「インディー・フォーク」カテゴリーアーカイブ

Fleet Foxes “Fleet Foxes” / フリート・フォクシーズ『フリート・フォクシーズ』


Fleet Foxes “Fleet Foxes”

フリート・フォクシーズ 『フリート・フォクシーズ』
発売: 2008年6月3日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Phil Ek (フィル・エク)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、フリート・フォクシーズの1stアルバムです。流麗なメロディーと、カラフルで壮大なコーラスワーク、いきいきと躍動する有機的なバンドのアンサンブルが響きわたる1作。1枚目のアルバムから、すばらしい完成度です。

 わずかに輪郭が丸みを帯びたような柔らかいサウンド・プロダクションも、牧歌的な空気を演出し、暖かい温度感を持ったアルバム。

 アコースティック・ギターを中心に据えた、フォークやカントリーに近い耳ざわりを持ちながら、各楽曲が持つ世界観はよりファンタスティックというべきなのか、カラフルなサウンドが鳴り響きます。

 1曲目の「Sun It Rises」は、イントロからクリスマスの合唱のような、家庭的な暖かみのある、分厚いコーラスが響きます。「声も楽器」という言葉が似合う1曲。

 2曲目の「White Winter Hymnal」は、このアルバム中でも、フリート・フォクシーズのキャリアの中でも、屈指の名曲だと思います。イントロから輪唱のように次々と声が重なっていき、牧歌的でありながら、リフレインするフレーズがサイケデリックな空気も醸し出します。バンドのアンサンブルも緩やかに躍動していて、この上なく心地よい。大地を揺るがすようなバスドラの響きも、ダイナミズムをさらに広げています。

 3曲目の「Ragged Wood」は、イントロの伸びやかなボーカルが、山頂で叫んでいるかのように響きわたります。聴いているこちらも声をあげたくなるような1曲。その後のバンドの躍動感は、自然の中を駆け抜けていくよう。自然の厳しさではなく、壮大さを讃えたような、大自然が思い浮かぶ曲。

 6曲目「He Doesn’t Know Why」は、穏やかなイントロから、徐々に躍動感が増していきます。再生時間1:42あたりからの、音のストップ・アンド・ゴーが鮮やかなアレンジも良い。2:23あたりから、細かくリズムを刻むライド・シンバルも良い。

 7曲目「Heard Them Stirring」は、アコースティック・ギターの繊細なアルペジオと、柔らかなキーボードの音色、壮大なコーラスワークが溶け合い、神話の世界に入り込んだかのような1曲。

 10曲目の「Blue Ridge Mountains」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心にしたシンプルな前半から、再生時間2:03あたりでフルバンドが加わりスイッチが切り替わるところが鮮烈。

 オーガニックな響きを持ったサウンド・プロダクションと、多層的なコーラスワークが融合するアルバムです。アコースティック・ギターを主軸にした曲も多いため、耳ざわりはカントリーやフォークに近い部分もあります。

 しかし、彼らの音楽は、メルヘンチックであったり、サイケデリックであったり、大自然が躍動するようにパワフルであったり、神話的な雰囲気であったり、非常に多彩な世界観を持っています。

 デビュー・アルバムとは思えぬ、完成度の高いアンサンブルとコーラスワークが、濃密に詰まったアルバムです。非常におすすめ!

 





Joanna Newsom “The Milk-Eyed Mender” / ジョアンナ・ニューサム『ザ・ミルク・アイド・メンダー』


Joanna Newsom “The Milk-Eyed Mender”

ジョアンナ・ニューサム 『ザ・ミルク・アイド・メンダー』
発売: 2004年3月23日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Noah Georgeson (ノア・ジョージソン)

 カリフォルニア州ネバダシティ出身のハープ奏者でありシンガーソングライター、ジョアンナ・ニューサムのデビュー・アルバムです。

 シカゴの名門レーベル、ドラッグ・シティから発売。この作品のリリース前にも、2枚のEPを自主リリースしています。

 一部の曲で、ピアノとハープシコードも弾いていますが、ほぼ全編にわたってハープの弾き語りによるアルバムです。

 チャイルディッシュかつ独特のクセのある声を持つジョアンナ・ニューサム。ハープの穏やかなサウンドにのせて、彼女の声の魅力を堪能できる1作です。

 また、ハープの弾き語りを基本としているため、サウンドの種類は少ないアルバムですが、思いのほか多彩な世界が表現されていて、彼女の表現者としてのポテンシャルを感じさせます。

