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Aloha “Home Acres” / アロハ『ホーム・エイカーズ』


Aloha “Home Acres”

アロハ 『ホーム・エイカーズ』
発売: 2010年3月9日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 オハイオ州出身のバンド、アロハの通算5枚目のアルバム。アロハの音楽は、エモを下敷きにしながら、ポストロック的な実験性やヴィブラフォンの導入など、サウンドの面でも音楽性の面でも、レンジが広いところが魅力です。

 今作『Home Acres』は、テンポをただ上げるのではなく、アンサンブルによって疾走感やスリルを演出する手法で、緻密に組み上げられた演奏が展開されます。また、硬質なサウンド・プロダクションも非常にかっこいいです。音質はハードなのに、アンサンブルは知性を感じるほどに緻密。そして、ボーカリゼーションとメロディーはエモい。『Home Acres』はそんな作品です。

 1曲目「Building A Fire」は、淡々とリズムを刻むギターと、その上に被さるように入ってくるキーボードが、溶け合わずに解離したまま、ポリリズムのように進行します。異なるふたつのリズムとサウンドが、溶け合うのではなく、せめぎ合うようにひとつのリズムを形成していく(ように聞こえる)のが、本当にスリリング。

 3曲目の「Microviolence」は、アコースティック・ギターに、立体的なドラムが絡む、グルーヴ感あふれる1曲。ヴィブラフォンも大活躍。ドラムの硬い音質と、アコギやヴィブラフォンの柔らかい音質の楽器とのバランスも、とても良いです。

 4曲目「Searchlight」は、イントロのギターが、サーチライトがなにかを追うように、広がっていくように感じました。もちろん、曲名の「Searchlight」からの連想なのですが。でも、実際にこの曲のギターの独特の音像とハーモニーは、暗闇を揺れながら動く光のようなイメージがあります。

 7曲目の「Cold Storage」。リズムも音質も鋭いイントロのドラムに対して、ギターとキーボードは開放的なサウンドとフレーズ。1曲の中でのコントラストの演出も、このアルバムの肝です。

 アルバムを通して聴いて、あらためて感じるのは、サウンド・プロダクションの巧妙さですね。エレキ・ギターやドラムは、かなり硬質なエッジの立った音でレコーディングされているのに、アコースティック・ギターやヴィブラフォンなど暖かみのある音質の楽器と、違和感なく融合しています。違和感なくというより、むしろお互いが引き立てあうぐらいに、絶妙なバランスです。

 あとは、最初にも書きましたが、とにかくバンドのアンサンブルが素晴らしくて、本当にうまいバンドだな、と思います。個人的に、歌しか聴くところがない、演奏にクリエイティヴィティが感じられないバンドは苦手なんですけど、アロハはとにかく音楽に仕掛けが多くて、聴いていて飽きないです。

 高速のテンポに頼らず、バンド全体で疾走感や緊張感を演出し、表情豊かなサウンドを聞かせる本作『Home Acres』。歌メロも良く、間口の広い作品ですので、ぜひチェックしてみてください!

 





Aloha “Here Comes Everyone” / アロハ『ヒア・カムズ・エブリワン』


Aloha “Here Comes Everyone”

アロハ 『ヒア・カムズ・エブリワン』
発売: 2004年10月26日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 オハイオ州出身のバンド、アロハの2004年発売の3rdアルバムです。アロハの音楽は、みずみずしく疾走感あふれるエモい要素と、ただ直線的に突っ走るだけではない実験性が、バランスよく融合しているところが魅力。

 今作『Here Comes Everyone』も、エモコアらしい若々しい疾走感と、ポストロックと呼べる実験的なアプローチが、絶妙なバランスで共存しています。

 アルバムの始まりを告げる1曲目「All The Wars」は、1曲目らしく、前のめりになった硬質なサウンドのドラムと、そのドラムに絡まるように入ってくるギターが推進力となった、ロックな曲。ボーカルの声とギターのサウンドがみずみずしく、サウンド的にはエモコア色が濃いのですが、前述したようにドラムのリズムがやや複雑で、非常に聴きごたえがあります。

