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Local Natives “Gorilla Manor”/ ローカル・ネイティヴス『ゴリラ・マナー』


Local Natives “Gorilla Manor”

ローカル・ネイティヴス 『ゴリラ・マナー』
発売: 2009年11月2日(イギリス), 2010年2月16日(アメリカ)
レーベル: Infectious (インフェクシャス), Frenchkiss (フレンチキス)

 カリフォルニア州ロサンゼルス出身のバンド、ローカル・ネイティヴスの1stアルバムです。アメリカのバンドですが、先にイギリスで2009年11月にインフェクシャス・レコード(Infectious Records)より発売、アメリカ国内では2010年2月にニューヨークのレーベル、フレンチキスから発売されています。

 立体的なアンサンブルとサウンド・プロダクション。いきいきとした躍動感と、流れるようなメロディー。意外性のあるアレンジ。実にインディー・ロックらしい、インディー・ロックでしか聴けない魅力が凝縮されたアルバムであると思います。

 3人のギタリストを有する5人編成で組み上げるアンサンブルは、各楽器の役割がはっきりしていて機能的で緻密。しかし、同時に生命力あふれるグルーヴ感も持ち合わせた演奏を、展開していきます。

 1曲目「Wide Eyes」のイントロは、透明感のあるサウンドのギターに続いて、立体感あるドラミングが、早速楽曲に奥行きをプラスしています。タペストリーを織り上げるようなギター、タイトに立体的なリズムを刻むドラム、メロディアスなフレーズでバンドを下支えするベース、さらに美しいコーラス・ワークと、アルバムの幕開けにふさわしい情報量の多い1曲。

 再生時間1:57あたりからのドラムと、音響を前景化したようアレンジも良いです。2:47あたりからのベースなど、全ての楽器に見せ場があります。

 2曲目の「Airplanes」は、ピアノと、メンバーによる動物のような叫び声から、いったい何が始まるのか?という空気でスタートします。しかし、サウンドもアンサンブルも立体的で非常にかっこいい曲。コントラストを演出し、楽曲をコントロールするようなドラムが秀逸。

 3曲目「Sun Hands」は、ドラムのリズムにギターが乗っかり、バンド全体が加速していく1曲。この曲も立体的かつ、各楽器が絡み合う躍動感あふれるアンサンブルが気持ちいいです。

 6曲目「Camera Talk」。ドタバタしたドラムが響き渡り、ざらついた質感のギターがコードを弾くイントロからは、ほのかにガレージの香りが漂います。しかし、全体としては、バイオリンも使用され、色彩豊かなサウンド・プロダクション。

 11曲目「Stranger Things」にもバイオリンが導入され、コーラス・ワークも重厚な、壮大なアレンジ。しかし、オーケストラのような響きではなく、ソリッドな響きのドラムをはじめ、オーガニックな楽器の響きが前面に出た、大地が躍動するようなサウンド。

 個人的に、このバンドはドラムが好きです。しかし、もちろんドラムだけではなく、バンド全体でとても躍動感のあるアンサンブルを作り上げています。

 スケールの大きさを感じる壮大なアレンジの曲も多いのですが、前述したようにオーケストラのような荘厳さではなく、自然のあたたかみを感じるオーガニックなサウンドを響かせるアルバムです。僕はかなりお気に入りのバンド。

 





Bright Eyes “Cassadaga” / ブライト・アイズ『カッサダーガ』


Bright Eyes “Cassadaga”

ブライト・アイズ 『カッサダーガ』
発売: 2007年4月10日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 シンガーソングライターのコナー・オバーストを中心に結成された、ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ブライト・アイズの7枚目のアルバムです。

 タイトルの「カッサダーガ」とは、フロリダ州内にある非法人地域の地名。スピリチュアリズムの支持者が多く暮らし、「Psychic Capital of the World(世界の超能力者の首都)」とも呼ばれるらしい。

 ブライト・アイズというと、ボブ・ディランやニール・ヤングが引き合いに出されることもあるように、歌を中心に据えたフォーキーなサウンドを持つバンド、というイメージが一般的です。

 同時に、懐古主義には陥らず、現代的なセンスも併せ持ったバンド。本作でも、フォークやカントリーなどのルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、様々な楽器を導入し、カラフルで躍動感あふれるサウンドを響かせています。

 1曲目の「Clairaudients (Kill Or Be Killed)」は、イントロからスポークン・ワードと、ぶつ切りになった音の断片や持続音が空間を埋めつくす、アヴァンギャルドな音像。およそカントリーからは遠い、実験音楽のようなサウンドが続きますが、再生時間2分を過ぎたところで、アコースティック・ギターとボーカルが入ってくると、明確なフォームを持った音楽が進行していきます。

 しかし、奥の方では電子的な持続音や、様々な楽器の音が鳴っており、音響派のような雰囲気も漂います。徐々に楽器の種類が増え、種々のサウンドが多層的に重なる、壮大な展開。再生時間4:13あたりからは、カントリー系のオーガニックな音で作りあげるオーケストラとでもいった聴感。

