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Pussy Galore “Right Now!” / プッシー・ガロア『ライト・ナウ!』


Pussy Galore “Right Now!”

プッシー・ガロア 『ライト・ナウ!』
発売: 1987年
レーベル: Caroline (キャロライン), Matador (マタドール)

 1985年にワシントンD.Cで結成されたバンド、プッシー・ガロアの2ndアルバム。1987年にキャロライン・レコードからリリースされ、1998年にマタドールから再発されています。

 プッシー・ガロアが立ち上げた自主レーベル、シャヴ・レコーズ(Shove Records)からリリースされた1stアルバムは、ローリング・ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』(Exile On Main St.)のカバー・アルバムだったため、本作『Right Now!』を1stアルバムとカウントすることもあるようです。

 ジョン・スペンサーやニール・ハガティが在籍し、解散後には各メンバーが、ボス・ホッグ(Boss Hog)、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン(Jon Spencer Blues Explosion)、ロイヤル・トラックス(Royal Trux)などで活躍。そのため、今となっては伝説的に扱われるバンドでもあります。

 しばしばジャンク・ロックやノイズ・ロックのカテゴライズされる彼らのサウンドは、ガチャガチャと騒がしく、しかし同時にどこかカラフル。サウンド的にもメロディー的にも、いわゆる売れ線とはかけ離れたアングラ臭の充満した作品ですが、このジャンクさは唯一無二で聴いているうちにクセになります。

 1曲目の「Pig Sweat」から、全ての楽器がジャンクなサウンドを持ち、前のめりに疾走していきます。全ての楽器が、現代的なハイファイ・サウンドとは程遠い、ガラクタのような耳ざわりなのが最高です(笑)

 2曲目「White Noise」も、わずか36秒の曲ですが、不協和なサウンドと、不安定な音程を持ったギター・リフが印象的な、ジャンクなロック・チューン。

 5曲目「Wretch」は、ワウの効いたギターと、呪術的で不気味なボーカルが、サイケデリックでアングラな空気をふりまく1曲。

 7曲目「Fuck You, Man」は、タイトルどおりFワードを繰り返すボーカルを筆頭に、下品に歪んだギターとリズム隊が絡み合い、疾走感に溢れた1曲。

 アルバム全体を通して、下品でジャンクな音と言葉の充満した1作ですが、多様なノイズ的サウンドを用いつつも統一感があり、前述したとおり、カラフルにさえ感じられます。

 また、ただ無茶苦茶にやっているだけではなく、下地にあるブルースやロックンロールが、構造を下支えしていることで、ポップ・ソングとしての機能も失わず、併せ持っているのだと思います。

 アレンジやサウンドにはやり過ぎだと思えるところもありますが、コンパクトにまとまるよりも、このぐらい振り切ってもらった方が、聴いていて単純に楽しいですね。

 プッシー・ガロアと比べてしまうと、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンが上品にすら感じられます。

 





Japancakes “If I Could See Dallas” / ジャパンケイクス『イフ・アイ・クドゥ・シー・ダラス』


Japancakes “If I Could See Dallas”

ジャパンケイクス 『イフ・アイ・クドゥ・シー・ダラス』
発売: 1999年10月13日
レーベル: Kindercore (キンダーコア), Darla (ダーラ)
プロデュース: Andy Baker (アンディ・ベイカー)

 ギタリストのエリック・バーグ(Eric Berg)を中心に、ジョージア州アセンズで結成されたバンド、ジャパンケイクスの1stアルバム。

 1999年に彼らの地元アセンズのレーベル、キンダーコアからリリースされ、その後2008年2月にダーラ・レコーズより再発されています。

 エリック・バーグは、リハーサル無しでDコード上で45分間演奏を続ける(!)、というアイデアを実行するためにバンドを組んだとのことで、結成のコンセプトからしてぶっ飛んでいます。

 しかし、本作で展開されるのは、アヴァンギャルドな要素もほのかに含みつつ、緩やかに風景を描き出すようなインスト・ポストロック。ハードルが高い、難解な音楽ではありません。

