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Edith Frost “It’s A Game” / イーディス・フロスト『イッツ・ア・ゲーム』


Edith Frost “It’s A Game”

イーディス・フロスト 『イッツ・ア・ゲーム』
発売: 2005年11月15日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Rian Murphy (リアン・マーフィー)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの4枚目のアルバムです。これまでの3枚のアルバムと同じく、シカゴのドラッグ・シティからのリリース。

 ピアノとアコースティック・ギターを中心にした、音数を絞ったアンサンブル。フォーキーなサウンド・プロダクションながら、効果的に使用されるシンセサイザーと思われる電子音とエレキギター、イーディスのアンニュイな声によって、全体としては幻想的な雰囲気が漂います。早朝、朝靄がかかった湖畔か森の中を、散歩しているような気分になる1枚。

 2曲目「It’s A Game」は、余裕のあるゆったりとしたテンポで、各楽器もリラックスして、音を丁寧に置いていくようなアレンジ。シンセサイザーなのか、奥の方では電子音が、アンサンブル全体を優しく包みこむように鳴っています。

 4曲目の「A Mirage」は、2本のアコースティック・ギターとベースのゆったりした伴奏の上に、雰囲気たっぷりのイーディスの声が漂う1曲。途中から入ってくるボトルネック奏法のような音のギターと、柔らかな音質の電子音が、曲に彩りをプラスしています。蜃気楼を意味するMirageという曲名のとおり、揺らめくような幻想的な雰囲気の1曲。

 10曲目の「If It Weren’t For The Words」は、シンセサイザーの持続音とアコースティック・ギターが、レイヤーのように重なり、優しく広がるような音像。

 音数を絞ったリラクシングなアンサンブルが展開される1枚です。「オルタナ・カントリー」と呼ぶほど実験的でもなければ、「フリーク・フォーク」と呼ぶほどサイケデリックでもありませんが、エレキギターと電子音が、フォーキーなサウンドに彩りを加えています。

 各楽器の音もナチュラルで、まるでそこで鳴っているかのような耳ざわりをしており、サウンド・プロダクションと楽曲のバランスも秀逸だと思います。

 





Edith Frost “Calling Over Time” / イーディス・フロスト『コーリング・オーバー・タイム』


Edith Frost “Calling Over Time”

イーディス・フロスト 『コーリング・オーバー・タイム』
発売: 1997年4月22日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Rian Murphy (リアン・マーフィー)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの1stアルバム。シカゴの名門レーベル、ドラッグ・シティからの発売で、レコーディングにはジム・オルークやデヴィッド・グラブスも参加しています。

 アコースティックギターとピアノを中心に据えたミニマルで幻想的な1枚。エレキギター、ドラム、電子音も聞こえますが、あくまで味付け程度。しかし、どれも少ない音数で効果的にアルバムを彩っています。

 音数を絞ることで、イーディスの声が自ずと前景化される作品とも言えます。感情を排したような、しかしノスタルジックな雰囲気も漂う声が、耳に染み入るような1作です。派手なサウンド・プロダクションではなく、ビート感も希薄なアルバムですが、前述したように音数が少ないだけに、無駄な音が一切なく、全ての音に意味が感じられる作品でもあります。

 1曲目「Temporary Loan」は、アコースティック・ギターの弾き語りが基本でありながら、ポツリポツリと単音を弾くピアノがアクセントになっています。再生時間1:49あたりから入ってくるバイオリンも良い。

 2曲目は「Follow」。ベースなのかシンセサイザーで鳴らしているのか、イントロから聞こえる「ボボーン」という低音。そこに音数を絞ったピアノが入ってくるミニマルなアンサンブル。歌のメロディーとイーディスの声が、空間に染み入るように響きます。

 3曲目はアルバム表題曲の「Calling Over Time」。やや意外性のあるコード進行と、イーディスのささやくような高音域のボーカルが心地よい1曲。

 4曲目「Denied」では、イントロから2種類のサウンドの異なる持続音が響き、ほんの僅かにドラムも入ってきます。一般的にはかなり音数の少ない曲ですが、このアルバムにあっては、かなり音が入っている印象。ドラムが本当にわずかしか入ってこないのに、常にフックになっています。

