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Town & Country “It All Has To Do With It” / タウン・アンド・カントリー 『イット・オール・ハズ・トゥ・ドゥ・ウィズ・イット』


Town & Country (Town And Country) “It All Has To Do With It”

タウン・アンド・カントリー 『イット・オール・ハズ・トゥ・ドゥ・ウィズ・イット』
発売: 2000年10月3日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴを拠点に活動していた4人組バンド、タウン・アンド・カントリーの2ndアルバム。1stアルバム『Town & Country』は、シカゴのボックスメディア(BOXmedia)というレーベルからの発売ですが、2ndアルバムの5ヶ月前に発売されたEP『Decoration Day』以降は、同じくシカゴの名門レーベル、スリル・ジョッキーからリリースされています。

 ボーカル無し、4人のメンバーがアコースティック楽器を用いて、ミニマルで暖かみのあるサウンドを構築する作品です。メンバーと主な担当楽器は、ギターとトランペットのベン・ヴァイダ(Ben Vida)、コントラバスとピアノのジョシュ・エイブラムス(Josh Abrams)、コントラバスのリズ・ペイン(Liz Payne)、ハーモニウム(リード・オルガン)のジム・ドーリング(Jim Dorling)。

 ドラム不在の編成というところも示唆的ですが、リズムよりも音響重視の音楽を奏でるバンドです。本作も、ハーモニウムの持続音を効果的に用いながら、ゆったりとしたテンポでコントラバスやギターが音を紡ぎ、目の前に風景が広がるようなアンサンブルが展開されます。

 1曲目「Hindenburg」は、音楽が様々な表情を見せるイマジナティヴな1曲。音が空間に滲んでいくような印象的なイントロから、徐々に音数が増え、タペストリーのように音楽が織り込まれていきます。再生時間2:40あたりからのテンポが切り替わる部分など、ところどころ風景が変わるような展開があります。

 2曲目「Hat Versus Hood」は、ハーモニウムの持続音が広がっていくアンビエントなイントロから、少しずつリズムが生まれ、音楽の輪郭がはっきりと現れてくるような展開の1曲。ハーモニウムの持続音の中に、コントラバスとピアノが音を置いていき、音が心地よく厚みを増していきます。

 3曲目「Fine Italian Hand」は、イントロからポツリポツリと音が鳴る、隙間の多いミニマルな1曲。アコースティック楽器を用いているからか、とても穏やかな音像。再生時間2:33あたりからギターが入ってくると、徐々に音が増え、緩やかに躍動感が生まれます。

 4曲目「That Old Feeling」は、イントロからシンセサイザーを使用しているのか、電子ノイズのような耳ざわりの音が響きます。その音に重なるようにコントラバスとギターが入り、絡み合うように、ゆるやかなグルーヴ感が生まれていきます。各楽器の音の運びが変わったり、再生時間8:50あたりからはトランペットが入ってきたりと、基本的にはミニマルな1曲ですが、少しずつ変化しながら進行していく曲です。

 アルバム全体を通して、ミニマルかつフリー・インプロヴィザーションの要素も感じる作品ですが、サウンド・プロダクションが非常に柔らかく穏やかで、敷居の高さはそこまで感じません。正しいかどうかは別にして、人によってはヒーリング・ミュージックとしても聴けるのではないかと思います。

 ちなみに4曲収録の作品ですが、徳間ジャパンから発売されていた日本盤には「Karaoke Part One」「Karaoke Part Two」という2曲のボーナス・トラックが収録されていました。日本用のボーナス・トラックだから「Karaoke」という言葉を使ったんでしょうかね。

 「Karaoke Part One」は、アコースティック・ギターとコントラバスがゆるやかに絡み合い、ハーモニウムが全体を包み込むような、ミニマルな1曲。「Karaoke Part Two」は、前半は高音域の鉄琴のような音と、トランペットの音が溶け合う、ハイに寄ったサウンド。後半はドラムのリムショットのような音や、スティック同士を叩くような音が、小刻みに鳴る、やや実験性の強い曲です。

 





The Album Leaf “In A Safe Place” / アルバム・リーフ『イン・ア・セーフ・プレイス』


The Album Leaf “In A Safe Place”

アルバム・リーフ 『イン・ア・セーフ・プレイス』
発売: 2004年6月22日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jón Þór “Jónsi” Birgisson (ヨン=ソル “ヨンシー” ビルギッソン)

 元トリステザのジミー・ラヴェルによるソロ・プロジェクト、アルバム・リーフの3枚目のアルバムです。

 本作のプロデューサーは、アイスランドのポストロック・バンド、シガー・ロスのヨンシーが務め、レコーディングも彼らのスタジオで実施。シガー・ロスの他のメンバーも、レコーディングに参加しています。

 音響を前景化させるようなアプローチと、ポストロック的なアンサンブルが溶け合った1作だと思います。もう少し具体的に言うと、ひとつひとつこだわった音を使い、丁寧にアンサンブルを作り上げているということ。

