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Bishop Allen “Grrr…” / ビショップ・アレン『Grrr…』


Bishop Allen “Grrr…”

ビショップ・アレン 『Grrr…』
発売: 2009年3月10日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 ニューヨーク市ブルックリン出身のバンド、ビショップ・アレンの3rdアルバムです。

 日本での知名度はいまいちですが、僕はこのバンドがめちゃくちゃ好きなんです。彼らの魅力を一言であらわすと、楽曲とサウンド・プロダクションはポップでカラフル、アンサンブルは立体的で躍動感とグルーヴ感もある、本当に聴きどころばかりの素晴らしい音楽をクリエイトし続けています。(一言で終わらなかった…)

 本作『Grrr…』も、キュートでカラフルな極上のポップスでありながら、アレンジやサウンドには実験的な要素もあり、素晴らしいバランス感覚で作られたアルバムです。

 「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現がありますが、本作はまさにおもちゃ箱をひっくり返したように、煩雑かつカラフルで、子供のおもちゃ箱だと思っていたら、ガチなモデルガンとか鉄道模型も出てきた!みたいなアルバムです。

 1曲目「Dimmer」では、耳元で歌っているかのような音のボーカルに、次々と楽器が加わり、立体的でグルーヴ感あふれるアンサンブルが展開されます。再生時間1:20からの、バンド全体で前進していくような、各楽器が絡み合い、追い越し合うようなリズム・デザインもたまらない。再生時間1:58あたりからの展開も、コントラストを演出していて、楽曲の世界観を著しく広げています。

 2曲目「The Lion & The Teacup」は、イントロから徐々に楽器が増加し、それに比例してリズムが立体的になっていく展開が心地よい1曲。

 5曲目「Oklahoma」は、ギターポップのようなカラフルで甘い耳ざわりのサウンド。ですが、アンサンブルはちょっと複雑で、歌メロ以外の部分にも聴きごたえがあります。このあたりのバランス感覚とポップ・センスには脱帽。

 9曲目の「Shanghaied」は、本作のベスト・トラックです。わずか2分30秒の間に、多種多様な楽器が使われ、サウンドも色彩豊かなのですが、ムダな音がひとつも無い。フックだらけの音楽。

 イントロのドタバタした感じのドラムもいいし、アコギの音とリズムもいい。そのあとに入ってくる「ラーララー…」というコーラスも、その裏で鳴っているマレット系の打楽器の音も、有機的にアンサンブルを構成していて、音楽がいきいきと躍動しています。

 この曲は、エレキ・ギターの音も最高。アンプ直で音作りしたような、シンプルなサウンドですが、ところどころに入ってくるフレーズがアクセントになっていて、耳に残ります。再生時間1;50あたりでは「ジャーン」って弾いただけなのに、この上なくテンションが上がります。

 アルバムを通して聴いても、本当にポップで、奥が深く、長く付き合える素晴らしい1枚だと思います。心からオススメしたい作品です。

 ピッチフォークのレビューでは、10点満点で3.5という低評価。ですが、僕の評価だと、9.2ぐらいはつけたい名盤です!

 残念ながら、このアルバムは今のところデジタル配信されていないようです…。ビショップ・アレンの他のアルバムは配信されてるのに…。





Dirty Projectors “Rise Above” / ダーティー・プロジェクターズ『ライズ・アバヴ』


Dirty Projectors “Rise Above”

ダーティー・プロジェクターズ 『ライズ・アバヴ』
発売: 2007年9月11日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)
プロデュース: Chris Taylor (クリス・テイラー)

 ニューヨーク市ブルックリンを拠点に活動するバンド、ダーティー・プロジェクターズの5枚目のアルバムです。

 本作は、ハードコア・パンクのレジェンド、ブラック・フラッグ(Black Flag)のアルバム『Damaged』を、バンドのリーダーであるデイヴィッド・ロングストレス(David Longstreth)が再解釈する、というコンセプト・アルバム。