 6曲目「Too Happy」は、楽器の数も多く、ドラムがビートを刻み、アルバム中では賑やかな1曲。再生時間0:49あたりから入るエレキギターのボトルネック奏法のような音も、流れるような雰囲気の曲にぴったり。

 10曲目「Give Up Your Love」は、アコースティック・ギターの弾き語りを基本にした1曲ですが、コードストロークがはっきりした、リズムが掴みやすい曲です。

 前述したように非常に音が少なく、ミニマルな1枚。その代わりにひとつひとつの音に意味が感じられ、アンサンブルの精度と歌の美しさ、オーガニックな各楽器の音色に、思わずため息がもれるような作品です。

 





Earth “Earth 2: Special Low Frequency Version” / アース『アース2: スペシャル・ロー・フリークエンシー・バージョン』


Earth “Earth 2: Special Low Frequency Version”

アース 『アース2: スペシャル・ロー・フリークエンシー・バージョン』
発売: 1993年2月3日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)

 ワシントン州オリンピアを拠点に活動するドローン・メタルバンド、アースの1stアルバムです。本作は、同じワシントン州のシアトルに居を構えるサブ・ポップからのリリース。

 ドラムが無く、ギターの歪んだサウンドが空間に広がっていくようなアルバム。ビートが無いため、自ずとサウンドが前景化されます。ハードロック的な意味での重厚なサウンドとも違う、リズム的にもサウンド的にも重い、ギターによる重低音のリフが繰り返されます。3曲収録で、73分というボリュームの1作。

 タイトルにも「Special Low Frequency Version」とあるとおり、沈み込むような低音が響く作品です。3曲目の「Like Gold And Faceted」にはパーカッションが入っていますが、基本的にドラム・レスでビート感がありません。

 ですが、リフのかたちは比較的つかみやすく、音程の動きがほとんどないドローンというわけではないので、この種の音楽を聴いたことが無い方にも、入りやすい1枚なのではないかと思います。

 万人におすすめできる作品ではありませんが、オルタナとグランジを代表するレーベルであるサブ・ポップから発売されたのも納得できるほどには、サウンドとリフにいわゆるオルタナの雰囲気が感じられる1枚です。

 逆に言うと、そこまでノイズまみれでもなければ、圧倒的な爆音でも、ミニマルなドローンでもないので、極北の音楽を求める方には、物足りなく感じられるかもしれません。

 僕はこのジャンルの音楽をメインに聴いている者ではありませんので、本作のかっこいいリフと、ほどよいアンビエントさが、ちょうどいいです。

 





Drowners “Drowners” / ドラウナーズ『ドラウナーズ』


Drowners “Drowners”

ドラウナーズ 『ドラウナーズ』
発売: 2014年1月28日
レーベル: Frenchkiss (フレンチキス)

 ニューヨークを拠点に活動する4ピースバンド、Drownersの1stアルバムです。ギター・ボーカルのマシュー・ヒット(Matthew Hitt)はウェールズ出身。彼が2011年にニューヨークに引っ越し、他のメンバーと出会ったことでバンドが結成されます。

 ギター・ボーカル、ギター、ベース、ドラムの4人組で、疾走感あふれるロックを鳴らします。各楽器の役割がはっきりしていて、いきいきとした躍動感もあります。バンド全体の歯車がカチっと組み合って疾走するアンサンブルと、ボーカルの声には、ストロークスの1stアルバムを彷彿とさせる部分もあり。

 1曲目「Ways To Phrase A Rejection」では、イントロの左右チャンネルに振られたギターに、まず耳を掴まれます。一方はコードを弾き、もう一方は副旋律的なフレーズを弾くなど、2本のギターの役割がはっきりとしていて、バンドを加速させていきます。