 2曲目の「You’ve Escaped」は、エモさ全開の1曲目「All The Wars」とは打って変わって、アコースティック・ギターとベースのみのイントロ。さらにピアノが入ってきて、1曲目とのサウンドの違いが、ますます際立ちます。再生時間1:18あたりからはヴィブラフォンらしき音が入ってきて、グルーヴ感が増していく展開。最初の2曲だけ聴いても、アロハの音楽性の懐の深さが分かると思います。

 3曲目「Summer Away」でも、大体的にヴィブラフォンを使用。しかも、隠し味程度に使う、というレベルではなくアンサンブルの中核を担っています。ヴィブラフォンが入っていなかったら、もっとシンプルなパンク色の濃い曲になっていたはず。ヴィブラフォンの柔らかで、独特の倍音を持つサウンドのおかげで、音楽の奥行きが格段に広がっています。

 9曲目の「Thermostat」は、多くの楽器が有機的に絡み合う、壮大なアンサンブルの1曲。しかし、地に足がついた感覚で、無理にスケールを広げた印象は全くありません。

 12曲目の「Goodbye To The Factory」は、巨大な動物が行進するような、地響きまで聞こえてきそうな塊感のあるアレンジ。本当にイントロが、あり得ないほどかっこいいです。

 独特の若さとツヤのあるボーカルの声と、エモーショナルなメロディーが、純粋なエモ・バンドとしても十分な魅力を持っています。しかし、それだけではなく、独特のグルーヴを生むドラムのリズム、柔らかなサウンドのヴィブラフォンの活躍、丁寧に組み上げたアンサンブルなど、直線的にエモーションを表出するだけではない、奥深さを持ったアルバムです。

 トータスなど、インスト主体のバンドがヴィブラフォンを導入することは多いですが、アロハのように歌を中心にしたバンドがヴィブラフォンを導入し、しかも曲によっては主導的なパートを担うというのは、珍しいと思います。珍しいだけじゃなく、それがちゃんと音楽の魅力を高めているところも凄い!

 





American Football “American Football (2)” / アメリカン・フットボール『アメリカン・フットボール 2』(2016)


American Football “American Football”

アメリカン・フットボール『アメリカン・フットボール』
発売: 2016年10月21日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 マイク・キンセラ(Mike Kinsella)を中心に1997年に結成され、1枚のEPと1枚のアルバムのみを残し、2000年に解散してしまったアメリカン・フットボール。そのアメリカン・フットボールが2014年に再結成し、2016年にリリースされた2ndアルバムが今作『American Football』です。

 前作もセルフタイトルでしたが、今作も同じくバンド名をそのままタイトルにしています。前作と区別するために、今作を『American Football (2)』『American Football LP2』『American Football 2016』などと表記することもあるようです。

 17年のブランクがあるものの、かつての緻密なアンサンブルと、流れるような美しいメロディーは健在。アメリカン・フットボールの魅力は、静寂と轟音でわかりやすくコントラストを演出するのではなくて、クリーン・トーンを基本としたギターを中心に、丁寧にアンサンブルを組み上げているところだと思います。ただ、僕は静寂から轟音がドッシャーと押し寄せるようなバンドも、大好きなんですけれども(笑)

 また、彼らの特徴として、歌モノのバンドとしても優れているのに、同時にボーカルレスのインスト・バンドとしても聴ける演奏のクオリティを備えている点も挙げられるでしょう。明確な形式を持っているようでありながら、実に自由で型にハマらない演奏が展開されます。

 1曲目の「Where Are We Now?」から、早速アメリカン・フットボールらしさが溢れています。透明感のある2本のギターが織物のように絡み合うイントロ。再生時間1:20あたりでベースとドラムが加わり、1:44あたりからドラムがリズムを細かく刻み始めるところなど、演奏の組み合わせでシフトを徐々に上げていくような展開が、たまらなくかっこいいです。