 当時のジャパンケイクスは、ペダルスチールギター奏者とチェリストをメンバーに含む6人編成。スチールギターとチェロの音色が、楽曲に奥行きと柔らかさを与え、ギターを中心にしたポストロック・バンドとは一線を画したサウンドを獲得する要因になっています。

 1曲目「Now Wait For Last Year」は、全ての楽器の輪郭が丸みを帯びていて柔らかく、全体としても穏やかな空気が充満した1曲。

 2曲目「Elevator Headphone」は、チェロがフィーチャーされ、電子音と生楽器が重なり、立体的なアンサンブルが構成されていきます。

 3曲目「Vocode-Inn」では、柔らかな電子音が幻想的な雰囲気を作り出し、ストリングスが荘厳な雰囲気をプラス。ロック的ではない、レイヤー状に折り重なる音の壁が、立ち上がります。

 6曲目「Pole Tricks」は、日本語の交通情報がサンプリングされたイントロから、チェロを中心に据えた、シンフォニックなアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 前述したとおり、チェロ奏者とペダルスチールギター奏者を正式メンバーに擁するバンドで、生楽器のナチュラルな響きと、電子的なサウンドが、穏やかに溶け合うアルバムです。

 音響が心地よい、穏やかなサウンドを持ちながら、ゆるやかに躍動するアンサンブルも共存。全編インストですし、ヴァース=コーラスのわかりやすい構造がある楽曲群ではありませんが、間延びして退屈という印象は持ちませんでした。

 このアルバムを聴くと、45分間同じコード上で演奏を続ける、というアイデアさえも、いかにも実行しそうだな、と感じさせるバンド。

 アセンズというと、エレファント6が思い浮かびますが、エレファント6にも繋がる、自由なポップ・センスを持っているとも思います。

 





Electro Group “Good Technology” / エレクトロ・グループ『グッド・テクノロジー』


Electro Group “Good Technology”

エレクトロ・グループ 『グッド・テクノロジー』
発売: 2007年9月6日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 カリフォルニア州サクラメント出身のシューゲイザー・バンド、エレクトロ・グループの2ndアルバム。

 1stアルバムである前作『A New Pacifica』は、彼らの地元サクラメントのオムニバスというレーベルからのリリースでしたが、本作はフロリダにオフィスを構えるシューゲイザーの名門レーベル、クレアコーズからのリリース。

 2007年にリリースされた作品ですが、2001年から2006年までにレコーディングされた楽曲が、収められています。そのため、楽曲と音質の幅が、良く言えばバラエティ豊か、悪く言えば統一感なくバラバラ。

 とはいえ、もちろん同じバンドの楽曲ですから、音楽的志向の大枠は共通しており、個人的にはネガティヴな要素とは思いません。

 前作『A New Pacifica』でも、エフェクターを多用したギター・サウンドを主要成分に、アルバムを作り上げたエレクトロ・グループ。時として過激とも言えるギター・サウンドと、浮遊感のある中性的ボーカルの組み合わせは、シューゲイザー的と言えます。

 シューゲイザーと言っても、轟音ギターの量感を重視するバンド、トリップするような浮遊感を目指すバンドなど、千差万別ですが、エレクトロ・グループはどちらかと言うと、サイケデリックな浮遊感よりも、ソリッドなビートとアンサンブルの方が、前面に出ているバンドです。

 前作でも、タイトな音質のベースが、アンサンブルを引き締め、躍動させる上で大活躍していましたが、2作目となる本作では、ギターの音が輪郭のはっきりしたソリッドな音質になり、バンド全体としても、アンサンブル志向がさらに強まっています。

 例えば2曲目の「The Rule」では、アコースティック・ギターも含めた複数のギターとリズム隊が、絡み合うようにアンサンブルを構成し、さらにボーカルも伴奏の上に乗るのではなく、隙間を縫うように一体感のあるサウンドを作り上げていきます。

 各楽器の音が不可分にひとつの塊になるのではなく、分離して聞き取れるサウンドを持ち、有機的なアンサンブルを展開する、このようなアプローチは前作の音楽性をさらに一歩進めたと言えるでしょう。