 リズムよりも音響とハーモニーを重視した、美しい響きを持ったアルバムです。「ハーモニー」という言葉を使いましたが、和音という意味だけではなく、音の組み合わせのバランスが絶妙で、オーガニックな生楽器の音と、電子音が溶け合い、美しく暖かい音像を作っている、ということです。

 このあたりのバランス感覚は、シガー・ロスからの影響もあるのかもしれません。

 1曲目「Window」は、電子音が時間と空間に、にじみ出て浸透していくような音響的なアプローチの1曲。一般的なポップ・ミュージックと比較すればミニマルな曲ですが、徐々に音が増加し、ストリングスも導入されるなど展開が多く、いつの間にか音楽に没頭してしまいます。

 2曲目の「Thule」は、1曲目「Window」からシームレスにつながっています。ヴェールのように1曲目の持続音が鳴り続けるなか、ドラムが入ってきて、音楽が途端に立体的に響き始めます。

 3曲目「On Your Way」は、ボーカル入り。緩やかにグルーヴしながら進行していく心地よい1曲。ボーカルが入り、歌メロのある曲ですが、特別に歌が前景化される印象はなく、声がまわりの音の一部のように溶け合って響きます。

 7曲目の「Another Day (Revised)」は、ピアノと、テクノ的なビート、エレクトロニカ的な音響が溶け合う1曲。異なるサウンドがレイヤーのように折り重なり、立体的な音像を構成していきます。曲の最後に入っている声にも、なぜだかほっとする。

 8曲目「Streamside」は、アコースティック・ギターが優しく響き、生楽器の音が絡み合いアンサンブルを構成。電子的な要素は控えめに、オーガニックな響きを持った1曲です。

 アルバムによって、大きく音楽性が異なり、音楽的語彙の豊富さを感じさせるアルバム・リーフ。本作は、音響が前景化された面もありながら、生楽器と電子音が有機的に絡み合い、あたたかい音楽を作り上げるアルバム。

 前述したとおり、シガー・ロスのメンバーが全面協力した作品ですが、彼らとの相性も抜群に良いと思いました。

 生楽器はあたたかい、電子音は冷たい、という二元論ではなく、全ての音を公平に扱い、有機的なサウンドを生み出しています。電子音が優しく響く、美しい音像を持った作品です。

 





Dirty Three “Ocean Songs” / ダーティー・スリー『オーシャン・ソングス』


Dirty Three “Ocean Songs”

ダーティー・スリー 『オーシャン・ソングス』
発売: 1998年3月31日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 オーストラリア出身のインスト・バンド、ダーティー・スリーの4枚目のスタジオ・アルバムです。ジャケットのアートワークは、ギター担当のミック・ターナーによるもの。

 シカゴの名門タッチ・アンド・ゴーからのリリース、レコーディング・エンジニアをスティーヴ・アルビニが担当、デイヴィッド・グラブスがピアノとハーモニカで参加。この手のシカゴ系が好きな人には、たまらない布陣になっています。

 オーストラリアを代表するポストロック・バンドとも目されるダーティー・スリー。彼らの特徴はなんと言っても、メンバーにヴァイオリニストを有するところでしょう。ヴァイオリン、ギター、ドラムという基本布陣の3ピースバンドです。

 オーケストラの一部ではなく、3ピースバンドの一員として、ヴァイオリンが入っている例を他に知らないのですが、本作『Ocean Songs』を聴いて、絶妙のバランスの3ピースだと思いました。

 リズムを刻むドラム。時には単音でメロディーを、時にはコード弾きでハーモニーを作り出すギター。そして、アンサンブルの隙間を埋め、全てを包み込むようなヴァイオリン。個性の異なる3つの楽器による、時間と空間の埋め方、そのバランスが絶妙です。

 『Ocean Songs』というアルバム・タイトルに加えて、各トラックにも海にまつわる曲名がつけられ、コンセプト・アルバムのような一貫性を持つ作品でもあります。

 例えば、2曲目「The Restless Waves」では、各楽器の奏でるリズム、そしてバンド全体の躍動が、寄せては返す波を連想させます。

 8曲目の「Black Tide」では、ときに穏やかに、ときに激しく流れる海流のような、フリーフォーム(のように感じられる)な演奏が展開されます。

 9曲目の16分を超える大曲「Deep Waters」、アルバムの最後を飾る10曲目の「Ends Of The Earth」なんて、曲名からどんな演奏が繰り広げられるのか想像しただけで、ワクワクしてきます。

 ただ「バンドにヴァイオリンを入れてみました」という類の音楽ではありません。前述したように、3つの楽器のそれぞれの特徴を生かし、補い合い、溶け合って、有機的なアンサンブルが形成される作品です。

 一般的には「ポストロック」のフォルダに入れられるバンドですが、ロックの先を目指した、非常にオリジナリティのある音を鳴らしていることは確かです。

 





Brokeback “Looks At The Bird” / ブロークバック『ルックス・アット・ザ・バード』


Brokeback “Looks At The Bird”