 2曲目「My Instincts Are The Enemy」は、時折ハーモニクスを挟んだギターのサウンドが心地いい1曲。3曲目の「Home Is Where The Haunt Is」では、アコースティック・ギターが使用され、ギターの単音が絡み合い密集して、音のタペストリーを形成するような感覚に陥ります。

 4曲目の「Born To Lose」は、バンド全体が波打つように、ゆったりと大きくグルーヴしていく1曲。6曲目「Give Me The Gun」は、冒頭は拍子がつかみにくく、つまずきそうになりますが、徐々に曲のペースに取り込まれていきます。変拍子が耳と体に馴染んでくる感覚が、心地いい1曲。

 8曲目「Desire Gets In The Way」は、バンドがひと塊りになって、前のめりに迫ってくるようなイントロ。画一的なリフとは、違った迫力のあるアレンジメントです。

 アメリカン・フットボールの音楽はなかなか言語化が難しいのですが、前述したように自由で型にハマらず、刺激的なアンサンブルが展開されるところが魅力です。美しいメロディーがあり、確固としたフォームに則ったポップ・ミュージックのような顔をしながら、意外性のあるアレンジや音が飛び出したり、予期せぬ方向へ展開したり、ということがしばしばあります。

 決して難解な作品ではありませんから、気軽に聴いてみてください。最初は歌モノとして聴いて、徐々にアンサンブルのなかの好きなポイントを探していく、という楽しみ方もできる作品です。

 





BLK JKS “After Robots” / ブラック・ジャックス『アフター・ロボッツ』


BLK JKS “After Robots”

ブラック・ジャックス 『アフター・ロボッツ』
発売: 2009年9月8日
レーベル: Secretly Canadian (シークレットリー・カナディアン)
プロデュース: Brandon Curtis (ブランドン・カーティス)

 南アフリカ共和国ヨハネスブルグ出身の4ピース・バンド、ブラック・ジャックスが、インディアナ州ブルーミントンのレーベルSecretly Canadianより発売したアルバムです。今作『After Robots』以外にも、2枚のEPをSecretly Canadianからリリースしています。バンド名は「BLK JKS」と書いて、「ブラック・ジャックス」と読みます。

 南アフリカの音楽事情についても、アフリカ音楽全般についても、語れるほどの知識を持ち合わせておりませんが、これは凄いアルバムです。言語化すると陳腐に響いてしまいますが、アフリカ的リズム感覚を、4ピースのロック・バンドのフォーマットに、鋳造した音楽とでも言ったらいいでしょうか。4人組のロック・バンドですが、レコーディングにはホーンも参加していて、サウンドも一般的なインディー・ロックから比べると、ちょっと異質です。

 1曲目は「Molalatladi」。いくつものリズムの型が見え隠れする、ポリリズミックなイントロ。アフリカのポリリズムを、ロックの文法で再構築したような1曲です。ロック的なダイナミズムを持ちながら、同時にアフリカ的な複雑なリズムが体を揺らします。「複雑な」というのは、西洋のポップ・ミュージック的な価値観からすると、という意味ですが。

 ある特定のリズムにノリながら聴いていると、さらに他のリズムが感じられて、そのふたつが混じり合って…という風に、複数のリズムが多層的に次々と姿をあらわします。前述したようにホーン・セクションも導入されており、トライバルで躍動感あふれるドラムのリズムと相まって、再生時間0:59あたりからのサビのような、ブリッジのような部分では、祝祭的な雰囲気すら漂います。

 現地語と思われる「Molalatladi」と何度も繰り返される歌詞も、当然ながら英語とはリズムとサウンドが異なり、非常に耳に引っかかるリズミックな響きを持っています。やっぱり言語の違いは、音楽の質も変えるな、と感じる曲でもあります。