 トレモロ他エフェクターを多数使っていると思われるギターソロのサウンドも良い。あっという間に終わる、と思ったら1分46秒しかない曲でした。展開が多く、フックも多いので、本当にすぐ終わってしまう感覚。

 4曲目「Watch You Change」では、ほどよく歪んだ伸びやかなサウンドのギターが単音を弾き、空間系のエフェクターのかかったギターがコードを担当。2本のギターと、タイトなリズム隊が合わさり、バンドがひとつの生き物のように躍動します。

 10曲目「Let Me Finish」は、イントロからやや堅いサウンドのベースが、リズムを刻んでいきます。そこに、タイトなドラムが加わり、徐々に加速していく1曲。このアルバム全体を通して、ハイファイ過ぎず、臨場感のあるリズム隊のサウンドも良いです。

 11曲目「Let Me Finish」は、クリーントーンのギターと、オーバードライヴのかかったギターが、対比的に響き、サウンドに彩りをもたらしています。

 12曲収録で、再生時間は28分台。ですが、パンキッシュに突っ走るだけではなく、アンサンブルにもサウンドにも、工夫が凝らされているのが、随所に感じられる1枚です。ギターのことばかり書いてしまいましたが、リズムはタイトに、サウンドには野太さとドタバタ感のある、ベースとドラムも良いです。

 何かに似ている、と言うのは本人たちに失礼ですが、前述したようにストロークスの1stアルバムを、もう少し明るいサウンド・プロダクションで再現したようなアルバムだと思います。

 





The Offspring “Smash” / オフスプリング『スマッシュ』


The Offspring “Smash”

オフスプリング 『スマッシュ』
発売: 1994年4月8日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Thom Wilson (トム・ウィルソン)

 カリフォルニア州ガーデングローブ出身のパンク・ロックバンド、オフスプリングの3rdアルバム。1994年にロサンゼルスの名門インディペンデント・レーベル、エピタフからリリースされ、現在までに世界中で1400万枚以上を売り上げているモンスター・アルバムです。次作の『Ixnay On The Hombre』から、オフスプリングはメジャー・レーベルのコロンビアへ移籍します。

 僕はある時期まで、こうしたパンク的、メロコア的な音楽を聴いてこなかったのですが、そんな自分の価値観を壊すきっかけとなった1枚が、本作『Smash』です。一度聴いたらすぐにシング・アロングできるぐらいポップなメロディーや、疾走感のある演奏、すべての楽器がパワフルなサウンド・プロダクションなど、フックしかないぐらいのわかりやすい音楽が詰まった1作です。

 ただ、かつての僕は音楽をまともに聴く前から、その「わかりやすさ」を毛嫌いしていた部分がありました。しかし、あるときこのアルバムを聴いた時に、何にやられたかというと、デクスター・ホーランド(Dexter Holland)の声です。演奏もパワフルだし、メロディーも親しみやすいのですが、それ以上に彼の声自体が、耳に残って離れなくなりました。

 「声も楽器だ」という言い回しがありますけど、まさにデクスターの声は、バンドのサウンドの中核を担っていると思います。

 イントロダクション的な役割の1曲目「Time To Relax」に続いて、実質1曲目の「Nitro (Youth Energy)」。イントロから、これぞ90年代パンク!という疾走感あふれる演奏が展開されるんですが、デクスターの伸びやかで、倍音を豊かに含んだような、暖かみのある声が、本当に好きです。

 また、アルバムを通して聴くと、思ったよりも直線的なスピード重視の曲が続くわけではなく、バンドのアンサンブルにも随所に聴きどころがあります。

 今回は自分語りが多くなっていますが、旅行でロサンゼルスを訪れたとき、このアルバムを聴きながら散歩をしてみました。カリフォルニアはとても太陽が高く、大きいのですが、そんな風景と彼らの音楽が見事にマッチして、なるほどこういう場所ではこういう音楽が生まれるのか!と、ひとりで勝手に腑に落ちた思い出があります。