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David Grubbs “A Guess At The Riddle” / デイヴィッド・グラブス『ア・ゲス・アット・ザ・リドル』


David Grubbs “A Guess At The Riddle”

デイヴィッド・グラブス 『ア・ゲス・アット・ザ・リドル』
発売: 2004年6月22日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、デイヴィッド・グラブスのソロ・アルバムです。この方は実に多作で、多くのレーベルから様々な作品をリリースしているので、もはやソロ何作目と数えるべきなのか分かりません…笑

 本作『A Guess At The Riddle』は、アメリカ国内ではドラッグ・シティ、イギリスではファットキャット(FatCat Records)からリリースされています。

 楽器の種類、音色の多彩さが増し、バンド感溢れる1作に仕上がっています。ナチュラルなサウンドを持った生楽器を主軸にしながら、全体のアンサンブルとサウンド・プロダクションは、非常に色鮮やか。

 デイヴィッド・グラブスの作品のなかでも、最もソリッドなバンド・サウンドを持ち、ロック色の強いアルバムだと思います。

 マイス・パレードのアダム・ピアースや、ギリシャ出身のチェリストのニコス・ヴェリオティス、サンフランシスコ出身の電子音楽デュオ、マトモスなどがゲスト参加しています。

 1曲目「Knight Errant」は、イントロからほどよく歪んだクランチ気味のギター、タイトなドラムが緩やかにグルーヴしていく1曲。デイヴィッドのボーカルも、いつになく感情的でメロディアス。

 2曲目「A Cold Apple」は、流れるようなギターのフレーズに、「カツカツカツ…」と小気味よくリズムを刻むドラムが絡むイントロから、緩やかに疾走感のあるアンサンブルが展開されます。

 4曲目「Magnificence As Such」は、ギター、ドラム、チェロ、オルガンが溶け合うアンサンブルが心地いい1曲。再生時間1:07あたりからの歌が前景化されるアレンジも、穏やかで耳に残ります。

 7曲目「You’ll Never Tame Me」は、アルバム全体のオーガニックな雰囲気とは異なり、アンビエントやエレクトロニカを感じさせる音響を持った1曲。

 8曲目「Your Neck In The Woods」は、音数を絞ったピアノとドラムが、緊張感を演出する1曲。どこか殺伐とした雰囲気を持ちながら、同時にノスタルジックな空気も漂います。

 11曲目「Hurricane Season」は、8分を超える大曲です。波のように揺れるピアノに、シンバルを多用し細かくリズムを刻むドラムが、グルーヴ感を出しながら加速していきます。

 生楽器を中心にカントリー的なサウンドを持ちながら、現代的な雰囲気も色濃い作品です。また、前述したとおりバンド感が強く、グルーヴに溢れた1作でもあります。

 デイヴィッド・グラブスの作品は、時に実験的で敷居が高いと思われるものもありますが、本作は彼の作品の中でもロックでポップで、単純にかっこよく、個人的にもオススメしたいアルバムです。

 





Don Caballero “Punkgasm” / ドン・キャバレロ『パンクガズム』


Don Caballero “Punkgasm”

ドン・キャバレロ 『パンクガズム』
発売: 2008年8月19日
レーベル: Relapse (リラプス)
プロデュース: Al Sutton (アル・サットン)

 2000年発表の『American Don』を最後に解散し、2003年になってドラマーのデイモン・チェを中心に、メンバーを替えて再始動したドン・キャバレロ。再結成1作目の前作『World Class Listening Problem』に続く、ドン・キャバレロ通算6枚目のスタジオ・アルバムです。

 本作が発売された翌年の2009年から、バンドは再び解散状態に入っています。そのため現在のところ、本作がドン・キャバレロ最後のスタジオ・アルバムとなります。(以前のライブ音源を使用したライブ・アルバムは、数枚リリースされています。)

 変拍子や複雑なフレーズを用いた、緻密なアンサンブルが特徴のドン・キャバレロ。本作でも彼らの醍醐味である、緻密で緊張感あふれる、演奏が展開されています。

 1曲目「Loudest Shop Vac In The World」は、イントロから各楽器ともナチュラルな音色。バンド全体で1枚のタペストリーを編み上げるような、有機物かつ緻密なアンサンブル。徐々に模様が変わっていくかのような展開は、轟音に頼らずとも非常にスリリングです。

 2曲目「The Irrespective Dick Area」は、小刻みなギターのフレーズに目が回りそうになる1曲。わずか1分30秒ほどの曲ですが、途中でねじれるように耳障りな高音を絞り出すギターなど、めまぐるしく展開があります。

 8曲目「Lord Krepelka」は、少ない音数でスリルと緊張感を演出する1曲。殺伐とした雰囲気のギターの音色と、徐々に手数を増やし複雑なリズムを生むドラムが、絡み合い、加速していきます。