 1曲目の「Bridges And Balloons」は、ハープのリズミカルな演奏にのせて、ジョアンナの無邪気な声が、いたずらっぽくメロディーを紡いでいく1曲。

 2曲目「Sprout And The Bean」は、アクセントが移動したリズムに、どこかボサノバの香りも漂う、リラクシングな1曲。

 5曲目「Inflammatory Writ」は、ピアノを使った、躍動感あふれる1曲。ハープと比較すると、ソリッドな音質のピアノに合わせているのか、ジョアンナの声にもハリがあり、力強い。声色の巧みなコントロールも、彼女の武器のひとつ。

 8曲目「Cassiopeia」は、ギターのハーモニクスのような高音のハープと、ベース(キーボードで出しているのかもしれない)の低音によるアンサンブルが、心地よく響く1曲。流れるようにアルペジオを奏でる高音と、ロングトーンを繰り返す低音のコントラストも鮮やか。

 9曲目「Peach, Plum, Pear」では、ハープシコード(チェンバロ)が使用され、ここまでのアルバムと耳ざわりが異なります。ハープシコードのメタリックで倍音を豊富に含んだ音に対抗するように、ジョアンナも絞り出すように高音を響かせます。

 再生時間1:35あたりからの、本人の声を何重にもオーバーダビングしたコーラスも圧巻。シューゲイザーで、エフェクトを深くかけたギター・サウンドを「音の壁」と表現することがありますが、ここでは人の声が音の壁のように立ち現れます。

 アルバム全体を通して聴くと、あらためてジョアンナの表現力の豊かさを実感します。同時に、ハープという楽器も、様々な音色を出せる奥の深い楽器なのだな、とも思います。

 ジョアンナ・ニューサムは、2作目の『Ys』をとてもオススメしたいのですが、デビューアルバムである本作『The Milk-Eyed Mender』もなかなかの良盤です。

 





Joanna Newsom “Ys” / ジョアンナ・ニューサム『イース』


Joanna Newsom “Ys”

ジョアンナ・ニューサム 『イース』
発売: 2006年11月6日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Van Dyke Parks (ヴァン・ダイク・パークス)

 カリフォルニア州ネバダシティ出身のハープ奏者でありシンガーソングライター、ジョアンナ・ニューサムの2ndアルバム。タイトルは「ワイエス」ではなく、「イース」と読みます。

 プロデュースとオーケストラのアレンジをヴァン・ダイク・パークス、ミックスをジム・オルーク、レコーディング・エンジニアをスティーヴ・アルビニが担当する、この手のインディー好きにはたまらない豪華な布陣。

 本作には、30人を超えるオーケストラが参加しており、非常に立体的かつ厚いサウンドを響かせています。このうち20人以上はバイオリン等のストリングス隊です。

 オーケストラ以外の楽器も、ジョアンナ・ニューサム自身が奏でるハープを筆頭に、バンジョーやアコーディオンなどアコースティック楽器がほとんど。また、マリンバとパーカッションは入っていますが、ドラムセットは使用されていません。

 これは凄いアルバムです。ロックやポップスでストリングスを導入すると、基本的には楽譜に記されたとおりのリズムで旋律を演奏し、いわゆるクラシックのような雰囲気がプラスされます。

 しかし、本作ではヴァイオリンやヴィオラが、完全なフリーフォームで弾いているのかと思わせるぐらい、圧倒的なグルーヴ感と躍動感を響かせます。しかも、前述したとおりストリングス隊は20人を超える人数。その多数のストリングスが有機的に絡み合い、いきいきと生命力あふれるアンサンブルを繰り広げます。

 さらに、ジョアンナ・ニューサムの独特のクセのある、チャイルディッシュな声も唯一無二。童話の世界か、壮大な神話の世界に迷い込んだのかと思うぐらい、メルヘンチックで幻想的な音楽が展開される作品です。