 2曲目の「Banna Ba Modimo」は、歌のメロディーのリズムと、バックのリズムが噛み合うような、絡み合うような、絶妙なバランスで進行します。この曲は、リズムの緩急のつけ方が大きく、加速と減速を繰り返しながら、リズムがスリリングに切り替わっていく1曲です。

 5曲目「Taxidermy」は、波の満ち引きのように押し寄せるギターとベースに、細かく正確にリズムを刻み続けるドラムのグルーヴが気持ちいい1曲。再生時間1:30あたりから、リズムを見失いそうになるポイントもあります。

 1曲目の「Molalatladi」に集約されているのですが、アフリカのリズムとアメリカのポップ・ミュージックが融合した1作です。ホーンも入っていますが、ギターを中心としたロック・バンドのフォーマットで、トライバルなリズムを取り込みながら、コンパクトなポップ・ミュージックに仕立てるセンスは本当に見事!

 『After Robots』のような作品に出会うと、南アフリカに限らずアフリカ諸国のポップ・ミュージック・シーンを掘れば、多くの個性的なバンドがいるのでは、と興味がわいてきます。

 





Edith Frost “Wonder Wonder” / イーディス・フロスト『ワンダー・ワンダー』


Edith Frost “Wonder Wonder”

イーディス・フロスト 『ワンダー・ワンダー』
発売: 2001年6月17日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Rian Murphy (リアン・マーフィー)
エンジニア: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの3rdアルバムです。

 シカゴの名門ドラッグ・シティ(Drag City)からのリリース、さらにレコーディング・エンジニアをスティーヴ・アルビニが担当していることからも、悪いはずがないと聴く前から期待が高まってしまう1枚。結論から言うと期待どおり、いやいや期待以上で、多くの人にオススメしたい1枚です。

 ビブラートなどの無駄な装飾なく、雰囲気たっぷりのイーディスの声。実験性やジャンクさも内包する多彩なアレンジメントとサウンド・プロダクションも、楽曲の魅力を増幅させています。その音楽性から、オルタナ・カントリー(オルタナティヴ・カントリー)の文脈で扱われることもある作品です。

 「オーガニック」という言葉がありますが、今作もまさにオーガニックなアルバムであると評したいです。すなわち、混じり気なしの音素材によって、丁寧に作り上げられた音楽、と言える1枚です。

 特に聴いていただきたいのは、2曲目「Cars And Parties」。バンド全体がトイピアノのような、かわいらしくカラフルな音色のイントロ。オモチャの太鼓のようなサウンドとリズムのドラム。チープかつ可愛いイントロと、コーラスに入ってからの壮大なサウンドとの対比も素晴らしく、本当に名曲。

 そんな、カラフルで楽しいサウンドと、低めのイーディスの声とのバランスも絶妙。「おもちゃ箱をひっくり返したような」という、もはやクリシェ化した形容の仕方がありますけれども、この曲はまさにそれ!です。

 3曲目「Who」は、アコースティック・ギターとまわりの電子音との融合が気持ちいい1曲。リズムとアンサンブルが楽しい2曲目と比べて、サウンド自体が楽しい1曲。ときおり打ち鳴らされる「バスン」という感じのパワフルなバスドラも、アクセントになっています。

 アルバムのタイトルにもなっている4曲目「Wonder Wonder」。この曲もイントロから色とりどりのサウンドが鳴っていて、楽しい1曲。牧歌的な雰囲気というべきなのか、僕はこの曲を聴くと牛がのんびりとたくさんいる牧場の風景が浮かんできます。

 8曲目の「Further」は、臨場感あるサウンドの様々な生楽器が、流れるように有機的に絡み合うアンサンブル。ピアノもストリングスもドラムも、まず音がいいです。

 実にドラッグ・シティらしい、インディーらしい名盤。カントリーの要素もありながら、実験性もポップに昇華されていて、こういう音楽が聴けるからインディーズを掘るのは止められない!と思わせてくれる1枚。日本での知名度は高くありませんが、心からおすすめしたい1作です。