 前述したように、ドン・キャバレロ最後のアルバムです。アンサンブルのクオリティも申し分なく、なかなかの良盤であるとは思いますが、彼らの作品のなかでは小さくまとまっていて一番地味だな、というのが正直なところです。

 とはいえ、一定以上のクオリティを持った素晴らしい作品であることは間違いありません。僕は、ドン・キャバレロが大好きで、他の作品がそれぞれ個性を持ち、圧倒的に優れているので、どうしても辛口になってしまいます。

 





Don Caballero “World Class Listening Problem” / ドン・キャバレロ『ワールド・クラス・リスニング・プロブレム』


Don Caballero “World Class Listening Problem”

ドン・キャバレロ 『ワールド・クラス・リスニング・プロブレム』
発売: 2006年5月16日
レーベル: Relapse (リラプス)
プロデュース: Al Sutton (アル・サットン)

 ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロの通算5枚目のスタジオ・アルバムです。前作『American Don』を最後に一時的に解散していたドン・キャバレロが、ドラマーのデイモン・チェ(Damon Che)を中心にメンバーを替えて再結成し、リリースされたのが本作『World Class Listening Problem』。

 以前、所属していたタッチ・アンド・ゴーから、メタル系を得意とするリラプスへ移籍してのリリース。また、プロデュースは、2ndアルバム『Don Caballero 2』と3rdアルバム『What Burns Never Returns』以来となる、アル・サットンが担当。

 レーベルも移籍し、ドン・キャバレロの再編1作目。このような再編後は、音楽性が著しく変わっていたり、クオリティが明らかに落ちていたり、ということも珍しくないですが、今作『World Class Listening Problem』はすばらしい作品だと思います。

 1stアルバム『For Respect』を思い出すような、激しく歪んだ轟音ギターが鳴り響き、ドラムもアグレッシヴにリズムを刻んでいく作品に仕上がっています。轟音で圧倒するだけでなく、以前のドン・キャバレロが持っていた緻密なアンサンブルも健在。ドラムのデイモン・チェ以外のメンバーは交替しているものの、解散前のドン・キャバレロらしさも感じられる演奏が展開します。

 しかし、以前とは変わったところがあるのも事実。メタル系の音楽を得意とするリラプスに移籍したことも示唆的ですが、ギターを中心に全体的なサウンドは、メタル色が濃くなっています。ただ、それが欠点になっているかというとそうではなく、ハードなサウンドと、タイトなアンサンブルが溶け合う、以前よりダイナミズムの大きい作品です。

 1曲目は「World Class Listening Problem」。イントロから、緊張感を演出するようなギターのフレーズに続いて、バンドがフルスロットルで感情を爆発させるような演奏を繰り広げます。前のめりにつっこんでくるようなドラムのリズムと、硬質なギターのサウンドの相性も抜群。

 2曲目の「Sure We Had Knives Around」は、回転するようなドラムのイントロから、ギターがミニマルなフレーズを繰り返し、メタルとサイケデリック・ロックが融合したような1曲。

 6曲目「World Class Listening Problem」は、各楽器が有機的に絡み合ってアンサンブルを構成し、解散前のドン・キャバレロを思わせる1曲です。

 前述したとおり、メンバーの変更もあり、音楽性にも変化の見られる今作ですが、個人的には解散前のドン・キャバレロと同じぐらい、後期ドン・キャバレロも好きです。

 以前から、デイモン・チェのドラムは音もプレイも最高だな、と思っていましたが、あらためて彼が優れたミュージシャンだと認識させられた1枚。一般的には、イアン・ウィリアムスの在籍していた、前期ドン・キャバレロの方が評価は高いですが、後期ドン・キャバレロもおすすめです!

 





Don Caballero “American Don” / ドン・キャバレロ『アメリカン・ドン』


Don Caballero “American Don”

ドン・キャバレロ 『アメリカン・ドン』
発売: 2000年10月3日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロの4枚目のスタジオ・アルバムです。レコーディング・エンジニアは、1stアルバム『For Respect』以来となる、スティーヴ・アルビニが担当。このアルバムを最後に、ドン・キャバレロは一旦解散してしまいます。

 また、本作『American Don』と、前作『What Burns Never Returns』の間には、7インチのシングル盤を集めたコンピレーション盤『Singles Breaking Up (Vol. 1)』が発売されています。

 ドン・キャバレロの代表作と紹介されることの多いアルバムが、本作『American Don』です。個人的にも、彼らのアルバムのなかで一番好き…どころか、全てのバンドの全てのアルバムのなかでも、上位に入るぐらい大好きな作品です。

 ギターのサウンドは激しい轟音から、空間系のクリーントーンまで多種多様で、全体のサウンド・プロダクションは、彼らのアルバムの中でも最もカラフルに仕上がっています。収録されている楽曲のバラエティも豊かで、アンサンブルも緻密。非の打ち所がない作品だと思います。

