合うようなアンサンブルが展開されます。フリー・ジャズのような雰囲気も漂いますが、激しくせめぎ合う圧巻のグルーヴという感じではなく、ゆるやかに絡み合いながら、ひとつの有機的な音楽を作り上げる、穏やかな曲です。そう感じるのは、生楽器のみを用いたサウンドによるところも大きいと思います。本作の中でも、わかりやすく音楽的な曲であり、徐々にバンドの熱が上がっていくような、加速感のある曲。とても、かっこいいです。

 ミニマルな作品ではありますが、リズムや音響へのストイックな拘りが感じられ、多種多層な風景を見せてくれるアルバムです。スリル・ジョッキーからリリースされているという先入観を抜きにしても、「アコースティックなトータス」といった趣のある1枚。

 ちなみにスリル・ジョッキーから発売のUS盤は7曲収録ですが、徳間ジャパンから発売された日本盤にはボーナス・トラックが3曲追加され、10曲収録となっています。僕は輸入盤しか所持していないので、ボーナス・トラックについては未聴です。

 





Town & Country “It All Has To Do With It” / タウン・アンド・カントリー 『イット・オール・ハズ・トゥ・ドゥ・ウィズ・イット』


Town & Country (Town And Country) “It All Has To Do With It”

タウン・アンド・カントリー 『イット・オール・ハズ・トゥ・ドゥ・ウィズ・イット』
発売: 2000年10月3日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴを拠点に活動していた4人組バンド、タウン・アンド・カントリーの2ndアルバム。1stアルバム『Town & Country』は、シカゴのボックスメディア(BOXmedia)というレーベルからの発売ですが、2ndアルバムの5ヶ月前に発売されたEP『Decoration Day』以降は、同じくシカゴの名門レーベル、スリル・ジョッキーからリリースされています。

 ボーカル無し、4人のメンバーがアコースティック楽器を用いて、ミニマルで暖かみのあるサウンドを構築する作品です。メンバーと主な担当楽器は、ギターとトランペットのベン・ヴァイダ(Ben Vida)、コントラバスとピアノのジョシュ・エイブラムス(Josh Abrams)、コントラバスのリズ・ペイン(Liz Payne)、ハーモニウム(リード・オルガン)のジム・ドーリング(Jim Dorling)。

 ドラム不在の編成というところも示唆的ですが、リズムよりも音響重視の音楽を奏でるバンドです。本作も、ハーモニウムの持続音を効果的に用いながら、ゆったりとしたテンポでコントラバスやギターが音を紡ぎ、目の前に風景が広がるようなアンサンブルが展開されます。

 1曲目「Hindenburg」は、音楽が様々な表情を見せるイマジナティヴな1曲。音が空間に滲んでいくような印象的なイントロから、徐々に音数が増え、タペストリーのように音楽が織り込まれていきます。再生時間2:40あたりからのテンポが切り替わる部分など、ところどころ風景が変わるような展開があります。

 2曲目「Hat Versus Hood」は、ハーモニウムの持続音が広がっていくアンビエントなイントロから、少しずつリズムが生まれ、音楽の輪郭がはっきりと現れてくるような展開の1曲。ハーモニウムの持続音の中に、コントラバスとピアノが音を置いていき、音が心地よく厚みを増していきます。

 3曲目「Fine Italian Hand」は、イントロからポツリポツリと音が鳴る、隙間の多いミニマルな1曲。アコースティック楽器を用いているからか、とても穏やかな音像。再生時間2:33あたりからギターが入ってくると、徐々に音が増え、緩やかに躍動感が生まれます。

 4曲目「That Old Feeling」は、イントロからシンセサイザーを使用しているのか、電子ノイズのような耳ざわりの音が響きます。その音に重なるようにコントラバスとギターが入り、絡み合うように、ゆるやかなグルーヴ感が生まれていきます。各楽器の音の運びが変わったり、再生時間8:50あたりからはトランペットが入ってきたりと、基本的にはミニマルな1曲ですが、少しずつ変化しながら進行していく曲です。

