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The Thermals “Fuckin A” / ザ・サーマルズ『ファッキン・エー』


The Thermals “Fuckin A”

ザ・サーマルズ 『ファッキン・エー』
発売: 2004年3月18日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Chris Walla (クリス・ウォラ)

 オレゴン州ポートランド拠点のバンド、ザ・サーマルズの2ndアルバム。

 デビュー・アルバムでもある前作『More Parts Per Million』は、4人編成でレコーディングされていましたが、その後ギタリストのベン・バーネット(Ben Barnett)が脱退。2枚目のアルバムとなる本作『Fuckin A』は、3人編成でレコーディングされています。

 レコーディング・エンジニアを務めたのは、当時デス・キャブ・フォー・キューティー(Death Cab For Cutie)のメンバーだったクリス・ウォラ。

 ガレージロック的な生々しくざらついた音像と、ローファイ風味の荒さを持った前作と比較すると、音圧が高まり、輪郭もはっきりとした、サウンド・プロダクションへと変化した本作。やや現代的なパンク・ロックの音に近づいたとも言えますが、アンサンブルはガレージロックの荒々しさを変わらず持っています。

 演奏の荒々しさのみが優先されるわけではなく、メロディーの良さもこのバンドの魅力。ポップパンクやメロコアのような突き抜けるメロディーの爽快感とは違いますが、歌のメロディーとバンドが一体となって転がるようなアンサンブルからは、疾走感と躍動感が溢れます。

 1曲目「Our Trip」は、各楽器が組み合い、徐々に加速していくシンプルなロック・チューン。

 2曲目「Every Stitch」は、前のめりになったリズムがフックとなり、推進力を生み出していく1曲。

 3曲目「How We Know」は、硬質なサウンドのベースが主導的に曲を引っ張り、タイトに加速していく1曲。途中まではスポークン・ワードのように淡々としたボーカルが、サビでは起伏の大きなメロディーへと一変。激しくうなりをあげるギターも相まって、コントラストが鮮やか。

 4曲目「When You’re Thrown」は、ファズとオーヴァー・ドライヴの中間ぐらいに歪んだギターが、パワフルに曲を主導していく1曲。

 6曲目「A Stare Like Yours」は、フィードバックやハーモニクスを織り交ぜ、ノイジーに疾走するギターが目立つ1曲。アンサンブルはタイトかつ躍動感に溢れ、ボーカルは親しみやすいメロディーを高らかに歌い上げます。

 7曲目「Let Your Earth Quake, Baby」では、弾むようなリズムに乗って、軽快なアンサンブルが展開。各楽器が絡み合い、バンド全体が波打つように躍動していきます。

 10曲目「Forward」は、ギターを中心に、堰を切ったように音が前のめりに噴出する、スピード感の溢れる1曲。

 前述のとおり、前作から比較するとサウンドがローファイからハイファイになり、パワフルな音像を伴って疾走感あふれる演奏が繰り広げられます。

 しかし、ただ直線的に走るのでは無く、ガレージロック的なラフさと、ローファイ的な揺らぎを変わらず持ち続けているところが、このバンドの魅力と言えるでしょう。

 





The Thermals “More Parts Per Million” / ザ・サーマルズ『モア・パーツ・パー・ミリオン』


The Thermals “More Parts Per Million”

ザ・サーマルズ 『モア・パーツ・パー・ミリオン』
発売: 2003年3月4日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)

 2002年にオレゴン州ポートランドで結成。同地を拠点に活動するバンド、ザ・サーマルズの2003年リリースの1stアルバム。

 結成から本作レコーディング時までは4人編成ですが、2003年にギターのベン・バーネット(Ben Barnett)が脱退。次作以降は、3ピース編成となります。

 ガレージロックの無骨さと、パワーポップの親しみやすさを併せ持ったアルバム。ギターのざらついた音作りと、ぶっきらぼうに疾走する演奏はガレージロック的なのに、歌のメロディーはシングアロングが起こりそうなポップさを持っており、パワーポップ的。

 キラキラとしたポップなメロディーと、ハードな音像と演奏が合わさり、疾走感と高揚感を持ち合わせた音楽が展開。ややローファイを感じさせるチープな音質でもあり、このローファイ感が、さらに親しみやすさを高めています。

 1曲目「It’s Trivia」では、波のように縦に揺れながら躍動するバンドに対して、ボーカルはルーズにメロディーを重ねていきます。「ルーズ」と言っても雑だということではなくて、スポークン・ワードに近い自由なリズムと音程を持っているということです。