 1曲目の「Emily」から、12分を超える大曲です。ジョアンナのハープの弾き語りから始まり、徐々に楽器が増加。再生時間2分を過ぎる頃には、立体的かつ躍動感あふれる音楽が構成されます。再生時間2:33あたりからの短い間奏の、流れるように盛り上がっていくバイオリンも凄い。

 前述したとおり、このアルバムではドラムが使われていません。しかし、まるでバンド全体が一体の生き物であるかのごとく、呼吸をし鼓動を打つように音楽全体が躍動するため、ビートが足りないという感覚は全くありません。生楽器のオーガニックな音色を用いて、スケールの大きなアンサンブルが展開される1曲です。

 2曲目の「Monkey & Bear」は、1曲目「Emily」とは雰囲気が変わって、童話の世界に迷い込んだかのような、かわいらしい1曲。しかし、かわいいだけではなく、異世界の得体の知れなさも内包した雰囲気があります。

 圧倒的なボリュームでストリングスが迫り来る「Emily」とは違い、ハープが中心に据えられ、それを取り囲むようにトランペットやバイオリンが彩りをプラスします。

 3曲目の「Sawdust & Diamonds」は、ハープの弾き語り。自ずとジョアンナの声とメロディーが前景化されます。9分を超える曲ですが、まるで口から自然と音楽が流れ出るかのように、ハープと声のみで疾走感とダイナミズムを生み出す展開は圧巻。

 4曲目「Only Skin」。イントロから、泉から音楽が湧き出てくるかのように、オーガニックでみずみずしいサウンドが流れ出します。ストリングスとハープが立体的に絡み合うアンサンブルは、高度なコミュニケーションを楽しんでいるかのよう。再生時間7:35あたりからの、巧みに緩急をつけながら前進していく展開にもワクワクします。

 5曲目の「Cosmia」は、独特のハリのある優しいサウンドのハープと、緊張感を演出するようなストリングスが対比的な1曲。ジョアンナのボーカルも、起伏が大きくエモーショナル。このアルバムの中では最も短い曲(それでも7分15秒)ですが、展開が多く、物語を見ているかのような感覚になります。

 5曲収録で、およそ55分。長い曲が多いですが、冗長な印象はなく、この世界観を表現するなら、これぐらいの時間は必要だよね、と思う曲ばかり揃っています。

 前述したとおり、大量のストリングス隊が参加していますが、クラシカルな雰囲気とは異質な、オーガニックで生命力あふれる、全く新しいオーケストラのサウンドが展開されていると思います。

 本当に素晴らしい作品ですし、あまり似ている音楽が無い、という意味でもオススメしたい1枚です。

 





Bright Eyes “Cassadaga” / ブライト・アイズ『カッサダーガ』


Bright Eyes “Cassadaga”

ブライト・アイズ 『カッサダーガ』
発売: 2007年4月10日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 シンガーソングライターのコナー・オバーストを中心に結成された、ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ブライト・アイズの7枚目のアルバムです。

 タイトルの「カッサダーガ」とは、フロリダ州内にある非法人地域の地名。スピリチュアリズムの支持者が多く暮らし、「Psychic Capital of the World(世界の超能力者の首都)」とも呼ばれるらしい。

 ブライト・アイズというと、ボブ・ディランやニール・ヤングが引き合いに出されることもあるように、歌を中心に据えたフォーキーなサウンドを持つバンド、というイメージが一般的です。

 同時に、懐古主義には陥らず、現代的なセンスも併せ持ったバンド。本作でも、フォークやカントリーなどのルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、様々な楽器を導入し、カラフルで躍動感あふれるサウンドを響かせています。

 1曲目の「Clairaudients (Kill Or Be Killed)」は、イントロからスポークン・ワードと、ぶつ切りになった音の断片や持続音が空間を埋めつくす、アヴァンギャルドな音像。およそカントリーからは遠い、実験音楽のようなサウンドが続きますが、再生時間2分を過ぎたところで、アコースティック・ギターとボーカルが入ってくると、明確なフォームを持った音楽が進行していきます。

 しかし、奥の方では電子的な持続音や、様々な楽器の音が鳴っており、音響派のような雰囲気も漂います。徐々に楽器の種類が増え、種々のサウンドが多層的に重なる、壮大な展開。再生時間4:13あたりからは、カントリー系のオーガニックな音で作りあげるオーケストラとでもいった聴感。