 アルバム全体を通して、ミニマルかつフリー・インプロヴィザーションの要素も感じる作品ですが、サウンド・プロダクションが非常に柔らかく穏やかで、敷居の高さはそこまで感じません。正しいかどうかは別にして、人によってはヒーリング・ミュージックとしても聴けるのではないかと思います。

 ちなみに4曲収録の作品ですが、徳間ジャパンから発売されていた日本盤には「Karaoke Part One」「Karaoke Part Two」という2曲のボーナス・トラックが収録されていました。日本用のボーナス・トラックだから「Karaoke」という言葉を使ったんでしょうかね。

 「Karaoke Part One」は、アコースティック・ギターとコントラバスがゆるやかに絡み合い、ハーモニウムが全体を包み込むような、ミニマルな1曲。「Karaoke Part Two」は、前半は高音域の鉄琴のような音と、トランペットの音が溶け合う、ハイに寄ったサウンド。後半はドラムのリムショットのような音や、スティック同士を叩くような音が、小刻みに鳴る、やや実験性の強い曲です。

 





The Advantage “Elf-Titled” / アドバンテージ 『エルフ・タイトルド』


The Advantage “Elf-Titled”

アドバンテージ 『エルフ・タイトルド』
発売: 2006年1月24日
レーベル: 5 Rue Christine (5ルウ・クリスティーン)
プロデュース: Antreo Pukay JR (アントレオ・ピューケイ・JR), John Golden (ジョン・ゴールデン)

 ゲーム音楽をカバーし、ニンテンドーコア(Nintendocore)と呼ばれるジャンルの代表的バンドのひとつ、アドバンテージの2ndアルバム。

 主にファミコンのゲーム音楽をカバーしているバンドですが、マスロック・バンド、ヘラのスペンサー・セイム(Spencer Seim)もメンバーに名を連ね、非常にテクニカルな演奏を展開します。今となってはローファイと言っていいファミコンのオリジナル音源と、アドバンテージによるマスロック的な複雑で緻密なアレンジの対比は、アンバランスとも思えますが、元の楽曲の魅力を引き出していると思います。

 1stアルバム『The Advantage』と比較して、今作『Elf-Titled』は、アンサンブルには隙間が少なくソリッドに、グルーヴ感も増加。前作はオリジナルのファミコン音源のシンプルさも残しつつ、緻密なアンサンブルを構成していましたが、今作ではよりテクニカルで複雑な演奏が展開されます。音楽的には、マスロック色が濃くなっているとも言えます。

 1曲目は「Batman – Stage 1」。曲名は、ゲーム・ソフトのタイトルの後に、楽曲のタイトルが続くかたちで表記されています。「Batman – Stage 1」は、その名のとおりバットマンのビデオ・ゲームのステージ1の音楽をカバーしたもの。せわしなく小刻みなリズムで、各楽器がカッチリと噛み合う1曲で、アンサンブルは緻密で、疾走感があります。

 2曲目の「Contra – Alien’s Lair / Boss Music」(魂斗羅)は、めまぐるしくリズムが切り替わる、マスロックの要素が特に強い1曲。

 3曲目「Double Dragon 3 – Egypt」(ダブルドラゴン3)は、2曲目に続き、複雑なアンサンブルが構成される1曲。シンセサイザーのファニーな音色が耳に残りますが、それ以外の楽器も正確にテクニカルな演奏を繰り広げています。

 7曲目「Bomberman 2 – Wiggy」(ボンバーマンII)は、リズムもサウンドも立体的。ポリリズミックな構造というわけではなく、複数のリズムが絡み合い、折り重なるように多層的なアンサンブルが構成されます。

 8曲目「Castlevania – Intro + Stage 1」(悪魔城ドラキュラ)は、1分30秒ほどの曲ですが、ドラマチックなイントロから、めまぐるしく展開があり、短いながらもプログレのような1曲。

 9曲目「Solar Jetman – Braveheart Level」。このソフトは、アメリカのTradewestという会社が制作したもので、日本では未発売だったようです。楽曲は複数のギターが重なり、ほぼ隙間なく、音の壁とも言うべき、分厚いアンサンブルを構成しています。