 2曲目「Four Winds」では、イントロからバイオリンが大活躍。ギターやオルガンやマンドリンらしき音も聞こえ、サウンドもアンサンブルも、色彩豊かでゴージャス。

 4曲目「Hot Knives」は、ざらついた質感のギターに、エフェクト処理されたボーカル、立体的でパワフルなドラム、アンサンブルを包みこむストリングス。それら全てが有機的にアンサンブルを編み上げる躍動感あふれる1曲。カントリーを下敷きに、オルタナティヴ色の濃いアレンジとサウンドです。

 11曲目の「Coat Check Dream Song」は、ドラムとパーカッションが、立体的にリズムを組み上げるポリリズミックな1曲。トータスのジョン・マッケンタイアが、パーカッションで参加しています。ドラムとパーカッション以外の楽器も、有機的に絡み合ってグルーヴしていて、本当にすばらしいアンサンブル。個人的に大好きな曲です。

 ナチュラルな生楽器のサウンドと、オルタナ的なジャンクな耳ざわり、エレクトロニカ的な音響が、バランス良く融合したアルバムだと思います。懐古主義や過去のジャンルの焼き直しではなく、わざとらしく実験性を見せつけるでもない、絶妙のバランス。

 ルーツ・ミュージックの地に足がついた魅力と、アメリカらしい革新性と実験性が、ポップなかたちで結実した名盤です!

 





Bright Eyes “I’m Wide Awake, It’s Morning” / ブライト・アイズ『アイム・ワイド・アウェイク・イッツ・モーニング』


Bright Eyes “I’m Wide Awake, It’s Morning”

ブライト・アイズ 『アイム・ワイド・アウェイク・イッツ・モーニング』
発売: 2005年1月25日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 シンガーソングライターのコナー・オバーストを中心に結成された、ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ブライト・アイズの2005年にリリースされたアルバム。本作『I’m Wide Awake, It’s Morning』と、『Digital Ash In A Digital Urn』は同日に2枚同時リリースされました。

 アコースティック・ギターを主軸に、フォークやカントリーを感じさせるサウンド。しかし、アレンジやサウンドにはインディーロックの香りも漂い、回顧主義なだけではない、現代的な雰囲気も持ち合わせたアルバムです。

 アルバム・タイトルのとおり、朝になって、自分も含め自然や動物たちが活動を始めるような、いきいきとした躍動感に溢れた作品。ボーカルの若さと渋さのバランスが絶妙な、わずかに枯れたエモーショナルな歌唱も良いです。

 1曲目「At The Bottom Of Everything」は、1分ほどのスポークン・ワード…というよりセリフに続いて、アコースティック・ギターがシャカシャカとカッティングを始め、曲がスタート。セリフに続いてからのスタートのためか、楽器の音もボーカルの声とメロディーも、非常に音楽的にいきいきと響きます。

 2曲目の「We Are Nowhere And It’s Now」は、朝の散歩のように、穏やかな1曲。優しく絞り出すようなボーカリゼーションと、緩やかにグルーヴするバンドの相性も抜群。ホーンの導入や、再生時間2:10あたりからのギターのサウンドなど、音楽の幅の広さも感じさせます。随所に挟まれるギターのフレーズがアクセント。

 7曲目「Another Travelin’ Song」は、ノリノリにグルーヴしながら駆け抜けていく、カントリー調の1曲。リズムを下支えするベースのリズムも、気持ちよく響きます。ロック的なノリではなく、カントリー・ウェスタン風のノリ。ギターのフレーズもカントリー色が濃いのに、全体はカントリーくさくなり過ぎないのは、サウンド・プロダクションとボーカルの影響かなと思います。

 アルバムをとおして、生楽器のオーガニックなサウンドを用いた、フォーキーなサウンドが響きます。ブライト・アイズのアルバムのなかでも、カントリー色の濃い1枚。

 他のアルバムには、もっと楽器の音色やアレンジに、オルタナティヴな要素が強く出ているものもありますが、本作はオーガニックなサウンドを重視し、結果として歌が前景化された1作になっているんじゃないかと思います。

 





David Grubbs “Rickets & Scurvy” / デイヴィッド・グラブス『リケッツ・アンド・スカーヴィー』


David Grubbs “Rickets & Scurvy”

デイヴィッド・グラブス 『リケッツ・アンド・スカーヴィー』
発売: 2002年5月20日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、デイヴィッド・グラブスの2002年発売のソロ・アルバムです。レコーディングには、今回もトータスのジョン・マッケンタイアが参加。

 スクワール・バイトやバストロ、ガスター・デル・ソルなど様々なグループで活動してきたデイヴィッド・グラブス。彼の作る音楽は、非常に多岐にわたります。

 ドラッグ・シティからリリースされている彼の作品は、歌の入ったポップ・ミュージックの形式をそなえているものが多く、本作も例外ではありません。

 彼の歌モノ作品は、カントリーを下敷きにオルタナティヴな要素を溶け込ませたものが多いのですが、本作『Rickets & Scurvy』も、カントリーやフォークなどルーツ・ミュージックと、オルタナティヴ・ロックやポストロックの実験性を併せ持つアルバムだと言えます。