 2曲目「Four Winds」では、イントロからバイオリンが大活躍。ギターやオルガンやマンドリンらしき音も聞こえ、サウンドもアンサンブルも、色彩豊かでゴージャス。

 4曲目「Hot Knives」は、ざらついた質感のギターに、エフェクト処理されたボーカル、立体的でパワフルなドラム、アンサンブルを包みこむストリングス。それら全てが有機的にアンサンブルを編み上げる躍動感あふれる1曲。カントリーを下敷きに、オルタナティヴ色の濃いアレンジとサウンドです。

 11曲目の「Coat Check Dream Song」は、ドラムとパーカッションが、立体的にリズムを組み上げるポリリズミックな1曲。トータスのジョン・マッケンタイアが、パーカッションで参加しています。ドラムとパーカッション以外の楽器も、有機的に絡み合ってグルーヴしていて、本当にすばらしいアンサンブル。個人的に大好きな曲です。

 ナチュラルな生楽器のサウンドと、オルタナ的なジャンクな耳ざわり、エレクトロニカ的な音響が、バランス良く融合したアルバムだと思います。懐古主義や過去のジャンルの焼き直しではなく、わざとらしく実験性を見せつけるでもない、絶妙のバランス。

 ルーツ・ミュージックの地に足がついた魅力と、アメリカらしい革新性と実験性が、ポップなかたちで結実した名盤です!

 





Bright Eyes “I’m Wide Awake, It’s Morning” / ブライト・アイズ『アイム・ワイド・アウェイク・イッツ・モーニング』


Bright Eyes “I’m Wide Awake, It’s Morning”

ブライト・アイズ 『アイム・ワイド・アウェイク・イッツ・モーニング』
発売: 2005年1月25日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 シンガーソングライターのコナー・オバーストを中心に結成された、ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ブライト・アイズの2005年にリリースされたアルバム。本作『I’m Wide Awake, It’s Morning』と、『Digital Ash In A Digital Urn』は同日に2枚同時リリースされました。

 アコースティック・ギターを主軸に、フォークやカントリーを感じさせるサウンド。しかし、アレンジやサウンドにはインディーロックの香りも漂い、回顧主義なだけではない、現代的な雰囲気も持ち合わせたアルバムです。

 アルバム・タイトルのとおり、朝になって、自分も含め自然や動物たちが活動を始めるような、いきいきとした躍動感に溢れた作品。ボーカルの若さと渋さのバランスが絶妙な、わずかに枯れたエモーショナルな歌唱も良いです。

 1曲目「At The Bottom Of Everything」は、1分ほどのスポークン・ワード…というよりセリフに続いて、アコースティック・ギターがシャカシャカとカッティングを始め、曲がスタート。セリフに続いてからのスタートのためか、楽器の音もボーカルの声とメロディーも、非常に音楽的にいきいきと響きます。

 2曲目の「We Are Nowhere And It’s Now」は、朝の散歩のように、穏やかな1曲。優しく絞り出すようなボーカリゼーションと、緩やかにグルーヴするバンドの相性も抜群。ホーンの導入や、再生時間2:10あたりからのギターのサウンドなど、音楽の幅の広さも感じさせます。随所に挟まれるギターのフレーズがアクセント。

 7曲目「Another Travelin’ Song」は、ノリノリにグルーヴしながら駆け抜けていく、カントリー調の1曲。リズムを下支えするベースのリズムも、気持ちよく響きます。ロック的なノリではなく、カントリー・ウェスタン風のノリ。ギターのフレーズもカントリー色が濃いのに、全体はカントリーくさくなり過ぎないのは、サウンド・プロダクションとボーカルの影響かなと思います。

 アルバムをとおして、生楽器のオーガニックなサウンドを用いた、フォーキーなサウンドが響きます。ブライト・アイズのアルバムのなかでも、カントリー色の濃い1枚。

 他のアルバムには、もっと楽器の音色やアレンジに、オルタナティヴな要素が強く出ているものもありますが、本作はオーガニックなサウンドを重視し、結果として歌が前景化された1作になっているんじゃないかと思います。