 10曲目「The Goonies 2 – Wiseman」(グーニーズ2 フラッテリー最後の挑戦)。2本のギターが絡み合いながら、細かくフレーズを刻む、マスロックらしい耳ざわりの1曲。

 11曲目「Double Dragon 2 – Mission 5: Forest Of Death」(双截龍II)。各楽器が折り重なるように、複雑で立体的なアンサンブルが構成される1曲。

 13曲目「Mega Man 2 – Stage Select / Metal Man」(ロックマン2)。ステージを選ぶ際のBGMと、メタル・マンのテーマがメドレーのように繋がれており、疾走感と緊張感の溢れる演奏が繰り広げられます。タイトなドラム、絡み合う2本の正確無比なギター、メロディアスなベースと、全ての楽器に聞きどころがあります。

 アルバム最後の16曲目は「Wizards & Warriors – Tree Trunk / Woods / Victory」(伝説の騎士エルロンド)。ラストにふさわしく、3曲が組曲のように繋がれ、奥行きのある曲です。4分弱と、一般的なポップ・ソングとすれば普通の長さですが、展開が多く、情報の多さを感じます。アンサンブルも機能的かつタイトで、このバンドの魅力が凝縮されたような演奏。

 前述したとおり、1stアルバムから比較すると、アレンジは格段に複雑で、マスロックやプログレを彷彿とさせるアルバムに仕上がっています。もっと、色々な楽曲を聴いてみたいところですが、残念ながらアドバンテージがリリースしたアルバムは、この2枚のみ。それ以外には、配信限定の『B-Sides Anthology』と、自主制作のEPやライブ音源をいくつかリリースしています。

 前作に引き続き、僕はほとんど原曲を知りませんでしたが、それでもマスロックやポストロックの作品として、十分に楽しめるクオリティを備えた作品であると思います。

 





The Advantage “The Advantage” / アドバンテージ『アドバンテージ』


The Advantage “The Advantage”

アドバンテージ 『アドバンテージ』
発売: 2004年4月6日
レーベル: 5 Rue Christine (5ルウ・クリスティーン)
プロデュース: Eric Broyhill (エリック・ブロイヒル)

 1998年に、カリフォルニア州ネバダシティで結成されたバンド、アドバンテージの1stアルバムです。

 マスロック・バンド、ヘラ(Hella)のギタリスト、スペンサー・セイム(Spencer Seim)がドラマーとして参加していることもあり、ヘラ関連のバンドとして紹介されることもありますが、それよりも任天堂ファミコンのゲーム音楽を、ロックの形式でカバーするバンドとして有名。

 アドバンテージのような音楽は、ニンテンドーコア(Nintendocore)、ニンテンドー・ロック(Nintendo rock)とも呼ばれ、一部に熱狂的なファンがいるようです。日本で言えば「歌ってみた」的なノリなのでしょうか(笑) ちなみにアドバンテージは、日本ツアーを行ったこともあります。

 今作も、スーパーマリオやボンバーマンなど、ファミコンの名作の音楽を、26曲収録した作品。前述したとおり、ヘラのスペンサー・セイムが参加しているのも示唆的で、非常にテクニックがあり、緻密なアンサンブルを構築するバンドです。8bitのファミコン音楽が、マスロック的なテクニックによって、現代に鮮やかに蘇る1枚です。(「現代」と言っても、このアルバムが発売されたのは2004年で、すでにけっこう時間が経っていますが…)

 アルバム1曲目を飾るのは「Megaman 2 – Flashman」。メガマンっていきなり知らないソフトだと思いましたが、日本語のタイトルは「ロックマンワールド2」です。このアルバムの曲目表記は、ゲームのタイトル、曲のタイトル、という並びで表記されています。「ロックマンワールド2」の「フラッシュマン」のテーマ曲ということです。

 タイトなリズム隊に、ギター2本が緻密に絡み合うアレンジ。正直、僕はほとんどゲームをやらないので、原曲にはなじみが無いのですが、コンパクトにまとまったマスロックといった趣の1曲です。ちなみの「ロックマンワールド2」は、ファミコンではなくゲームボーイで発売されたソフトのようですね。