 しかし同時に、流れるようなボーカル、エフェクターのかかったギター・サウンドなど、シューゲイザー的要素も多分に持っています。

 シューゲイザー的なサウンド・バランスは依然として持ちつつ、各楽器のサウンドは肉体的になり、結果として躍動感やグルーヴ感が増したアルバム、と言えます。

 





Electro Group “A New Pacifica” / エレクトロ・グループ『ア・ニュー・パシフィカ』


Electro Group “A New Pacifica”

エレクトロ・グループ 『ア・ニュー・パシフィカ』
発売: 2003年1月1日
レーベル: Omnibus (オムニバス)

 1998年に、カリフォルニア州サクラメントで結成されたバンド、エレクトロ・グループの1stアルバム。

 2ndアルバム『Good Technology』は、シューゲイザーの名門レーベル、クレアコーズからリリースするエレクトロ・グループですが、本作は彼らの地元サクラメントのオムニバスからのリリース。

 エフェクトの深くかかったギターが、厚みのあるサウンドを構築し、浮遊感のある中性的なボーカルがメロディーを紡いでいくバランスは、正しくシューゲイザー的なサウンド・デザインを持ったアルバムです。

 特にギターのサウンドに注目して聴いてみると、毛羽立ったファズ風の歪みから、ギターポップでもおかしくない爽やかなクリーン・トーンまで、曲によって幅広い音作り。

 しかし、アルバムとしての統一感は失わず、コンパクトにまとまったサイケデリックなポップが、詰め込まれています。

 壮大さとキュートさが共存する、30秒ほどのイントロダクション的な「Trigger/Repeat/Hold」からアルバムがスタート。

 2曲目の「La Ballena Alegria」では、異なる音色を持つギターと、ファットなベース、シンプルでタイトなドラムが、サイケデリックなギターポップを展開します。ギターはキラキラした音から、ざらついた耳ざわりの歪みまで、多様なサウンドが用いられ、カラフルな1曲。

 3曲目「If You Could See」でも、イントロから図太いサウンドのベースが、楽曲を先導していきます。冒頭はクリーン・トーンのギターのみ、そこから倍音豊かなディストーション・ギターが加わり、段階的にサウンドが厚みを増していく展開。

 4曲目「Line Of Sight」は、ざらついた質感のギターがアンサンブルを構成するなか、浮遊感のあるささやき系のボーカルが漂います。過度にエフェクターのかかったサウンドの中を、流れるように美しいメロディーが泳いでいくバランスが秀逸。音響を前景化しながら、歌モノのポップスの魅力をそこに同化させていますのが、シューゲイザーの特徴のひとつだと思いますが、そういう意味ではまさにこの曲はシューゲイザー。

 7曲目「Continental」は、オーバーダビングもされているのだと思いますが、ギターが音の壁と呼びたくなる、分厚いサウンドを立ち上げる1曲。硬質かつファットなベースも、楽曲にメリハリをつけ、コントロールする上で大活躍。

 9曲目「Can’t Remember」は、ギターと電子音、ボーカルが穏やかに溶け合う1曲。全ての楽器が柔らかなサウンドを持っており、サックスとオルガンらしき音色が、オーガニックな雰囲気をプラス。しかし、ただ穏やかなだけではなく、コード進行とハーモニーには奇妙な部分もあり、このあたりがシューゲイザー・バンドらしい。

 時にキラキラしていたり、過激なほど歪んでいたりと、派手なギターのサウンドに耳を奪われてしまいがちですが、ベースも楽曲の構造を支える上で、非常に活躍している作品だと思います。

 もし、ベースの音量がもっと控えめであったなら、よりギターのサウンドが前面に出た、音響的なアルバムになっていたはず。ベースがタイトにアンサンブルを引き締め、楽曲の立体感を演出していて、それがこの作品の魅力をひとつ上の段階へ押し上げているんじゃないかと思います。

 





Polvo “Siberia” / ポルヴォ『シベリア』


Polvo “Siberia”

ポルヴォ 『シベリア』
発売: 2013年9月30日
レーベル: Merge (マージ)