 1曲目「Transom」のイントロでは、アンビエントなノイズが響きます。不穏な空気のなか、再生時間0:18あたりから、バンドがタイトなアンサンブルを展開。ギターのフレーズにはカントリーの香りも漂いますが、デイヴィッドのメロディー感の希薄なボーカル、緊張感のあるアンサンブルは、インディー・ロック色の強い1曲です。

 2曲目「Don’t Think」は、複数のギターとパーカションが、立体的なアンサンブルを構成する1曲。アンサンブルもサウンドも立体的で、臨場感があります。

 3曲目「A Dream To Help Me Sleep」は、ピアノとアコースティック・ギターを中心に据えた穏やかな1曲。ですが、ピアノとギターが互いにかみ合いながら加速するような躍動感も持っています。

 5曲目の「I Did No Such Roaming」は、ギターがシンプルなフレーズを繰り返す、1分ほどのミニマルな曲。

 6曲目「Pinned To The Spot」は、ワウのかかったエレキ・ギターを、タイトなリズム隊が絡み合う、オルタナティヴ・ロック色の濃い1曲。緩急をつけ、コントラストを演出しながら、アンサンブルが展開されます。疾走感もあり、これはかっこいいです。

 8曲目「Precipice」は電子的なノイズと持続音が飛び交う、アンビエントな1曲。カントリー的なオーガニックな楽器の響きと、エレクトロニカやアンビエントを彷彿とさせるこの曲が、違和感なく同じアルバムに共存するところに、デイヴィッド・グラブスらしいセンスを感じます。

 ドラッグ・シティからリリースされている彼の作品の中では、やや実験的な色が濃い作品であると思います。しかし、ロックあり、アンビエントありで、多才なジャンルとサウンドの溶け合った、非常に面白い1作でもあります。

 





David Grubbs “The Spectrum Between” / デイヴィッド・グラブス『ザ・スペクトラム・ビットウィーン』


David Grubbs “The Spectrum Between”

デイヴィッド・グラブス 『ザ・スペクトラム・ビットウィーン』
発売: 2000年7月10日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、デイヴィッド・グラブスの4枚目のソロ・アルバムです。レコーディングには、トータスのジョン・マッケンタイアも参加。

 時期や作品によって、作風の異なるデイヴィッド・グラブスですが、ドラッグ・シティからリリースされている作品は、どれもポップスの形式をそなえていて、聴きやすいと思います。本作も、アコースティック・ギターを中心に、オーガニックな楽器のサウンドが響く1作。

 ルーツ・ミュージックからの影響も感じさせ、基本的にはフォーキーなサウンドの作品です。しかし、生楽器を使いながら、ポストロックのような音響的なアプローチや、ルーツ・ミュージックの枠におさまらないアンサンブルなど、随所にデイヴィッド・グラブスの音楽的教養の高さをうかがわせるアルバムでもあります。

 1曲目「Seagull And Eagull」は、アコースティック・ギターの弾き語りのような曲ながら、エレキ・ギターのフレーズと響きが、モダンな雰囲気をプラスしています。

 2曲目の「Whirlweek」は、イントロからアコースティック・ギターとドラムの、縦に揺れるグルーブ感が心地いい1曲。どことなくボサノバの香りも漂います。

 3曲目「Stanwell Perpetual」では、イントロからアコーディオンのような音色と、トランペット、サックス、ギターなどが、多層的にロングトーンを重ねていきます。使用されている楽器は生楽器で、音色も暖かみのあるナチュラルなものなのに、立ち現れる全体のサウンドは、エレクトロニカかポストロックのような音響になっています。

 濃密な音の壁が立ちはだかるようなサウンド・プロダクションで、いつまでも聴いていたいぐらい、耳に心地よく響く1曲。

 4曲目「Gloriette」は、音響的なアプローチの3曲目とは打って変わって、立体的ないきいきとしたアンサンブルが響き渡る1曲。鼓動のようなバスドラ、ギターの何度も繰り返されるフレーズなど、持続していく部分と、変化していく部分とのコントラストが鮮烈。

 8曲目「Preface」は、ギターとトランペットによる哀愁の漂うイントロから、後半はアヴァンギャルドな展開を見せる1曲。再生時間2:34あたりからのトランペット、それに続く耳障りな高音ノイズなど、多種多様なサウンドとジャンルが、1曲のなかにおさめられています。

 カントリーを感じさせるサウンドを持ちながら、随所にオルタナティヴで実験的なエッセンスも含んだアルバムです。ポップでありながら、違和感のあるアレンジや音が散りばめられ、その違和感がやがて音楽的なフックへ転化し、耳から離れなくなります。

 ポップさと実験性のバランスが絶妙で、聴きやすい作品ではないかと思います。