 2曲目は「Double Dragon II – Mission 2 At the Heliport」。こちらは日本語だと「双截龍II」。メロディアスなベースラインに、2本のギターが乗り、1曲目に近いコンパクトなアレンジです。

 4曲目は「Bubble Bobble – Theme」(バブルボブル)。こちらのゲームのメインテーマのようです。2本のギターとベース、ドラムにより、立体的なアンサンブルが展開される1曲。

 7曲目「Bomberman II – Areas 1,3 & 5」(ボンバーマンII)。リズムの加速と減速があり、メリハリのついたタイトなアンサンブル。ドラムのリズムも複雑で、ファミコン音楽のポップでかわいい耳ざわりでありながら、マスロックの顔が見え隠れする1曲です。

 18曲目は「Super Mario Bros. 3 – Underworld」(スーパーマリオブラザーズ3)。この曲は、さすがに僕でも知っていました。「Underworld」というタイトルですが、土管に入って地下で流れるあの曲です。ドラムが余裕を持ってリズムをキープし、その上にギターとベースが、正確にメロディーを刻んでいきます。ギターとベースの多層的なアレンジは、原曲を知らなくともかっこいいと思います。

 19曲目「Blaster Master – Stage 2」(超惑星戦記メタファイト)。「Stage 2」とのことですが、ボス戦のような疾走感と緊張感のある曲です。

 全部で26曲収録のアルバムですが、多くの曲が2分以内の長さのため、全体の収録時間は42分弱です。僕はあまりゲームをやらない、なおかつファミコン世代でもないので、知らない曲が多かったのですが、それでもネタ的な意味でなく、純粋にかっこいい楽曲群です。もちろん、話のネタとして聴いても、損は無いアルバムだと思います。

 オリジナルのファミコン音源は、同時発音数も限られ、音楽を鳴らす条件としては非常に厳しいものであったと思いますが、こうして別の形式でアレンジされたものを聴いてみると、メロディーが持つ強度の高さを感じます。きっと当時の作曲家(ソフトによってはプロの作曲家ではなかったかもしれません)の方たちは、限られた条件下で、ゲームを演出するため、努力と知恵を絞って作曲されていたのだろうと想像します。

 元のゲームに思い入れがあろうとなかろうと、面白い作品であることは確かです。ヘラのスペンサー・セイムが参加している別プロジェクトとして聴いても、十分に楽しめますよ!

 





Q And Not U “No Kill No Beep Beep” / キュー・アンド・ノット・ユー『ノー・キル・ノー・ビープ・ビープ』


Q And Not U “No Kill No Beep Beep”

キュー・アンド・ノット・ユー 『ノー・キル・ノー・ビープ・ビープ』
発売: 2000年10月24日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ian MacKaye (イアン・マッケイ), Don Zientara (ドン・ジエンターラ)

 ワシントンD.C.出身のバンド、Q And Not U。1998年の結成から、活動停止する2005年までの間に、3枚のアルバムをリリースします。本作『No Kill No Beep Beep』は、2000年に発売された1stアルバム。ワシントンD.C.を代表するインディペンデント・レーベル、ディスコード(Dischord)からのリリースで、プロデュースも同レーベルの設立者イアン・マッケイが手がけています。

 ディスコードは、いまやワシントンD.C.の伝説的ハードコア・バンド、ティーン・アイドルズ(Teen Idles)およびマイナー・スレット(Minor Threat)のメンバーだったイアン・マッケイとジェフ・ネルソン(Jeff Nelson)によって設立されました。そのため、同レーベルの音楽性はハードコアの印象が強く、実際その種の作品のリリースも多いのですが、Q And Not Uはハードコアというよりも、よりカラフルな音楽性を持ったバンドです。と言っても、ハードコアが単調で直線的な音楽だと言いたいわけではありません。

 ジャンルとしては、Q And Not Uはポスト・ハードコアやポスト・パンクに分類されることが多く、ハードコア的な疾走感を持ちながら、マスロックを思わせるような複雑なアンサンブルも、持ち合わせたバンドです。