 2曲目「Brace And Break」は、塊感のある演奏が繰り広げられる、疾走感あふれる1曲。バックビートの効いたリズムで一体となったバンドに対して、ボーカルはそこから浮き上がるようにメロディーを紡いでいきます。

 3曲目「No Culture Icons」は、ジャカジャカと大きくリズムを刻むギターに応えるように、ボーカルもシャウト気味に高らかとメロディーを歌い上げる1曲。

 5曲目「Out Of The Old And Thin」は、バンド全体がリズム楽器のように、タイトに力強くリズムを刻んでいく曲。ボーカルもその波に乗るように、流れるようにメロディーを歌います。

 7曲目「Time To Lose」は、ざらついたギターの音色と、エフェクトのかかったボーカルが耳をつかむ、ガレージロック色の濃い1曲。

 8曲目「My Little Machine」では、パワフルで荒々しいサウンドで、立体的なアンサンブルが展開されます。いい意味で各楽器のリズムにルーズな部分があり、荒々しさとグルーヴ感を生む演奏。再生時間1:35あたりからのアヴァンギャルドなアレンジも、楽曲の奥行きを増しています。

 10曲目「A Passing Feeling」は、イントロのドラムから、シンプルなロックンロールが展開する1曲。あまりバンド名を出して曲を説明するのは、バンドに対して失礼なようで気が引けるのですが、ラモーンズとストロークスの中間点のようなサウンドと演奏。

 メロディーは、ややバックの演奏に引っ張られているようにも感じられるのですが、コード進行と並行しているだけのメロディーラインではなく、適度に音程の動きがあり、平面的な印象はありません。先ほど、ラモーンズとストロークスを例に出しましたが、サーマルズもメロディーの中毒性が高く、じわじわと耳にこびりついて、離れなくなります。

 ポップさとハードさのバランスが秀逸で、デビュー・アルバムらしい荒々しさも持ち合わせた良作。





Dwarves “Thank Heaven For Little Girls” / ドワーヴス『サンク・ヘヴン・フォー・リトル・ガールズ』


Dwarves “Thank Heaven For Little Girls”

ドワーヴス 『サンク・ヘヴン・フォー・リトル・ガールズ』
発売: 1991年11月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Mr. Colson (ミスター・コルソン)

 イリノイ州シカゴ出身のバンド、ドワーヴスの1991年にリリースされた3rdアルバム。1999年には、本作と次作『Sugarfix』を1枚に収めたコンピレーション盤が発売。2018年8月現在、各種サブスクリプション・サービスでも、1999年発のコンピ盤が配信されています。

 ざらついたサウンドと疾走感あふれるアレンジが前面に出た、ガレージ・ロック色の濃い前作『Blood Guts & Pussy』と比較すると、よりアレンジの幅が広がった本作。前作も、ただ直線的なリズムで走るだけではなく、随所にフックとなるアレンジが施されていましたが、本作ではさらに凝ったアレンジが増加しています。

 同時に、悪ノリとも言える、おどろおどろしいサウンドや歌詞は全く損なわれておらず、ノイズ・ロック的な一面を好む方にも、受け入れられるアルバムです。

 1曲目の「Satan」では、イントロにオルガンが用いられ、サウンド面でも広がりを見せています。しかし、ヴォーコーダーを用いたらしい、悪魔のうめき声のようなコーラスも入っており、アングラ臭も漂う1曲です。

 4曲目「Blood Brothers Revenge」は、細かくリズムが刻まれる、テンポの速い1曲ですが、スライド・ギターが楽曲に滑らかさをプラス。ハードコア一辺倒にはならず、ポップなテイストも感じられる曲に仕上がっています。

 5曲目「Blag The Ripper」は、硬質なベースと、激しく歪んだギター、立体的なドラムが絡み合い、アンサンブルが展開されます。スピード重視の疾走感よりも、コントラストとグルーヴ感を重視した曲。ムチで叩く音や、悲鳴のような声が、奥の方で鳴り響き、アングラ感もプラス。

 10曲目「Three Seconds」は、各楽器が一体感を持って疾走する、テンポが速く、コンパクトにまとまったパンク・チューン。「カチカチ」という時限爆弾のカウント音のようなイントロから、ラストまで1分ほど。イントロとラストのサウンドにも、このバンドらしい遊び心があります。

 11曲目「Fuck Around」は、厚みのある歪むのギターと、メロディアスなボーカルが前面に出た、ポップでメロコア色の濃い1曲。ノリの良いリズムと、爽やかなコーラスワークからは、カントリーの香りも漂います。