 1曲目「Fire Back About Your New Baby’s Sex」から、各楽器が折り重なるように、躍動感あふれるアンサンブルを構成していきます。ベースのメタリックで硬いサウンド、はためくようなギターの音とフレーズなど、音楽の素材ひとつひとつにも、強いこだわりが感じられます。

 再生時間0:45あたりからドラムが躍動感を増すところ、0:58あたりで全体のリズムが一変するところなど、展開がめまぐるしく、5分弱の1曲とは思えないほど、聴くべき情報量の多い1曲です。

 2曲目「The Peter Criss Jazz」は、アンビエントな空気も漂う、透明感のあるイントロから、徐々にリズムと音が増え、複雑に絡み合っていく1曲。

4曲目「You Drink A Lot Of Coffee For A Teenager」は、何拍子かつかみにくい複雑なリズムを、切り刻むように叩くドラムが鮮烈な印象を与えます。

 8曲目「A Lot Of People Tell Me I Have A Fake British Accent」は、トライバルな雰囲気漂うドラムに、ミニマルで幾何学的なギターのフレーズが絡み、緻密なアンサンブルを構成していく1曲です。

 サウンド・プロダクションの面でも、アンサンブルの面でも、彼らの最高傑作と言っていい、すばらしい作品だと思います。「マスロック」という言葉ではくくれないほど、多種多様な音楽の要素を感じさせる1作です。収録楽曲の内容も、実に多彩。

 前述したとおり、個人的にもドン・キャバレロのアルバムのなかで一番のお気に入り。本当に名盤だと思います。

 





Jim O’Rourke “Insignificance” / ジム・オルーク『インシグニフィカンス』


Jim O’Rourke “Insignificance”

ジム・オルーク 『インシグニフィカンス』
発売: 2001年11月19日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク), Jeremy Lemos, Konrad Strauss

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルークのドラッグ・シティからリリースされる3枚目のアルバム。アルバム作品以外では、前作『Eureka』と本作『Insignificance』の間に、4曲入りのEP『Halfway To A Threeway』を発売しています。

 ドラッグ・シティ過去2作のアルバムは、全体の耳ざわりとしてはフォークやカントリーを感じさせる、アメリカーナな音像を持っていましたが、本作はロックな方向へ舵を切った1作と言えます。

 と言っても、現代的なラウドなディストーション・ギターを全面に押し出したアルバムという意味ではなく、50~60年代のオールドロックを、現代的に再解釈したアルバムと言った方が適切です。そういう意味では、素材としてピックアップした音楽は異なりますが、過去2作と方法論は近いとも言えます。

 1曲目「All Downhill From Here」から、パワフルで臨場感あふれるサウンドのドラムと、中音域の豊かなほどよく歪んだギターが、グルーヴしていきます。ジムの暖かみのある声は、ロックには不向きと思えますが、この曲では感情を抑えたクールな歌唱が、古き良きロックンロールの香り立つ演奏と、絶妙にマッチしています。

 2曲目「Insignificance」は、ギターとヴィブラフォンが、1枚の織物のようにアンサンブルを編み込んでいく1曲。随所の聴こえる不思議な電子音のようなサウンドもアクセントになっています。再生時間0:56あたりから入ってくるエレキ・ギターのフレーズも、音の運びが裏返ったようなサイケデリックな空気をふりまきながら、曲のなかにぴったりと馴染んでいます。いくつもの違和感が、すべて音楽のフックへと転化していく、ジム・オルークらしい展開。

 3曲目の「Therefore, I Am」は、イントロからハード・ロック的に歪んだギターが響きます。しかし、そのままロックのサウンドや形式を借りるだけでは終わらないのがジム・オルーク。再生時間1:45あたりからの様々な楽器が重層的に連なるアレンジなどに、彼のねじれたポップ感覚が垣間見えます。

 7曲目「Life Goes Off」は、イントロからアコースティック。ギターを中心に、オーガニックなサウンドが響きます。そこから、再生時間1:29あたりからの細かくリズムを刻むドラムなど、変幻自在のサウンドやフレーズが、次々と顔を出す1曲です。

 アルバム全体を通して聴くと、ラウドなギターが響く前半、ドラッグ・シティでの前2作に通ずるアコースティックな後半、という流れになっています。

 前2作に比べて、ディストーション・ギターのサウンドが加わったことにより、サウンド・プロダクションの印象は大きく変わっています。しかし、様々なサウンドやジャンルの要素を組み合わせ、全く新しいポップ・ミュージックを作り上げる、ジムのセンスは変わっていません。

 本作も、ラウドな音をルーツ・ミュージックや電子音楽と溶け合わせた、極上のポップ・ミュージックが響くアルバムであると言えます。