 1990年にノースカロライナ州チャペルヒルで結成されたバンド、ポルヴォの6枚目のアルバム。

 1998年に解散し、2008年に再結成、2009年には、5thアルバム『In Prism』をリリースしています。間に10年の中断期間があり、本人たちの音楽的志向にも変化があったのでしょうが、解散前の90年代と再結成後では、音楽性が異なっています。

 もちろん共通している部分もありますし、むしろ時間を重ねているのに変化が無い方がおかしいのですが、どちらの音楽性を好むかは、リスナーの好みの分かれるところです。

 解散前に90年代を前期、再結成後を後期とすると、ローファイ要素と東洋音楽からの影響を含み、アヴァンギャルドなポップを展開していた前期、より音圧の高いソリッドなサウンド・プロダクションをも持ち、タイトで複雑なアンサンブルを繰り広げる後期、と大雑把に言うことができます。

 実験的な要素を持ちながら、絶妙なバランス感覚でコンパクトな楽曲に仕上げるところは共通しているのですが、サウンド面でも音楽面でも、一聴したときの印象はかなり違います。

 1曲目「Total Immersion」では、絡みつくような、ねじれたギターリフに導かれ、各楽器が複雑に絡み合うようなアンサンブルが展開されます。

 2曲目「Blues Is Loss」は、クリーン・トーンのギターが漂うように音を紡ぐイントロから、開放的で爽やかアンサンブルへと展開。ところどころに不安定で不協和な響きがあり、アヴァンギャルドな空気とポップな空気を、持ち合わせています。

 3曲目「Light, Raking」は、ざらついた歪みのギターと、鼓動を打つように粒の揃ったベースライン、ダンスパンクを思わせるシンセサイザーなどが重なり、コンパクトにまとまったグルーヴを生み出す1曲。再生時間1:20あたりからの不安定なギターの音も、チープで親しみやすい空気を演出し、楽曲に深みを与えています。このように、一般的には使われないサウンドやフレーズを、魅力に転化するセンスが本当に秀逸。

 4曲目「Changed」は、手数を絞ったドラムを中心に、隙間の多いアンサンブルが繰り広げられる、リラックスした雰囲気の1曲。再生時間1:45あたりで入ってくる、粘り気のあるディストーション・ギターも、静から動へという予定調和的な挿入ではなく、自然なかたちで楽曲を盛り上げています。

 5曲目「The Water Wheel」は、複数のギターが絡まって、ほどけなくなるような、有機的で一体感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 6曲目「Old Maps」は、イントロからみずみずしい音色のアコースティック・ギターが使われ、アルバムの中で異質なサウンドを持つ1曲。しかし、浮いているわけではなく、空間系のエフェクターの効いたギターが立体的に重なり、現代性を持ったサウンドを響かせています。

 8曲目「Anchoress」は、打ち込みのような画一的なドラムのビートと、音色の異なる複数のギターが重なり、ゆるやかに躍動していくミドルテンポの1曲。再生時間1:10あたりからの展開など、リズムに足が引っかかるような部分があり、そこが音楽のフックにもなっています。

 前述したとおり、解散前の90年代とは、かなり耳ざわりの異なる音楽が展開される本作。このバンドの前期と後期を、僕なりの言葉であらわすと、ローファイなオルタナ民族音楽である前期に対して、よりマスロック色とプログレ色の強まった後期、といった感じでしょうか。

 復活1作目となる前作『In Prism』を聴いたときは、個人的には解散前の方が遥かに好きだったと感じました。しかし、それから4年を経てリリースされた本作は、アヴァンギャルドな要素が増して、前作ではあまり感じることができなかった東洋音楽のエッセンスも感じられ、今までのポルヴォの作品の中で一番好きかも、と思っています。

 ソリッドな音質を持ったアルバムなのですが、一部のマスロックのように、音楽的に尖った部分が強調するのではなく、実験的でありながら、どこかゆるいアレンジを随所に散りばめ、アヴァンギャルドでねじれたポップが展開。

 実験性と親しみやすさが、絶妙な割合でブレンドされており、こういうポップセンスを持ったバンドは、本当に好きです。