 1曲目「A Line In The Sand」は、2本のギターとベース、ドラムが絡み合い、コーラス・ワークも含めて、各パートが覆い被さり合うようなアンサンブルが構成されます。再生時間1:17あたりからのギターの音色とコードの響きなど、実験性を感じる要素もあり、音楽的なアイデアの豊富さが溢れた1曲。

 2曲目の「End The Washington Monument (Blinks) Goodnight」は、イントロから高音が耳に刺さる、ノイジーなギターが印象的な1曲。2本のギターが、有機的に絡み合い、曲が進行していきます。

 3曲目「Fever Sleeves」も、2本のギターとリズム隊が絡み合い、小刻みなリズムと、ゆったりしたタメを用いた、緩急のあるアンサンブルが展開。各楽器がバラバラに別のことをやっているようにも聞こえるのに、ぴったりと全ての音がおさまるべき場所におさまるような演奏です。

 4曲目「Hooray For Humans」は、つまづくような、飛び跳ねるような、ベースとドラムのリズムが耳に引っかかる1曲。そのリズム隊の上に、2本のギターが重なり、多層的なサウンドを作りあげます。再生時間0:37からの2本のギターによるブリッジ部や、再生時間1:02あたりからのコーラス・ワークも曲を引き締め、鮮やかにしています。

 6曲目「We ♥ Our Hive」のイントロでは、ドラムの刻むリズムのアクセントの位置が移動していき、その後に入ってくるギターとベースと共に、音数は少ないながら、タイトかつ複雑な演奏を展開。歌なしのポストロックのような演奏がしばらく繰り広げられますが、ボーカルも入っています。ボーカルが入ってきてからの、2本のギターの厚みと奥行きのあるサウンドが、イントロ部とのコントラストを鮮やかに演出。

 7曲目「Little Sparkee」は、リズムが前のめりで、疾走感のある1曲。しかし、直線的な8ビートではなく、ところどころ微妙な加速と減速を挟みながら、リズムが伸縮するように進んでいきます。

 8曲目「The More I Get, The More I Want」は、ハイを強調した2本のギターが、絡み合うように自由に暴れまわる1曲。ギターの音色はノイジーですが、アンサンブルをないがしろにしているわけではなく、むしろ歌と同じぐらいギターが曲の前面に出てきて、結果としてアンサンブルが前景化されたような印象すら受けます。

 10曲目「Nine Things Everybody Knows」は、レコーディング後に音を加工したのか、回転する音に囲まれるような、奇妙なイントロからスタート。その後は、タイトで疾走感のある演奏が展開されます。この曲のリズムは、このアルバムの中では、比較的に単純でわかりやすく、他の曲との対比で新鮮に響きます。しかし、再生時間0:50あたりから小刻みに跳ねるようなリズムに切り替わるなど、ただ同じリズムを繰り返すだけではありません。

 11曲目「Sleeping The Terror Code」は、堰を切ったように音が溢れ出すイントロから始まり、音数の少ないアンサンブルが展開されます。静寂と轟音を循環するような展開を予想していましたが、そうではなく、音数を絞った静かなサウンドで、じっくりとアンサンブルが繰り広げられます。ボーカルも囁くような声で、バンドも音量や速度に頼らず、ゆったりとタメを作りながら、立体的なアンサンブルを作り上げていて、バンドの懐の深さを感じる1曲です。

 アルバム全体を通して、ハードコア的なエッジの立った部分も持ちながら、それだけにはとどまらないアンサンブル志向の演奏が繰り広げられるアルバムです。ボーカルも絶叫一辺倒ではなく、ラスト11曲目の感情を抑えたような歌い方も秀逸ですし、コーラス・ワークのクオリティも高いバンド。

 アンサンブル志向だと書きましたが、特に2本のギターの役割分担は、非常に機能的かつ刺激的です。ノイジーで耳に痛い音なのに、同時に深い音楽性と知性を感じさせます。ディスコード入門としてもオススメできる、非常に優れたアルバムです。