 パンクを下敷きにしながら、曲によってはハードコア色が濃く、曲によってはメロコア色が濃く、といった具合に多彩な曲が収録された1作。

 疾走感の点では、前作の方が上回りますが、楽曲とアレンジの多彩は、本作の方が確実に上回っています。このバンド得意の悪趣味なサウンドやアレンジも散りばめられ、良い点は失わずに、音楽性の幅を広げたと言えるでしょう。





Dwarves “Blood Guts & Pussy” / ドワーヴス『ブラッド・ガッツ・アンド・プッシー』


Dwarves “Blood Guts & Pussy”

ドワーヴス 『ブラッド・ガッツ・アンド・プッシー』
発売: 1990年1月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jack Endino (ジャック・エンディーノ (エンディノ))

 イリノイ州シカゴで結成されたバンド、ドワーヴスの2ndアルバム。1986年の前作『Horror Stories』は、ロサンゼルス拠点のボンプ・レコード(Bomp! Records)傘下のレーベル、ヴォックス・レコード(Voxx Records)からのリリースでしたが、本作からシアトルの名門サブ・ポップへ移籍しています。グランジ・ブームの真っ只中で、多くのバンドを手がけたジャック・エンディーノが、エンジニアを担当。

 ジャンルとしてはガレージ・ロックやハードコア・パンクに分類されるドワーヴス。とにかく勢い重視の演奏と、下品なサウンド・プロダクションが彼らの魅力です。本作も12曲収録ながら、収録時間は13分台という、文字通り勢いで突っ走るアルバム。ガレージ風のシンプルなロックを基本に、時に楽曲のなかで加速しながら走り抜けていきます。

 収録時間がとても短く、全てのトラックが1分程度。しかし、めちゃくちゃにテンポが速いというわけでも、直線的にリズムを刻み続けるわけでもなく、思いのほかアレンジが練り込まれ、コンパクトにまとまったロックンロールが、一貫して鳴らされています。

 ガレージ・ロック的な、ざらついた音像と疾走感を持ち、ボーカルのクセのある歌い方からは、アングラ感が漂います。アルバム全体を通して、ワルノリで押し切るようなところもあるのですが、前述のとおり単純に突っ走るだけでなく、アレンジが凝っていて、意外と真面目なのかな?と感じるところもあり。

 1曲目「Back Seat Of My Car」は、ギターのイントロを皮切りに、リズムが前のめりに走っていく、疾走感あふれる1曲。曲のラストには、車が衝突する音が入り、このバンドらしい遊び心も感じられます。

 2曲目「Detention Girl」は、イントロから前のめりに走っていきますが、再生時間0:37あたりのベースをスイッチにしてテンポを落とし、その後は段階的に再加速。緩急によって加速感を演出する1曲。

 5曲目「Skin Poppin’ Slut」は、毛羽立ったサウンドのギターを中心に、全ての楽器が塊となって転がるような、一体感と疾走感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 6曲目「Fuck You Up And Get High」では、シンプルなリフと、シャウト気味のボーカルが、勢いに任せて走り抜けていきます。わずか40秒の曲ですが、演奏時間の短さ以上に、疾走感に溢れ、短い体感の1曲。

 11曲目「Astro Boy」では、ギターは激しく歪み、各弦の分離感のないだんご状のサウンド。リズム隊とも一丸となり、転がるように駆け抜ける演奏が展開されます。

 音も下品なら、ジャケットも下品。しかし、リズムやテンポの切り替えが随所にあり、思ったよりも演奏は練りこまれています。

 とはいえアングラ臭が充満しているのも事実で、音圧の高いハイファイなサウンドのマスロックやハードロックとは、一線を画する耳ざわり。ガレージで鳴らされた音をそのまま閉じ込めたかのような、生々しく歪んだ音で、塊感のあるアンサンブルを展開していく1作です。

 





Built To Spill “There’s Nothing Wrong With Love” / ビルト・トゥ・スピル 『ゼアーズ・ナッシング・ロング・ウィズ・ラヴ』


Built To Spill “There’s Nothing Wrong With Love”

ビルト・トゥ・スピル 『ゼアーズ・ナッシング・ロング・ウィズ・ラヴ』
発売: 1994年9月13日
レーベル: Up (アップ)
プロデュース: Phil Ek (フィル・エク)

 トゥリーピープル(Treepeople)のメンバーだったダグ・マーシュ(Doug Martsch)によって結成されたバンド、ビルト・トゥ・スピルの2ndアルバム。

 前作から、ベースのブレット・ネットソン(Brett Netson)と、ドラムのラルフ・ユーツ(Ralf Youtz)が、それぞれブレット・ネルソン(Brett Nelson)とアンディ・キャップス(Andy Capps)へ交代。また、レーベルもC/Zから、アップ・レコード(Up Records)へと移籍しています。