ブロークバック 『ルックス・アット・ザ・バード』
発売: 2003年1月21日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 トータスのダグラス・マッカムがスタートさせたプロジェクト、ブロークバックの2枚目のアルバムです。本作『Looks At The Bird』には、シカゴ・アンダーグラウンドのベーシスト、ノエル・クッパースミスも参加しており、2人のベーシストによるベース推しの1作。

 ジャズの世界では、ベーシストが2人揃う作品というのも散見されますが、インディーロック畑で、ベーシスト2人を中心にした作品というのは珍しいのではないでしょうか。ギター中心の音楽を「ギター・オリエンテッドな」と形容することがありますが、本作は言うなれば「ベース・オリエンテッドなポストロック作品」。

 2本のベースが絡む、低音に重心に置いたアンサンブルが、時にアンビエントな音響を携えながら展開されます。

 2曲目「Lupé」は、ジャングルの中で、様々な動物が不意に飛び出してくるように、多種多様なサウンドが飛び交う1曲。一般的な意味でポップな曲ではないものの、各楽器がオーガニックな響きを持っているためか、不思議と実験的で敷居が高いという印象はありません。後半になってトランペットが登場すると、途端にジャジーな空気が漂います。

 3曲目の「Name’s Winston, Friends Call Me James」は、ゆったりとしたベースの上に、ボーカルやシンセのロングトーンが、レイヤーのように重なるイントロ。そこからドラムがリズムを加えると、立体的な音楽が姿をあらわします。

 7曲目の「The Suspension Bridge At Iguazú Falls」は、ギターとシンセが前景化され、今作の中では、ひときわカラフルな印象を与える1曲。トータス色が濃いアレンジとサウンド・プロダクション。

 前述したとおり、ベースをアンサンブルの中心に据えた作品ではありますが、サウンドと展開は思いのほかバラエティに富んでいて、単調な印象はあまりありません。(全くないとは言えない…)

 ジャズの香りもする、ベース主導のポストロック作品、といった趣です。トータスの2ndアルバム『Millions Now Living Will Never Die』あたりが好きな方は、気に入る作品だと思います。

 





Brokeback “Field Recordings From The Cook County Water Table” / ブロークバック『フィールド・レコーディングス・フロム・ザ・クック・カウンティ・ウォーター・テーブル』


Brokeback “Field Recordings From The Cook County Water Table”

ブロークバック 『フィールド・レコーディングス・フロム・ザ・クック・カウンティ・ウォーター・テーブル』
発売: 1999年7月20日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 トータスのベーシスト、ダグラス・マッカムによるプロジェクトの1作目です。本作には、シカゴ・アンダーグラウンドのロブ・マズレクとノエル・クーパースミス、トータスのジョン・マッケンタイアなどがレコーディングに参加しています。

 タイトルのとおり、フィールド・レコーディングされた自然や日常の音と、ベースを中心にしたアンサンブルが溶け合う1作。アンビエントな雰囲気も流れ、音響を前景化させた1面もある作品ですが、6弦ベースとコントラバスを駆使し、思いのほか多彩な世界観を作り出しています。

 1曲目「After The Internationals」は、複数のベースが絡み合い、アンサンブルを構成する1曲。当然ながら、重心が低音にあるサウンドです。中盤から入ってくるコルネットの音色が、ベースとのコントラストで、非常に鮮烈に感じられます。

 2曲目「Returns To The Orange Grove」は、イントロからフィールド・レコーディングされた音源が使われています。日常の音とベースの音が、レイヤーのように重なり、やがて溶け合う展開。どんな音がフィールド・レコーディングされているかは、実際に聴いて確かめてみてください。

 3曲目「The Field Code」は、音数の少ないミニマルなイントロから、ギターとベースとシェイカーが、絡み合うようにアンサンブルを編み込んでいく1曲。

 7曲目「The Wilson Ave. Bridge At The Chicago River, 1953」は、イントロからフィールド・レコーディングされた音源が使われています。聴いているうちに、楽器の音とフィールド・レコーディングの音が溶け合い、どれが楽器の音で、どれがフィールド・レコーディングの音なのか、境界線が曖昧に感じられます。

 11曲目「The Great Banks」はボーカル入りの曲。ボーカルを担当しているのは、ステレオラブのメアリー・ハンセンです。ボーカル入りといっても歌詞があるわけではなく、声を一種の楽器として取り入れている、と言った方が適切です。ボーカルと伴奏という関係ではなく、声が音楽に自然に溶け込み、サウンドに暖かみと奥行きをもたらしています。

 フィールド・レコーディングと、ベースを主軸にしたバンドの音を合わせた…と言うと、実験的でとっつきにくい印象を持たれるかもしれませんが、すべての音を公平に扱い、ひとつの音楽に融合した、優しいサウンドを持ったアルバムです。

 しかし、誰にでもオススメできるか?と問われると、正直そういう作品ではないのも事実。ベース・フェチの方は、聴いてみてはいかがでしょうか。ただ、一般的な意味でのポップな作品ではありませんし、ベースがゴリゴリに弾きまくる作品でもありませんので、ご注意を。