 デイヴィッドは15年間『Damaged』を聴いておらず、記憶だけを頼りに解釈を試みています。本作のタイトル『Rise Above』は、ブラック・フラッグ『Damaged』の1曲目のトラック・タイトルです。

 そんな情報を抜きにして音楽のみを評価しても、カラフルかつエキセントリック、実験性とポップセンスが高度に融合したアルバムになっています。

 「おもちゃ箱をひっくり返したような」と形容することがありますが、このアルバムはまさにそれ。次々と楽しく奇妙な音が飛び出してきます。

 1曲目「What I See」から、早速おもちゃのようなチープでかわいらしいサウンド。バンド全体の音が、トイピアノのような質感をもっています。再生時間1:35からのジャンクでノイジーな展開も最高。

 2曲目の「No More」は、ゆったりしたドラムのイントロから、隙間の多いアンサンブルのなかをボーカルが漂う1曲。ボーカルはローファイな響きもありながらエモーショナル。

 4曲目の「Six Pack」は、イントロのヴァイオリンが印象的。加速と減速を繰り返し、展開がめまぐるしい1曲。しかし難解な印象はなく、ポップでかわいい曲です。こういうセンスが抜群。

 サイケデリックと呼ぶには親しみやすい、ローファイやジャンクと呼ぶにはカラフル過ぎる、極上のポップアルバム。サウンド的には、クリーントーンのギターが多用され、ギターポップに近い耳ざわりですが、アレンジはより実験的。

 前述したとおり、ブラック・フラッグのアルバムの再現ということになっていますが、原曲と比較してどうこうというより、このアルバム単体で楽しめる作品です。

 ブラック・フラッグがきっかけや動機付けとして機能したのは事実なんでしょうが、とにかくこのバンドのポップ・センスが浮き彫りになる1枚。デイヴィッド・ロングストレスは、本当に天才!

 こちらの作品は、現在のところデジタル配信はされていないようです…。





The Dodos “Carrier” / ザ・ドードース『キャリアー』


The Dodos “Carrier”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『キャリアー』
発売: 2013年8月27日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)
プロデュース: Jay Pellicci (ジェイ・ペリッチ)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの通算5枚目のスタジオ・アルバム。2ndアルバム『Visiter』から4thアルバム『No Color』まではニューヨークのレーベルFrenchkissからのリリースでしたが、本作からイリノイ州シャンペーンと、カリフォルニア州サンフランシスコに居を構えるPolyvinylへ移籍しています。

 また、本作ではバンド名の表記から「The」が外され、「Dodos」と表記されています。このあとの6作目『Individ』では、「The Dodos」標記へ戻っています。

 ドードーズの特徴といえば、アコースティック楽器をアンサンブルの中心に据えながら、色彩豊かなサウンドと、パワフルでいきいきとした躍動感を響かせるところです。立体的で、空間の広さを感じさせる、ドラムのサウンドも魅力。

 今作『Carrier』は、パワフルで立体的なドラムはやや抑え目に、アンサンブルでコントラストとグルーヴを丁寧に組み上げた印象の1作。また、今まではアコースティック・ギターがサウンドの中核でしたが、今作ではエレキ・ギターが多用されているのも特徴です。

 1曲目は「Transformer」は、リズムの異なる2本のギターによるイントロから、徐々に音楽が躍動していきます。再生時間0:49あたり、再生時間1:40あたりなど、ドラムがシフトの切り替えを担い、バンド全体もドラムと共にコントラストを演出するアレンジも秀逸。

 4曲目の「Stranger」は、4分間の曲なのに、展開が実に多彩な1曲。細かくリズムを刻むドラムとギターが、音数の多さで壁を作るようなイントロ。再生時間1:49あたりからの、立ちはだかる壁のような厚みのあるディストーション・サウンド。さらに再生時間2:18あたりから、手数を増やし、一気にシフトを上げるドラム。そのドラムが先導者となって、バンド全体が躍動を始める展開も、鳥肌ものです。