 上記のとおり、メンバー交代とレーベル移籍を経て、リリースされた本作。しかし、元々ダグ・マーシュを中心としたバンドであり、彼がギターとボーカルを変わらず担っているため、音楽性はそこまで大きくは変化していません。

 ダグは音楽雑誌『スピン』(Spin)による当時のインタビューで、「アルバムごとにメンバーを全て入れ替えるつもりだった」とも語っています。今後もたびたびメンバー交代はあるものの、実際にはアルバムごとのメンバー刷新はおこなっていません。

 今作では、フィル・エクがプロデューサーを務めているのも注目ポイントです。シアトルを拠点に活動し、最近ではフリート・フォクシーズ(Fleet Foxes)や、バンド・オブ・ホーセズ(Band Of Horses)のプロデュースでも知られるフィル・エク。

 彼のプロデュース・ワークによって、前作よりもサウンドの輪郭がくっきりとし、各楽器が分離して聴き取りやすく、結果としてアンサンブルが引き立つ音像に仕上がっています。また本作は、スピン誌のトップ・インディー・レコード(top indie records of all time)のトップ10にも選出。これが、フィル・エクの名を上げるきっかけにもなっています。

 1988年に結成されたトゥリーピープルは、当時のグランジ旋風の影響を受けていたのか、ハードな音像を持ったバンド。ダグ・マーシュが、トゥリーピープル脱退後に結成したビルト・トゥ・スピルの1stアルバム『Ultimate Alternative Wavers』も、トゥリーピープルの音楽性をある程度は引き継ぎ、グランジを思わせるハードなサウンドを持っていました。

 しかし、2枚目のアルバムとなる本作『There’s Nothing Wrong With Love』では、サウンド面のアグレッシヴさは抑えられ、よりアンサンブルを重視した音楽性へと変化しています。

 1曲目の「In The Morning」は、歯切れの良いイントロのギターから始まり、バラバラの音が絡み合う、立体的なアンサンブルが展開。特にギターは、トリルを用いたマスロックを思わせるフレーズや、シャキシャキと軽快なカッティングなど、歌い上げるような泣きのフレーズが持ち味だった前作とトゥリーピープル時代から比較して、より多様なアレンジを聴かせます。この曲は、脱退したブレット・ネットソンによる作曲。

 2曲目「Reasons」は、ゆったりとタメを作ったリズムに乗せて、ギターとコーラスが多層的なサウンドを作り上げる1曲。やや遅れてリズムを刻むドラムと、そのドラムに絡みつくようにフレーズを繰り出すベースが、波のように躍動的に揺れるアンサンブルを支えます。

 3曲目「Car」は、2曲目とは打って変わって、タイトで小気味よいアンサンブルが展開される1曲。ところどころに、不安定な音程のフレーズを差し込むギターが、楽曲にキュートさを加えています。再生時間2:12あたりからの、うねるような音色のギターソロも、楽曲にオルタナティヴな空気をプラスするアクセント。

 5曲目「Fling」は、クリーントーンのギターとチェロを中心にした、穏やかなサウンド・プロダクションを持っています。ボーカルのメロディーも、流れるような美しさを持った、ギターポップ色の濃い1曲。

 7曲目「The Source」では、ドラムが立体的に響き、ギターがうなりを上げる、躍動感の溢れるアンサンブルが展開。再生時間0:48あたりからの壊れたオモチャのようなアレンジなど、オルタナティヴな空気も充満した、カラフルな曲です。

 10曲目「Distopian Dream Girl」は、複数のギターが複雑に絡み合うバンドの演奏に対し、爽やかなメロディーが乗る1曲。ギターの音作りとフレーズにはジャンクな香りも漂い、厚みのあるアンサンブルを作り上げます。とにかく、ギターが前面に出たアレンジ。

 メロディーも良いけど、アレンジも良い、多彩な楽曲が収録されたカラフルなアルバムです。歪んだギターが効果的に用いられ、ところどころアングラのノイズ・ロック的なサウンドも持っているのですが、ボーカルのメロディーはギターポップを彷彿とさせるぐらいポップ。バランス感覚に優れた1作です。

 ポッポさと実験性が独自の方法でブレンドされていて、実にインディー・ロックらしい耳ざわり。個人的にも大好きなアルバムです。1997年リリースの次作『Perfect From Now On』からは、メジャーのワーナーへ移籍。メジャー移籍で魅力をそこなうバンドも多いなか、ビルト・トゥ・スピルは変わらず良質な音楽を作り続けています。

 2015年には、シアトルを代表する名門レーベルであるサブ・ポップより、本作のアナログ盤が再発。