 10曲目の「Death」は、タイトルのとおり、寂しけでエレクトロニカのような音響的なイントロ。空間系のエフェクターの深くかかった、幻想的なサウンドのギターと、穏やかに漂うようなボーカルが、アンビエントな雰囲気を醸し出します。ドードーズには、めずらしい音像を持った1曲。

 いきいきとした躍動感と、アンサンブルの巧みさは残しつつ、サウンド・プロダクションの広がりを感じさせる1作。このアルバムも、非常にクオリティが高いのは間違いないのですが、僕個人の好みだと、1枚目から4枚目の、カントリー色の強いサウンドながら、パワフルな躍動感を響かせていた作品の方が好きです。

 このアルバムは2018年3月現在、残念ながらデジタル配信はされていないようです。





Cap’n Jazz “Analphabetapolothology” / キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ)『アナルファベータポロソロジー』


Cap’n Jazz “Analphabetapolothology”

キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ) 『アナルファベータポロソロジー』
発売: 1998年1月8日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)

 ティムとマイクのキンセラ兄弟をはじめ、後にJoan Of ArcやThe Promise Ring、 Make Believe、American Footballといったバンドでも活動するメンバーたちが集った伝説的なバンド、キャップン・ジャズ。そんな彼らのほぼ全ての音源を網羅した2枚組のアンソロジー盤が、本作『Analphabetapolothology』です。

 発売されたのは1998年ですが、収録されている楽曲がレコーディングされたのは1993年から1995年の間。1993年というと、ティムは19歳、マイクは16歳(!)です。

 そんな情報を抜きにしても、みずみずしい感性と、若さがはじける疾走感に溢れたエモ全開の1枚。ですが、直線的なスピード感のみというわけではなく、随所にポストロック的な複雑なアプローチや技巧も垣間見えます。

 ただ、やはりこのバンドが全面に押し出しているのは、みずみずしい感性とエヴァーグリーンなメロディーであるのも事実。そして、なんといっても、ところどころ音程のあやしい部分もあるボーカルの声がエモい。

 a-haの「Take On Me」のカバー、『ビバリーヒルズ高校白書』(Beverly Hills, 90210)のテーマ曲「Theme To ‘90210’」も収録されています。

 前述したとおりアンソロジー盤であるので、通常のアルバムのように曲順通りにどうこうという作品ではないのですが、Disc1の1曲目「Little League」から、バンド全体で駆け抜けていくようなスピード感あふれる曲で始まります。

 完全に塊になって進むというより、それぞれがもつれ合いながら走るようなラフさのある1曲。再生時間1:45あたりから、一旦テンションを落として休憩するようなアレンジもコントラストを演出していて、勢いだけではないことを感じさせます。

 Disc1の2曲目「Oh Messy Life」では、絡み合うような、もつれるような2本のクリーントーン・ギターのイントロから、爆音のサビへと展開。6曲目の「Yes, I Am Talking To You」は、轟音と静寂が目まぐるしく循環する、ダイナミズムの大きさとコントラストが鮮烈な1曲。

 前述したとおり13曲目にはa-haのカバー「Take On Me」が収録。有名な曲なので、原曲との差異を認識しやすいと思いますが、80年代の空気満載のあの曲が、エモコアに昇華されています。再生時間1:45あたりから入ってくるピアノもアクセント。

 2枚組で34曲収録というボリュームですが、通しで聴いてみると、リズムには直線的なだけではないフックがあり、サウンド面でも、暴力的な歪みのギターと、はずむようなクリーントーンのギターを適材適所で使いわけるなど、音楽的なアイデアの豊富さと柔軟さを感じさせます。

 だけど、やっぱりこのバンドの一番の聴きどころは、若さが弾けるみずみずしい演奏と、ボーカリゼーションです。極上のエモ作品としても、その後のシカゴ・シーンの源流のひとつとしても、価値ある作品だと思います。

 ただ、このアルバム2018年3月現在の時点では、残念ながらデジタル配信はされていないようです。